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早足で会場に戻ると、ドアの近くでオニキス伯爵令息がルチルたちを待っていた。


「やっと戻ってきた。って、着替えてきたの? なんで?」


「オニキス様、またフロー様に言葉遣いを怒られますよ」


「今は殿下もフローもいないからいいの」


「アズラ様はどちらに?」


「頭のおかしい男爵令嬢に付き纏われて、フローが匿っている。案内するね」


「いえ。私は陛下に少し用事がありまして、後からアズラ様と合流します」


「じゃあ、俺は殿下に『ルチル嬢が戻ってきた』って伝えとくよ」


「ありがとうございます。シトリン公爵令嬢は……」


「私は父に説明してくるわ」


素早く去っていくシトリン公爵令嬢に、ルチルも急がなくてはと気合いを入れた。


オニキス伯爵令息と別れて、陛下の元に急ぐ。


陛下と王妃殿下は、みんなが声をかけやすいように、基本分かりやすい位置にいるので、ルチルもすぐに見つけることができた。


陛下と王妃殿下に「気づいてー、お願い、気づいてー」と念を送る。

他の人たちと話しているところに、さりげなく入っていくスキルは持ち合わせていないので、見つめ続けるしかないのだ。


願いが通じたようで、王妃殿下が気づいてくれ、陛下に何か囁いている。

ルチルを視界に入れた陛下は楽しそうに口元を緩め、王妃殿下と並んでこちらに歩いてきてくれた。


「陛下、ご歓談中申し訳ございません」


「いやいや、熱い視線嬉しかったよ」


「あら? ルチル、アズラはどうしたのかしら?」


「アズラ様は、例の男爵令嬢から逃げられている最中でして……」


「あの令嬢、どうにかならんもんか」


陛下が、困ったように頭を振っている。


「それでこちらに避難してきたの?」


「いえ。少々問題が発生しまして、ご報告に参りました」


「聞こう」


3人で柱の影に移動していると、両親がルチルたちに気づき側まで寄ってきてくれた。

全員で柱の陰に隠れる。


「ルチル、ドレスが変わっている。何があった?」


「それが、シトリン公爵令嬢のドレスに何かの液体がかけられていまして、それに触れたら……こうなりました」


手袋を外して爛れた指を見せると、母から悲鳴のような息が漏れた。

父たちの表情は険しくなっている。


「シトリン公爵令嬢は無事なのか?」


「はい。怪我はしていません。シトリン公爵令嬢だけがお召し替えするのも変に目立つかなと思いまして、私も一緒に着替えました。シトリン公爵令嬢が着ていたドレスはカーネに預けています。シトリン公爵令嬢はナギュー公爵に伝えに行っています」


「分かった。ドレスにかかっている液体は、後で調べよう。ルチルは早く指を治しなさい。いや、辛いと思うがそのままで。もしかしたら、ナギュー公爵に見せないといけないかもしれない」


「はい」


「私たちは宰相に会ってこよう。ルチル、両親の側から離れるんじゃないぞ」


「はい、陛下」


「そこはお義父様と言ってくれないと」


「陛下。冗談を言ってないで、早く行ってください」


「アヴェートワ公爵は相変わらず冷たいな」


やれやれと肩をすくめながら両陛下は離れていった。


両親にも「殿下は?」と問われ、男爵令嬢に追いかけられていることを話した。

両親も、さっきの陛下と同じように頭を振っている。


「とりあえず、手当てをしてもらいにいこう」


「分かりました。包帯を巻いたら治しても問題なさそうですね」


「いや、どんな怪我かを見て、液体を特定するかもしれないからな。そのままで」


「分かりました」


「ルチル!」


移動しようとした所で、アズラ王太子殿下がやってきた。


「アズラ様、ご無事でよかったです」


「僕のことなんてどうでもいいの。どうしてドレスが変わっているの? シトリン公爵令嬢と何があったの?」


「殿下、歩きながら説明します。よろしいですか?」


「今すぐ知りたいけど我慢するよ」


迷いなく会場を後にすると、アズラ王太子殿下が不思議そうに首を傾げながら問いかけてきた。


「え? どこに行くの?」


「医務室です」


「ルチル! どこか怪我したの!? シトリン公爵令嬢にされたの!? 大丈夫!?」


「殿下、落ち着いてください。というか、デュモル。聞きたかったんだが、なぜルチルが怪我をする前に止めなかった?」


「お父様。デュモルには、部屋の前での警護をお願いしましたの」


「そうか。今回は仕方ないが、次からは何が何でも側にいろ。分かったな」


「はい」


あー、デュモルごめん。

お父様がここまで怒るとは……怖いよね。

顔真っ青になってるよ。ごめんねぇ。


父が、先程ルチルが話したことを、アズラ王太子殿下に説明してくれた。


「犯人の狙いは新年祭の失敗?」


「どうでしょうか。シトリン公爵令嬢個人を狙った可能性もあります。それに、何の液体なんでしょうね。ドレスは溶けず、皮膚が溶けるとは」


「ルチルが言ったように毒の可能性もあるよね」


「そうですね。何が狙いなのか分かりませんが、ナギュー公爵が娘から『どう行動していたのか?』『誰かとぶつかっていないか?』『誰と話したか?』等聞いているでしょうから、後で情報提供してもらいましょう」


結局、怪しい人物すら見つからず、新年祭は幕を閉じた。


シトリン公爵令嬢のドレスは、ナギュー公爵家で調べると言うので渡している。

ルチルの指は、指輪の回復魔法に頼らずとも、薬で綺麗に治った。






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― 新着の感想 ―
[一言] どこかで読んだ少年漫画みたいに、ラッキースケベを誘発するドレスだけ溶かす液体とか、この世界にはあるかも?なんて考えましたが、その逆となると悪意しか感じません。 ちょっぴりサスペンスな雰囲気…
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