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新年祭の次の日、朝食を食べていたら、浮かれているリバーがやってきた。


「リバー、もう少し遅く来てほしいわ」


「すみません。楽しみで楽しみで」


そういえば、「タンザ様は明け方に王宮に行かれました」ってカーネが言ってたな。

お祖父様といい、リバーといい、そんなに訓練楽しみなの?


横でそわそわと待っているリバーを尻目に、ルチルはきちんと朝食を食べた。


今日から訓練場になる邸の裏庭に到着すると、突然リバーが周りを見渡しはじめた。


「あのー騎士様、壁の向こう側に2人ほどいるみたいなので、どこの誰がいるのか見てきてください」


え? 壁の向こう側?

壁なんて見えないけど?

ここ、広場! 遠くに森があるだけ!

でも、確かに公爵家は壁に囲まれている……

その壁の向こう側に人がいるってこと?


「念のため確認して来てきます」と騎士が1名、従業員出入り口がある方向に走って行った。


「リバー、どうやって分かったの?」


「簡単ですよ。私は土の魔法の使い手ですからね。地面に魔力を流して、周りを探るだけです」


「周りを探るだけって言うけど、人が立っているのが分かるってことよね?」


「はい。地面の上にある違和感。それが人なのです」


地面の上にある違和感って、なに?

分からん。


「でも、動物もいるのよ。どうして人だって分かるの?」


「熱量といいますか……感じる大きさのようなものが違うのです。ルチル様も1度やってみますか?」


「私は火なのよ。できないわ」


「やってみなくちゃ分かりませんよ。魔力操作は完璧とのことですので、足から地面に魔力を流してみてください。はい、スタート」


「え? え?」


戸惑いながらも真っ直ぐに立ち、足の裏から地面に魔力を流してみる。


ルチルは、魔力が流れるイメージを水の流れをイメージしているためか、体の中を水が流れているかのように冷たい感覚が移動していく。

寝起きに冷たい水を飲んで、胃に水が流れるのが分かる時と似たような感覚だ。


「うわっ!」


「ルチル様!」


バランスを崩し、倒れかけたところを、デュモルが抱き留めてくれた。


「これはこれは……新しい発見ですね……」


リバーの呟く声に、リバーの視線を追って、ルチルが立っていた場所を見やる。

鉄骨でも落ちたかのように、地面が窪んでひび割れていた。


「デュモル、ありがとう。立てるわ」


デュモルの手から立ち上がり、窪んだ地面の前でしゃがんだ。

反対側にしゃがんだリバーは、窪んだ箇所に手を当てている。


「魔力の痕跡はちゃんとありますね。ルチル様、地面に魔力を流した後の魔力の行き先はどうされました?」


「何も考えていなかったわ。ただ地面に流しただけ」


「どれくらい流しました?」


「普通よ。流れるままだもの」


「魔力操作は完璧なんですよね?」


「先生はそう言ってたわ。体の色んな場所に集めることができるもの」


「それだけですか?」


「え? それだけ?」


リバーが立ち上がって、悲しそうに肩を落とした。


「ルチル様、それは魔力操作の初歩です……」


「え? そうなの?」


ルチルも立ち上がり「うそだー」と落ち込む。


「すみません。リバーさん」


「なんでしょう、デュモル」


「私も魔力操作を習った時、ルチル様と同じ内容でした」


「私もです」


デュモルの横に立っている、新しくついてくれた騎士も頷いている。


「なんと嘆かわしい……そんなことだから皆さん、同じ魔法しか使われないのですね」


「それは、魔力操作によって、新しい魔法を生み出せるってこと?」


「そうです。人を探知した先程の魔法は、私が編み出したものです。

そして、ルチル様が地面を壊されたので分かりました。土の魔法の使い手とか関係なく、魔力操作ができれば誰でも土に魔力を流せるのだと」


「でもそれは、私が金だからかもしれないよ」


「んー。では、デュモル。地面に魔力を流してみてください」


デュモルが半信半疑になりながら、背中を伸ばして真っ直ぐ立った。

数秒後、足元の地面がへこみ、ヒビが入った。


「私にも流せたようです」


リバー……すごくない?

奇天烈だけど、本当に優秀な魔導士なんだわ。

すぐに、魔力操作ができれば全員探知魔法が使えるって、結論付けたんだもの。


塀の外を見に行っていた騎士が戻ってきて、地面の窪みやヒビに目を皿のようにしている。

塀の外にいた2人は塀を調べていたらしく、捕まえて騎士団に渡してきたそうだ。


「これは困りましたねぇ。ルチル様、めちゃくちゃ狙われてるみたいですねぇ」


全然困っている風に聞こえないからね。

逆に楽しそうに聞こえるよ。


「探知する魔法は便利ですので、騎士の皆様にも覚えてもらいましょう。ですので、皆様で魔力操作の特訓からですね」


リバーに、分厚い手袋とコップを何十個と水を用意させられた。

ルチルたちは分厚い手袋をして、両手で水を入れたコップを持つ。


コップが割れないように、水に波紋を浮かべさせられたら合格だそうだ。


リバーは、手袋をせずに見本を見せてくれた。

水滴が落ちた時とは逆の、丸が真ん中を目掛けて小さくなっていく波紋と、海のように一定方向から寄せてくる波の2種類だ。


「皆様の魔力操作は、止めていた魔力をただ垂れ流すだけのものです。オン、オフしかできていません。

魔力操作とは、使う魔力の量を調整できることをいいます。この2種類の波紋は、2つとも必要な魔力量が異なります。加えて、波は1箇所から魔力を流すことでできます。

頑張ってください」


「できたら呼びに来てください。それまで私の訓練はありません」と、リバーは帰って行ってしまった。


騎士たちと顔を見合わせて、それぞれコップを持った。

そして、見事に全員がコップを割ってしまう。


ゆっくり、ゆっくりと思っていても、魔力が流れたと感じたらコップが割れている。

何度挑戦しても同じ結果になる。


4人でどう魔力を流すかと相談しても、何も解決策は見つからない。

ひたすらコップを割って、1日目を終えた。


コップが勿体ないと溢すと、昼食だと呼びにきてくれたカーネがコップを直してくれた。


どうしてできるのか尋ねたら、土の魔法を使えるので物を作るのは得意とのこと。

ただ、攻撃魔法が不得手なのだという。


土の魔法すごくない? と、ルチルはただただ感嘆していた。


夕食の時間に家族にリバーの魔力操作の話をしたら、祖父と父も驚いていた。

なのに、その場で祖父と父は、コップの水に丸い波紋と波を作れたのだ。

しかも、探知魔法も使えてしまった。


「お祖父様! お父様! コツを教えてください!」


「少しずつ流すだけだ。他にはない」


そんな殺生なー……


祖父は「これは魔力の温存にもなるな。仕方がないから殿下にも教えてやろう」と、意地の悪い顔をしていた。


アズラ王太子殿下の訓練はどうだったか聞いたが、「指輪の回復魔法で回復しているから、心配しなくても大丈夫だ」と言われた。

やっぱり回復魔法で回復しないといけないくらい厳しくしているのかと、遠くを見そうになった。


その週の週末、王宮で会ったアズラ王太子殿下に「お祖父様との訓練はどうですか」と投げかけたら「やり甲斐があるよ」と笑って答えられた。


なら、何も言うまい。






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