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ルチルとアズラ王太子殿下は、すぐにスピネル男爵令嬢から距離を取り、柱の陰に隠れた。
「ルチル、大丈夫? どこも怪我してない?」
「大丈夫です。アズラ様こそ怪我していませんか?」
「僕は大丈夫。はぁ、ルチルに怪我がなくてよかった」
「心配をしてくれて、ありがとうございます」
「ううん。ルチルに怪我がなくて本当によかったよ。父上たちのところに戻ろう。みんなが挨拶にやってくる」
「はい」
例年通り王族へ挨拶する順番は、今年もアヴェートワ公爵家から始まる。
両親は、2人が柱の陰に隠れたことに気づいていて、挨拶を遅らせてくれていた。
両陛下の元に戻ると、すぐに両親が挨拶に来て、一瞬で去っていった。
陛下が「年々アヴェートワ公爵の挨拶が短くなっているのは気のせいか?」と呟いていた。
今年もナギュー公爵夫人とシトリン公爵令嬢には睨まれ、ルチルは「変わらない2人に逆に安心するわ」と思っていた。
伯爵家までの挨拶が終わり、ルチルたちは両陛下と別れて会場を歩くことになる。
もちろんルチルたちが向かうのは、スイーツが飾られている机。
軽い足取りで現れたオニキス伯爵令息が、肩を並べて一緒に歩き出した。
「いやー、今年は開始からパンチありましたねぇ」
「笑い事じゃないから」
「笑い事じゃなかったら、ただの恐怖体験ですよ。いつの間にか殿下の婚約者が代わっている。または、いつの間にか殿下に兄弟ができているんですから」
「父上が否定していたよね」
「俺に怒らないでくださいよ。怖い怖い」
スイーツの机に到着し、ルチルは気持ちを和ませるためにチョコレートから食べはじめる。
アズラ王太子殿下はシュークリームを選んでいて、オニキス伯爵令息はフルーツタルトをお皿に乗せている。
「ルチル嬢。次の新作っていつ出るんですか?」
「作りたい物は昨日思いつきましたから、早くて半年後くらいだと思います」
「焼き菓子ですか? そろそろ焼き菓子の新作食べたいなぁって思ってるんです」
「残念、チョコレートの新作です。ですが、焼き菓子の新作はここ数年出していないですね。何か考えてみます」
「やった! ありがとうございます!」
頑張るのは魔導士の人たちだからね。
案だけ出しとこう。
と言っても……
作り方を知ってるお菓子って、後何が残ってるんだろう?
「ルチル様、新年明けましておめでとうございます」
声をかけられ横を見ると、アンバー公爵令嬢が綺麗にお辞儀をしていた。
「アンバー様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますわ」
「こちらこそです! よろしくお願いいたします!」
サッと距離を詰められ、手を握られた。
いつ会っても眩いばかりの笑顔だ。
「アンバー嬢、僕にはないのかな?」
アズラ王太子殿下にルチルと繋いだ手を解かれたアンバー公爵令嬢が、不満げに目を細める。
「殿下とよろしくしますのは、ルチル様への裏切りになりますわ」
「君が僕によろしくしないのは、それが理由な気がしないけどね」
そこへフロー公爵令息が笑いながらやってきた。
アズラ王太子殿下とアンバー公爵令嬢の会話を聞いていたのだろう。
フロー公爵令息は、ちゃんとルチルとアズラ王太子殿下に挨拶をした。
「金色と聞きました時はビックリしました。神殿の方でも何の魔法か分からないんですよね?」
「そうなんです。ですので、先に魔法に慣れるために火の魔法を練習してから、色々試してみることになっています」
「まだ何にも分からないってことは、金色は珍しくても大したことない魔法かもしれないわね」
出たな、シトリン公爵令嬢!
「はい、そうですね。大したことない魔法だとしても、ちゃんと練習して扱えるようになりたいと思っていますわ。魔法が2属性出たことは素晴らしいことですから」
「私だって2属性出たわよ! それに、アズラ様は3属性なのよ! アズラ様、おめでとうございます」
アズラ王太子殿下に擦り寄ろうとして、後退りされている。
横目でシトリン公爵令嬢を見て「毎回、ドレスも髪型もお化粧も気合い入っててすごいなぁ。女子力高くて感心するわ」と吐きそうだった感嘆の息を飲み込んだ。
「シトリン公爵令嬢、あの、私と2人っきりでお話ししませんか?」
「は? 嫌よ。どうして私が、あなたと2人で話さなきゃいけないのよ」
「そうですか、分かりました。シトリン公爵令嬢は尻込みして逃げられると」
「ちょっと待ってよ。どこから尻込みして逃げるなんてことになったのよ」
「私と2人で話すのは怖いってことですよね?」
「違うわよ! いいわ、2人で話しましょう」
ふふ、チョロいわー。
「ルチル、2人で何を話すの?」
「それは、女の子だけの秘密ですわ。殿方のアズラ様には教えられません。少しの間、席を外させていただきますね」
シトリン公爵令嬢の背中を押して、「ちょっとどこ行くのよ!?」という抗議を無視して会場から出た。
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