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神殿での洗礼を終え、王宮に戻った。

父が「妻をタウンハウスに送り届けたら、父と一緒に戻ってきます」と言い、急ぎ足で母と帰って行った。


ルチルは、両陛下とアズラ王太子殿下と一緒に応接室に向かう。

今まで少し距離を保っていたデュモルは、近衛騎士たちに遠慮せずにルチルの近くを陣取っている。


応接室に着き、ようやく一息吐くことができた。

やっと肩から力が抜けたような気がする。

それは両陛下とアズラ王太子殿下も同じだったようで、強張っていた顔がいつもの穏やかな顔に戻っている。


チャロがお茶を淹れてくれて、1口飲んだ。

温かいお茶が、張り詰めていた体や心を緩ませてくれる。


「金……金色に光ったんですね……」


「ルチルは見ていないの?」


「はい。何色に光るのかが怖くて、目を閉じていました」


「では、見たのはアヴェートワ公爵と神官だけなのだな。渦の巻き方によって力の強さが違うんだよ。アヴェートワ公爵が戻ってきたら聞いてみよう」


頷いてからお茶をもう1口飲んで、大変なことに気づいた。

アズラ王太子殿下に3つも属性が出たお祝いを言っていない。


「アズラ様!」


「びっくりした」


「あ……大声を出して申し訳ございません」


「ううん、気にしないで。どうしたの?」


「魔法属性3種類、おめでとうございます。とても素晴らしいです」


「ありがとう。3つも出て嬉しかったけど、欲を言えば後2つも欲しかったなぁ」


「アズラが欲深いとは珍しいな」


「それ、ルチルにも言われました。僕は誰にも負けないくらい強くなりたいんです。父上、明日からの剣術と魔法の稽古は、騎士団長自らにお願いすることは可能でしょうか?」


背筋を伸ばして真っ直ぐに陛下を見つめるアズラ王太子殿下に、陛下は真剣な顔をしている。


「ルクセンシモン公爵に聞いてはみるが、アズラにはアヴェートワ公爵の方が適任のような気がするな。だが……2人はこの上なく忙しいからな。難しいかもな」


お父様は、確かに忙しいんだよね。

2~3時間いないと思ったら30分くらいは側にいて、またいつの間にかいなくなっている。

隙間時間しかないから、アズラ様と時間を合わせるのは難しそう。


唇を噛み手が白くなるほど握りしめているアズラ王太子殿下に、王妃殿下が微笑みかける。


「アズラ、あなただけが気負う必要はないのよ。みんなで考えればいいの」


「……はい、母上」


「3属性おめでとう。今日の夜はスイーツパーティーをしましょうね」


「……はい、ありがとうございます」


うーん……

アズラ様が強くなりたい理由って、もしかしなくてもあたしを守るため……だよね?


お父様が言ってたから、神官は本当にあたしに掴み掛かったんだろう。

みんなの前で物理的に捕まえようって、どういうつもりだ。浅はかすぎる。

お父様と一緒にいてよかったよ。


陛下が釘を刺してくれたから大丈夫なような気がするけど。

陛下の「神子かどうか分かったら話し合おう」というのは、「神子かどうか分かる前に手を出すと、どうなるか分かっているな?」ということ。

いくら敵対していても、あからさまに手を出してこないだろう。

神殿が軍隊を持っていない限り、王家が勝つんだから。


アズラ王太子殿下に何か声をかけようとした時、ドアがノックされた。

チャロが開けてくれ、父と祖父とアヴェートワ公爵家で雇っている魔導士が入ってくる。


「この者は、アヴェートワ家で雇っている魔導士の中で研究色が強い者になります。名は、リバー・リュリュシュ。

どういう繋がりがあったかは分かりませんが、リュリュシュ侯爵家にはシャーマ・トゥルールの手記があり、その手記は今リバーの手元にあります。有益な意見が出るかもと思い連れてきました」


「紹介に与りましたリュリュシュ侯爵家、リバー・リュリュシュと申します。両陛下と王太子殿下にお会いでき、光栄でございます。侯爵家は兄が継いでいて、私は家を出ておりますのでリバーとお呼びください。

研究に明け暮れている時にタンザ様に拾っていただきました。この命をもって、この場でのこと、王族の皆様とアヴェートワ公爵家に迷惑がかかるだろうことは口外いたしません」


リバーってリュリュシュ侯爵家だったの!?

名前しか知らなかったからびっくりした。

年の離れた奇天烈なお兄さんくらいに思ってたけど……

侯爵家……家名を名乗らなかったのって、家と仲が悪いのかな?


陛下がリバーの言葉に頷き、祖父たち3人は空いているソファに並んで座っている。

チャロが、全員分の新しいお茶を淹れてくれた。


「リバーよ。早速で悪いが、金色の魔法について何か知っているか?」


リバーが驚愕している。

顎が外れそうなほど開いてしまった口を、顎を下から押して戻している。


「陛下、申し訳ございません。父には簡潔に説明していますが、リバーにはまだ話しておりません」


「簡潔と言っても、ルチルが『竜巻のような渦を巻いた金色だった』ということしか聞いていませんがね」


「時間がなかったんです」


リバーが、勢いよく立ち上がった。


「ルチル様! 金色だったんですか!? 天才だと思っていましたが、めちゃくちゃ素晴らしいじゃないですか!」


両手を広げて近づこうとしてくるリバーを、祖父がリバーの服を掴んで止めている。


「リバー、落ち着け。どうしてお前はこうも落ち着きがないんだ」


「はは、すみません」


「とにかく座れ」


祖父に服を強く引っ張られ、リバーは転げるように腰を落とした。


「そんなに喜ぶということは、金は何の魔法が使えるんだ?」


「知りません」


リバー以外の全員の目が点になる。


「おい、あんなに喜んだのに知らないだと?」


「はい、知りません。金色は初めての色ですから新発見で喜んだだけです。新発見。素晴らしい響きです」


見た目は好青年なのに奇天烈。それが、リバーなのだ。


「金色は初めてと言ったか? 神官はシャーマ・トゥルールが金色だったと言っていたぞ」


「陛下、それはありません。シャーマ様の時代に鑑定玉はありませんでしたから。シャーマ様が何色に光らせることができるかは、誰にも分かりません」


あの場で、あの神官は咄嗟に嘘を吐いたの!?

神に仕える人がサラッと嘘を……神殿、本当に嫌だ……


「そうか。それを証明できるものはあるのか?」


「難しいですね。鑑定玉ができたのは建国暦800年頃、洗礼が始まったのは850年頃とされていますが、歴史書に載っているわけではありませんから。神殿が創立時から持っていたと言い切れば、そうなってしまいます」


陛下が、大きなため息を吐いた。






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