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次の日からも祖父と一緒に領地を見て回って、充実した日々を過ごしていた。


「ルチル、今日辺りタウンハウスに戻りましょうか」


朝食時、フルーツを食べている時に言われた。

領地に来て1週間は経っている。

そろそろ言われるかなと思っていた。


「……いやでしゅ」


「そうだ、そうだ。ルチルは領地が気に入っているんだから、戻らなくてもいいじゃないか」


さすがお祖父様、強い味方だわ。


「あなたはルチルに甘いんだから」


「確かにそうだろうが……」


認めちゃうんですね。


「ルチルはこっちにいる方が楽しそうだろう。こんなにも笑う子だと分かって、私は嬉しいんだよ」


「それは……そうですけど。でも、淑女教育も休んだままですし」


ここは、ずっと秘密にしていたアレを投入する時だわ!


フォークを置いて、悲しそうな顔で俯いた。


「どうした、ルチル」


お祖父様、お祖母様、ズルい孫でごめんなさい!


「しゅくじょきょーいく、いやでしゅ」


「あらあら、どうしたの? 真面目に取り組んでいると聞いていたわよ」


「……いたいから、いやでしゅ」


「痛い? 一体、何が痛いんだ?」


「……たたかれりゅでしゅ」


あれ? なんだか急に暑くなったような……


恐る恐る顔を上げると、炎を背負った祖父が般若と見間違えるほどの顔をしていた。

怖すぎて涙が出てくる。


「抹殺だな」


「恐ろしいこと仰らないでくださいな」


「一族抹殺しかありえん」


「いいえ、あなた。そんな恐ろしいことはせずに、奴隷に落としてしまえばよろしいのですわ」


ひゃ! 抹殺も奴隷も恐ろしいことですよ、お祖母様!

叩いてくるクソババアはどうでもいいけど、その家族は許してあげてください。


「おじーちゃま……シトリンおじょーちゃまとは、どなたでしゅか?」


ずっと気になっていたけど聞けなかったのだ。


叩かれる度にため息混じりに「シトリンお嬢様は優秀でいらっしゃるのに」と言われていたが、当然誰かは分からずにいた。


「シトリンはナギュー家の娘だ。たしかルチルと同じ年だったか。その娘がどうかしたのか?」


「たたかりぇるときに、なんどもいわれたでしゅ……シトリンおじょーさまはゆうしゅうなのにと……」


お、おおお、般若通り越して鬼がいる……

でも、その鬼より怖いお祖母様……微笑んでいるだけなのに怖いって、どういうことでしょうか……


「大体は分かった。ナギュー家はというか、シトリンが『王妃になりたい』と言っていると人伝で聞いてはいたが……ルチルが可愛すぎて蹴落としにきたんだな」


「あなた、ナギュー家どうしましょうか。ねぇ」


本当に怖いです……お祖母様……


それにしても、3才で王妃になりたいって思うもんなのかなぁ?

貴族社会って、そんなもんなのかな?

あたしは絶対の絶対にお断りだけどね。


「関わっているかどうかは分からんからなぁ。ナギュー家は放っておけばいいだろう。王妃になりたいのなら頑張ればいい。家庭教師の家は壊すがな」


家を壊す……路頭に迷うんだろうな……

可哀想だけど、公女虐めたら駄目だよね……


「そうね。四大公爵家の争い事なんて面倒なだけですものね」


「今回の件は、私からアラゴたちに伝えよう」


「そうしていただけますか。それと『新しいまともな家庭教師を探すように』と伝えてくださいね」


「おばーちゃまでは、だめでしゅか?」


2人が目を瞬きながらルチルを見てきた。

祖父が両腕を組んで考えている。


「いいんじゃないか。私は適任だと思うが」


「モリオン様は、社交界では知らぬ者がいないほどの高嶺の花でしたからね。私も適任だと思いますよ」


高嶺の花、納得。

今だって美魔女なんだから、若かりし頃なんて「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」だと思うもの。


「では、マナーは私がルチルに教えますね。ですが、勉強の方はどうしましょう?」


「私が教えよう」


お祖父様が! やった!

お祖父様の話は分かりやすいから、きっと勉強も分かりやすいはず。


「これで、タウンハウスに戻る理由はなくなったな」


祖母が、困ったようにため息を吐き出した。


「泣くほど嫌なことが向こうであったんだ。こっちでゆっくりするのはいいことだろう」


泣いたのは、お祖父様とお祖母様が怖かったからですよ。


「アラゴに何を言われても知りませんからね」


「会いたいなら、あいつが会いにくればいい」


ごめんなさい、お父様。

もちろんお父様には会いたいけど、領地の生活の方が楽しいんです。


物理的に王宮から離れられるという利点を置いておいても、タウンハウスでは家の中と庭しか移動できなかったのに、領地では馬で色んな所に行けるんです。

外最高なんです。


それからは、マナーを祖母に教えてもらい、領地を見回る移動中に祖父からトゥルール王国や近隣諸国の話を聞いたり、近隣諸国の言葉を習ったりした。

読み書きや計算などは追々でいいそうだ。


なんだかんだと過ぎていった1ヶ月の中で、両親が何回か来て「一緒に戻ろう」と言われたが、ルチルは頑なに首を縦に振ることはなかった。

両親の寂しそうな顔に、心の中で何度も謝っていた。






初回投稿はここまでとなります。次回からルチルが少し動く予定です。

(シトリンは秋が誕生日ですので、この時点では2才です。同じ年と聞いたルチルが現時点で3才なのです)

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