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「金色……」
「王太子殿下、正解です。私としては、魔物を従わせるが1番可能性高いと思うんですよねぇ。金が作れるなんて、そんな簡単に導き出される答えなんて面白くないですし、自然災害ではありませんから。魔物は自然に発生すると言われています。自然現象で自然災害ということです。ほら、他の魔法に共通するでしょう」
ドヤ顔で言われても、誰もが首を縦に振りたくない。
「ですので、これは金を作れるよりも知られては困ることですね。世界征服できちゃいますから。何が何でもルチル様を欲しいって奴ら出てきますね」
そんな陽気に言われても困るよ、リバー……
「ルチルの警備を見直そう」
「それはやめた方がよろしいかと思います、陛下」
「どういうことだ?」
「警備を厳重にすればするほど、金色の可能性を深く考える者が出てきます」
「今日、神殿でシャーマ・トゥルールと同じだと言われたんだ。警備を厳重にしたところで神殿に渡したくないと思われるだけだ。警備を薄くしてしまって大切にしていないと思われても困る。アズラと同じ3人にしよう」
「うーん……どう思われます? タンザ様にアラゴ様」
「あまり多くつけたくないと思うが、ルチルの安全のためには必要だろうと思っている」
「私も父と同じ意見だ。デュモル」
「はい。何でございましょう」
部屋の端に居たデュモルが、一歩前に出た。
「お前は力でルチルの護衛を勝ち取ったから、ルチルに害をなさないと信用している。お前から見て、何か隠されても疑問に思わず、何があっても絶対に口を割らない騎士は後2名いるか?」
「団長と副団長、それに四天王の方々かと思われます」
「団長と副団長を抜くことは難しいな。それに、四天王もお前が既に抜けている。後2人引き抜くのは騎士団のバランスを考えると難しいか」
ええ!? デュモルって四天王の1人だったの?
というか、アヴェートワ騎士団に、四天王て呼ばれる人たちがいるってことだよね。
二つ名とかあるのかな? 中二病がくすぐられるわ。
「こちらから2名出そう」
「いえ。信用していないわけではありませんが、アヴェートワの騎士から出します。ルクセンシモン公爵に何か言われる方が困ります。四天王から2名出します」
「わかった。アヴェートワ騎士団だけで難しいことがあったら、遠慮なく相談してくれ。国の騎士団を惜しみなく出すからな」
「ありがとうございます」
「あの!」
ずっと静かに話を聞いていたアズラ王太子殿下が、声を上げた。
「アヴェートワ公爵にお願いがあります」
「ルチルは王宮に住まわせませんよ」
「え? いや、住んでもらえたら嬉しいけど、そういう話ではなく……」
「何でしょうか?」
「僕に剣術を教えてください。お願いします」
アズラ王太子殿下が、座りながらだが頭を下げた。
一国の王太子が頭を下げたのだ。
「殿下、頭を上げてください」
「うんと言ってくれるまで上げないよ」
「申し訳ございませんが、了承しかねます」
「お願いだ。僕を鍛えてほしい」
「私としても殿下を鍛えたいのは山々です。他の者たちだと殿下に遠慮することもあるでしょうから」
「だったら!」
「しかし現実問題、定期的に殿下にお教えできる時間が私には無いんですよ。1回だけなら可能ですが、訓練は毎日するべきなんです。強くなりたいのなら尚更。だから、私には無理なんですよ」
「時間が空いた時に、少しでもいいから教えてくれ。時間は僕が全て合わせる」
「殿下。殿下が私に合わせるのは無理ですよね。ちゃんとご自身のタイムテーブルを把握されていますよね」
「けど! ルクセンシモン公爵が言っていたことを思い出したんだ。アヴェートワ公爵にだけは勝ったことがないと。国一強いと言われているルクセンシモン公爵が言うんだ。どんな事をしても時間は合わせる! ルチルを守れるよう強くなりたいんだ! お願いします!」
