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話し合いが終わり、ルチルたちはアヴェートワ領にある本邸へ戻った。
夜にアヴェートワ公爵家本邸のダンスホールで、洗礼で魔法をあらわせることができた家族を招待して、お祝いをするのだ。
邸へ戻ると、リバーは「また明後日ですー」とアヴェートワ領地内にある魔導士寮に帰って行った。
祖父と父は、サーぺに「騎士団長と副団長を呼んでくるように」と言い、祖父の執務室へ向かった。
ルチルは部屋に戻り、夜のパーティーのために湯浴みをする。
お湯に浸かった時に「あああああーはぁー」と酔っ払いのおっさんのような声を出して、カーネに「お疲れ様でした」と労われた。
「頭がパンクしてるよ」
「はい。私もです」
「だよね。あー、いちごチョコ食べたい! あぁ、でも魔道具作ってもらわなきゃ無理か……」
「いちごのチョコなら簡易冷蔵庫にあると思いますよ」
「そのいちごのチョコじゃなくて、いちご丸ごとチョコのこと」
「丸ごと? 何が違うのですか?」
「ピンクのチョコじゃなくて、本当にいちごそのまんまってこと」
「オランジェットみたいなものですか?」
「近い! いちごのドライフルーツにホワイトチョコを染み込ませるの」
「染み込むんですか?」
「染み込ませる魔道具が完成すればね」
前世で売ってたからね。
いちご丸ごとチョコ大好きだったんだよねぇ。
同じくらい大好きなオランジェットは去年完成したからね。
いちご丸ごとチョコも、きっと出来るはず!
フリーズドライの魔道具と、染み込ませるための加圧の魔道具作ってもらおう!
スイーツのこと考えてたら元気出てきた。
なるようにしかならないんだから、気合い入れて、金色の魔法が何なのか色々試してみよう!
それに、本当に魔獣従わせられたらカッコよくない?
可愛い子とかいるのかな?
可愛かったらペットとして飼いたいなぁ。
ルチルは大切なことを忘れている。
光の魔法の使い手キャワロール男爵令嬢は王太子妃を狙っているのだ。
新年祭は嵐の予感しかない……
ルチルの湯浴みが終わり、パーティー用のワンピースに着替えた。
ドレスの方がと言われたが、平民の家族も来るのだ。
仰々しすぎると折角のお祝いなのに楽しめなくなるだろうと、ドレスを着る選択肢は全く無かった。
時間になり、ダンスホールに行くと、既に各家族が集まっていたようで色んな所で談笑が起きている。
ルチルは周りを見渡し、平民の家族2組が一緒にいるのを確認した。
端っこにいる姿にスイーツを持って近づいてみようかと考えていると、弟が花束を持って現れた。
「お姉様、おめでとうございます」
「ミソカ、ありがとう。とても綺麗な花束ね」
照れたように笑う弟が可愛くて、頬にキスした。
弟からも頬にキスを返してくれる。
弟のお祝いの言葉を皮切りに、周りから次々に挨拶をされる。
アヴェートワ領地に住んでいる貴族は多い。
広大な土地だから大きな家も建てやすいし、アヴェートワ商会で働いている、またはアヴェートワ公爵家の騎士団に入っている人がほとんどだ。
挨拶以外にもお祝いの言葉に商品のこと等を話していると、一組一組が長い。
やっと挨拶が終わったと思ったら、側にいたはずの弟の姿はなかった。
「デュモル。ミソカはどこに行ったのかしら?」
「ミソカ様でしたら、あちらで少し揉められているようです」
はい? 揉めている? ミソカが?
「どうして平然としているの?」
「ミソカ様なら、そろそろ問題を大きくされると思いますので」
その時、会場内に弟の泣き声が響いた。
「言った通りになりましたね」
「はぁ……行くわよ」
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