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「あなた、力強すぎるわ……本当どこに行くのよ?」


「控え室ですわ。デュモル、カーネに『新しいドレスを2着持ってきてほしい』と伝えてきて」


「ルチル様の側から離れられません」


「そうだったわ。仕方ないわね。一緒にカーネのとこまで行きましょう」


またシトリン公爵令嬢の背中を押して、歩き出した。


「押さなくても、もうついていくわよ」


あれ? 意外に素直?


まさかね。


侍女の待機部屋に行き、カーネに「部屋からドレスを2着持ってきてほしい」と伝え、控え室に向かった。


デュモルには、部屋の前で待機を命じている。

嫌がられたが、カーネが来たら着替えるのだ。

外にいてもらわないと困る。


到着して早々にシトリン公爵令嬢がソファに座ろうとしたので、ルチルは腕を引っ張って止めた。


「もう! 一体、何なのよ!」


「ごめんなさい。でも、もしかして月のモノがもう始まっているんですか?」


まだ10才だ。

早いと思うが始まっていてもおかしくはない。


「月のモノ? なにそれ?」


「あー、えっと、月経です。女の体になりましたよってサインの」


可愛らしく首を傾げていたシトリン公爵令嬢が、真っ赤になった。


細いし小さいし、話さなければ守ってあげたくなる美少女よね。


「ま、まだよ!」


「そうですか。では、後ろに付いているものは何でしょう?」


「え? 何か付いてるの?」


「はい。赤いドレスに水っぽい何かが。目立たないけど、よく見ればちゃんと分かりますわ。なにこれ?」


「ちょっと! お尻を嗅ぐのやめてよ!」


「ごめんなさい」


何も匂いがしないなぁ。

敢えて言うなら、石鹸の香りぐらい?

でも、新しいドレスだと思うのに洗ったような匂いがする?

ただ単に水なのかな?


シトリン公爵令嬢は見えないのに、必死に見ようと体を捻ってる。


「あ! 何か分からないのに触るのやめ……ちょ! ちょ! このバカ!」


「あー……心配されなくても大丈夫です。ちょっと爛れただけです」


「どこがちょっとよ! 早くお医者様呼ぶわよ! って、何笑ってるのかしら?」


「シトリン公爵令嬢は、私が嫌いなはずなのに心配してくれるんだなぁと思いまして」


シトリン公爵令嬢の顔が青から赤に変わっていき、横を向かれてしまった。


「べ、別に嫌いじゃないわよ。ス、スイーツ作れるのも凄いと思ってるし。アズラ様の婚約者だからムカつくだけよ」


小声で早口で捲し上げられた。


「そうでしたか。でも、婚約者の座は譲れません。すみません」


「譲れなんて言わないわ。私の魅力でアズラ様を振り向かせるのよ」


なるほど。

確かに嫌味は言ってくるけど、何かされたことはない。

集団で陰口言ってる令嬢より、ずっと真っ直ぐだわ。


「では、1つご忠告です」


「何かしら?」


「我儘は嫌われますよ」


「それは……ジャスに注意されたわ。だから、直すよう努力しているところよ」


え!?

あの無口で、何度お茶会をしても「うまい」しか言わない、あのジャス公爵令息に!?

しかも、我儘を直す努力中!?


無口なジャス公爵令息に言われたから、真剣に受け止めたってこと?

2人は仲がいいってこと?


「そんな事どうでもいいのよ! 早くお医者様を呼ばなきゃ!」


ドアがノックされ、カーネが入ってきた。

ドレス2着とアクセサリーが入っているだろう箱を、カートに乗せて持ってきている。


「あなた、お医者様を呼んできて!」


「お医者様ですか?」


「カーネ、呼ばなくていいわ。大事にしたくないの」


「何を言ってるのよ! 怪我したのよ!」


側に来たカーネがルチルの爛れた指を見た瞬間、悪鬼のような形相をして部屋のドアを開けた。


「うわ! いたっ! なんだ? なんで殴られた?」


「お嬢様の騎士失格よ!」


「いたっ!」


カーネが部屋に戻ってきて、さっきの悪鬼は見間違いだったかと胸を撫で下ろした。


「お嬢様、痛くありませんか? お医者様は本当に必要ありませんか?」


「大丈夫よ。それより手袋はあるかしら?」


「はい。念のため、一緒に持ってきております」


さすがはできる侍女!


「あなたたち、何を言ってるの? どうして手当てしないの?」


「シトリン公爵令嬢、王宮の新年祭を失敗させることはできません。ただでさえ、あんな始まり方でしたのよ。これ以上の騒動は王家の威厳に関わりますわ。

とは言え、誰かがシトリン公爵令嬢のドレスにかけたということ。まだ持っていれば危険ですし、料理にかけられたら毒になるかもしれません。早く着替えて陛下にお知らせしませんと」


「あなた……そこまで国のことを考えてるの……」


「いいえ、違います。私が考えているのなんてアズラ様の笑顔を守ることだけですわ。新年祭が成功しませんと、アズラ様のお顔が曇ってしまいますもの」


あの天使スマイルを守ることが、生まれ変わった使命なので。


シトリン公爵令嬢が大きな、それはもう大きな息を吐き出した。


「分かったわ。早く着替えるわよ」


カーネに手伝ってもらい、素早く着替えた。

ドレスに合わせてアクセサリーも変える。


ルチルは、手袋をして怪我を隠した。

今、回復することはできない。

シトリン公爵令嬢に治せることがバレたら困るからだ。


シトリン公爵令嬢のドレスは物証として、カーネが持っていてくれることになった。






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