あれ? なんだか視界がボヤけてきた……
ああ、アズラ様の強い気持ちが胸に刺さったから、苦しくて痛くて涙が出てきたのね。
あたしなんかのために、必死で頭を下げてくれるなんて……
泣かずにいられない……
「仕方がない。殿下、アラゴではなくて申し訳ございませんが、私がお相手いたしましょう」
アズラ王太子殿下が、驚きで顔を勢いよく上げた。
アズラ王太子殿下の瞳にも涙が溜まっている。
力がないことが悔しくて仕方がないのだろう。
「父さん……駄目ですよ。殿下を殺す気ですか」
「何を言う。お前が無理だから提案してるだけだろう」
「殿下、父だけは駄目ですよ。私が何回意識不明になったことか」
「もうあの頃の力はない」
「嘘吐かないでください。この前、騎士団を鍛えるとか言って半殺しにしていたじゃないですか」
デュモルが、大きく頷いている。
だが、それらの話はアズラ王太子殿下には些細なことなのだろう。
「いいのか、アヴェートワ前公爵……」
「私は、殿下がよろしいならいいですよ。私が殿下を鍛えましょう。ただ、弱音を吐いたら即終了いたします。いかがですか?」
「弱音など絶対に吐かない。僕を強くしてください! よろしくお願いします!」
「はい。魔法での戦い方も私が教えましょう」
父の顔が引き攣っていて、デュモルがアズラ王太子殿下を可哀想なものを見るような目で見ている。
「アヴェートワ前公爵よ、アズラは王太子だからな」
「陛下、分かってますよ。それに死ななければ問題ありませんよ」
お祖父様……それは、瀕死までは容赦なく痛めつけるということですか?
指輪で回復できるとはいえ、そこまではしないでくださいね。
そろそろ話も落ち着いてきたかなと思った時、ドアがノックされた。
デュモルがドアを開けると、王宮の侍従が陛下に伝言があると、用件を書いた紙をデュモルに渡している。
受け取ったデュモルが、陛下に手紙を差し出した。
手紙を読んだ陛下から、今日何度目か分からない深いため息が漏れる。
「どうされました?」
「宰相からだ」
祖父と父が、眉間に皺を寄せる。
親子だなぁとルチルは思った。
「どこから聞いたのか分からないが、白と金が現れたことを知ったようだ」
「話し合いを始めて結構な時間が経っていますからね。ナギュー公爵なら知ってもおかしくありません」
「知ったことはどうでもいいんだ。宰相には知らせないといけないことだったしな」
「では、何に頭を抱えているのですか?」
「慣例では、光の魔法の使い手が出たら新年祭でお祝いをするそうだ。それで今回は、金色のルチルと白色のキャワロール男爵令嬢のお祝いをするのか? するのであれば、元々の招待客にキャワロール男爵家は入っていないから、すぐに招待状をという内容だ」
「あの娘、キャワロールというのですね。キャワロール男爵家……聞いたことありませんね……」
「宰相が調べているな。当主はブルヴァンス侯爵家のタウンハウスで侍従として働いているそうだ」
「ブルヴァンス侯爵が雇うなら、思っているよりマシな親なんでしょうね」
「まぁ、どんな奴らだとしても祝わないわけにはいかないからな。招待状を送る手配は宰相に任せよう」
デュモルが、頭を下げて部屋から出て行った。
部屋の前で待っている手紙を持ってきた侍従に、返事を告げに行ったのだ。
「僕は、お祝いしたくありませんけどね」
「私もだよ。あんなにマナーがなっていなかったんだ。新年祭で何も起こらなければいいがな」
明日は新年祭なので、アズラ王太子殿下の訓練は明後日から毎日午前中になり、ルチルの訓練も同じように明後日から毎日午前中に行うことになった。
ただルチルだけは、週末王太子妃の勉強があり、休憩も必要だろうからということで、今まで通り日曜日は1日お休みになった。




