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え? 光? 光の魔法の使い手が出たの?
頭が真っ白になり、手が震えてくる。
自分で自分の手を握りしめようとした時、隣から手を握られた。
横を見ると、アズラ王太子殿下が優しく微笑んでいる。
あれ? あたし、何に対して不安になっているんだろ?
光の魔法の使い手が出ただけじゃない。
足元に影ができたので前を向くと、白銀の髪の毛の女の子が頬を上気させて立っていた。
髪の毛の色で、玉を白く光らせた男爵令嬢だと分かった。
瞳の色は珍しい黄茶色をしている。
「アズラ王太子殿下、私、白色に光らせることができました! 私、アズラ王太子殿下と結婚できるんですよね! とても嬉しいです!」
結婚? え? 何を言ってるの……この子……
確かに光の魔法の使い手は、王宮か神殿のどちらかに行かなければならないけど……
そうか……王宮になると、アズラ王太子殿下の妃になるのか……
あたしはもうオタ活ができないの? 推しに会えなくなるの?
悲しくなり、握ってくれているアズラ王太子殿下の手を、強く握り返してしまった。
アズラ王太子殿下からも、ぎゅっと握り返される。
「僕と結婚できるのはルチルだけだよ」
「え? でも! あたし!」
「それに僕は、僕に話しかけていいという許可を君に出していない。下がってくれる?」
参列席の横に控えていたアズラ王太子殿下の近衛騎士たちが来て、男爵令嬢の腕を掴んで下がらせた。
「痛い! 放してよ! 私は光の魔法の使い手なのよ! 礼儀を弁えなさいよ!」
叫んでいる男爵令嬢の元に、両親だろう人たちが駆け寄ってきた。
近衛騎士たちが、男爵令嬢をその人たちに渡して、元居た場所に戻っていく。
「ルチル、大丈夫だよ。大丈夫」
「アズラ様……私……」
「光の魔法の使い手ではないんです……」という言葉が、喉につっかえて出てこない。
怖い…この甘く温かい場所がなくなると思うと、怖くて仕方がない……
震える手を、アズラ王太子殿下が優しく撫でてくれる。
どれくらいそうしてもらっていたか分からないが、ルチルの順番がやってきた。
「次がルチルの番だよ。大丈夫。自信を持って」
震える体で何とか立ち上がるが、歩けそうにない。
見かねたのか、いつの間にか父が目の前にやってきていた。
アズラ王太子殿下も立ち上がっている。
「殿下、私が付き添いますので」
「分かった」
渋々座り直したアズラ王太子殿下に、笑いかけることができない。
「ルチル、歩けないなら抱きかかえよう。どうする?」
「お父様……お願いします……」
父にお姫様抱っこされ、神官の前、玉の前で下された。
「ルチル・アヴェートワ公爵令嬢」
名前を言われ、頭に清めた塩を振りかけられた。
何度も深呼吸をしていると、父が背中に手を添えてくれる。
震える手で、玉に触れた。
怖くて目を開けられないルチルは、神官の声を待つ。
「え?」
声を待っていたはずなのに、浮遊感に襲われて目を開けた。
神官たちの伸びてきただろう手が遠のいていく。
気づけば父に抱きかかえられ、神官との間に数メートル距離ができていた。
「お父様?」
「ルチル、大丈夫だ。大人しくしていなさい」
「はい」
えーと……誰か状況を教えてください……
「神官が掴み掛かろうとは、どういう了見だ?」
「アヴェートワ公爵、それは勘違いというものですよ」
「勘違い? どう見ても娘を捕まえようとしていただろ」
「いいえ、違います。私たちは神子様を奉ろうとしたまで。触れようとすらしていませんよ」
神子様? 誰が?
後ろの方から1回だけ手を叩く音が響いた。
ゆっくりと足音が近づいてきて、陛下が父の横に立った。
「神官よ。まだルチル公爵令嬢の色を発表していないが? 私たちには何色に光ったか分からないんだよ。教えてくれるか?」
「失礼いたしました。アヴェートワ公爵令嬢の色は、赤と渦巻いた金でしたので黄金と呼べるかと思います」
金かー。へー、金ねー。
しかも、渦巻いてるなんて強力なんだね!
って、黄金て何の魔法なの!?
「金……しかも、黄金か……初めて聞いたが、黄金は何の魔法なのか教えてくれないか? そして、どうして神子様と呼ぶのかも」
「何の魔法が使えるかは私共も分かりかねます。ただ、神殿の創立者シャーマ・トゥルール様が、金色に光らせていたと聞いています。アヴェートワ公爵令嬢は金色に光らせた2人目。即ち、神子様とお呼びしても間違いありません」
「ふむ。神子様と呼んだ理由は分かった。だが、本当に神子かどうかは分からないということだろう」
「仰る通りです。ですので、アヴェートワ公爵令嬢には神殿で生活をしていただき、何の魔法が使えるかを我々と探していただければと思います」
やだやだやだ! 神殿だけは絶対嫌だ!
父に強く抱き着くと、耳元で「大丈夫だ」と囁かれ、こんな時なのに「イケボ最高」と腰が砕けそうになる。
「神官よ。まだ記憶に新しいと思うが、ルチル公爵令嬢はアズラの婚約者でな。神殿での生活は無理なんだよ。それに、王宮にもアヴェートワ公爵家にも優秀な魔導士たちがいる。まずはその者たちに金色を調べさせ、分かり次第神殿に伝えよう」
「しかし、神子様は我々を導く方。魔導士には任せられません」
「再度言うが、ルチル公爵令嬢は王太子であるアズラの婚約者だ。神子とも決まっていないうちから、神官を導く者と思い込むのは間違いだ。調べて神子だと判明した時に話し合おうではないか。分かったな?」
神官が悔しそうに顔を歪ませている。
「それに、光の魔法の使い手もあらわれただろう。そちらを手厚くもてなしてやればよいではないか」
こわっ。いつも穏やかな陛下なのに怖い……
それはもう、王宮には光の魔法の使い手はいらないと言ってるのと一緒。
いらないって言われるのキツいよなぁ。
「いや、そんなことより、息子のアズラの洗礼がまだだったな。神官よ、息子の洗礼をよろしく頼む」
「かしこまりました」
頭を下げた神官を見てから、陛下が踵を返した。
「ルチルよ、アズラの横には戻らず、アヴェートワ公爵と一緒にいる方がいい。出口付近にいなさい」
小声で言われ、父が軽く頭を下げて早足で出口付近まで歩いた。
すぐに母も来てくれ、父ごと抱きしめられる。
「水、氷、風でございます!」
神官の声が聞こえ、周りが拍手をしている。
本来なら大喝采になっていただろうに、1つ前の騒動が尾を引いているのか空気に熱を感じない。
ルチルでさえ、気が動転していて拍手をし忘れている。
この場での複数持ちは、ルチルとアズラ王太子殿下のみ。
そして、最多はアズラ王太子殿下だ。
閉会の言葉が終わり、ドアが開くと、抱きかかえられたまま外に出た。
中には近衛騎士しか入れなかったため、外で待っていたカーネとデュモルが驚いている。
「デュモル、今後、何があってもルチルから離れるな」
「はい!」
誰も近づけさせないというように、父とデュモルの隙間に下された。
両陛下とアズラ王太子殿下が急いで出てきてくれ、馬車に乗って王宮に戻った。
光の魔法の使い手登場しました。何悶着あるかは未定です(;-ω-)a゛
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