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部屋の中には、カーネと王宮の侍女たちがいる。
早速着替えようとした時に、続き扉がノックされた。
この扉をノックする人物は1人しかいない。
カーネにドアを開けてもらうと、思っていた通りアズラ王太子殿下が続き扉から入ってきた。
「間に合ってよかった。着替える前に一目でいいからルチルの姿をちゃんと見たくて。うん、そのドレスも似合ってる。可愛い」
「アズラ様、立太子おめでとうございます。その、今日のアズラ様、物凄くカッコよかったです」
うはー! 笑顔が眩しすぎて、目が開けてられないよー!
「嬉しい! ありがとう、ルチル」
いえいえ、あたしこそスマイルをご馳走様です。
「僕の方が早いだろうから、着替え終わったらノックしてね」
「はい、また後ほど」
手を振って、アズラ王太子殿下は続き扉から自室に戻っていった。
侍女たちの生暖かい視線に居た堪れなくなる。
「お待たせしてすみません。よろしくお願いします」
カーネを中心に、流れるような着替えがはじまった。
髪型も変えるため、1度湯浴みをしなければならない。
アクセサリー類を外して、ドレスを脱いで、浴室へ。
髪の毛を洗い、体を磨かれ、部屋へ。
ドライヤー(開発してもらってよかった!)で髪を乾かしてもらっている間に、1口サイズの小さなパンを数個食べる。
パーティー用のドレスに着替え、髪型をセットしてもらい、アクセサリー類をつけていく。
約3時間……疲れたけど、パーティー開始の時間はもうすぐだ。
アズラ王太子殿下の部屋に続く扉を叩くと、開いたドアの先にチャロがいた。
大きく開けてもらったドアからアズラ王太子殿下の部屋に入ると、アズラ王太子殿下がソファから立ち上がって側に来てくれる。
「さっきも可愛いかったけど、今もとっても可愛いよ。可愛すぎて誰にも見せたくない」
「ありがとうございます。アズラ様もカッコいいですよ」
「物凄くカッコいいとは言ってくれないの?」
「ふふ……物凄くカッコいいですよ」
「ありがとう」
チャロに「控え室に向かいましょう」と促され、アズラ王太子殿下のエスコートで控え室に向かう。
近衛騎士が、前後に2人ずつ、横に1人ずつついている。
「アズラ様、何かありましたか?」
「何かって何が?」
「いつもより騎士の方が多いですので」
「それは国外からも来賓がある、いつもより大きなパーティーだからだよ」
「そういうものですか」
「そうだ、ルチル。最近会えなくて伝えられていなかったんだけど、他の王族の人たち男女関係なく気をつけてね」
「分かりました。気をつけますが何かあるのですか?」
「ルチルが可愛すぎるから心配なの」
「それを言うならアズラ様ですよ。カッコよすぎて心配です」
ほらー、そのデレデレした顔も拝みたいほどなんだから。
顔面偏差値を理解してほしいわ。
控え室に着き、クッキーを食べていると、両陛下が到着した。
軽く挨拶をして、入場の時間まで他愛無い話をする。
何度も一緒に夕食を食べているので、ルチルはもう緊張しなくなっていた。
午後からのパーティーも、式典に引き続き大成功した。
アズラ王太子殿下とルチルは挨拶のラッシュだったので、このパーティーでお披露目になったチョコレートを1粒すら食べることができなかった。
挨拶の合間合間で、数口飲み物を飲めただけだった。
パーティーが終わり、部屋に戻ったルチルは、ソファに倒れるように座った。
明日が婚約式なので、ルチルは王宮に泊まることになっている。
王宮で準備をして、アズラ王太子殿下と両陛下と共に、神殿に向かう予定なのだ。
「お嬢様、お疲れ様です」
「カーネ、お腹空いた……何かない?」
「着替えが終わりましたら、王太子殿下との夕食になります。今は我慢してくださいませ」
「チョコは? 1粒だけでいいから頂戴」
「1粒だけですからね」
困ったように微笑むカーネも、大概ルチルに甘いのである。
部屋に置いてある簡易冷蔵庫からチョコを1粒お皿に取り出して、ルチルに渡してくれる。
ルチルはすぐに食べ、カーネと一緒に浴室へ。
次に着替えるのは、ドレスではなくワンピースなので王宮の侍女たちはいない。
時間も迫っていないので、のんびりできるのだ。
「カーネ。この石鹸って、他に種類はないの?」
「他にでございますか……申し訳ございませんが、私はこの石鹸以外見たことがありません。他国にならあるかもしれませんね」
と答えてもらったが、今使っている石鹸も他国からの輸入品でアヴェートワ商会が販売している。
他にもあるのなら同じようにアヴェートワ商会が販売していてもおかしくないのに、これ以外に見たことがない。
子供だったし、今までパーティーに参加することが少なかったので気にならなかったが、ここ最近のパーティーの参加頻度でルチルは思い悩んでいた。
この国、この世界かもしれないが、石鹸1つで全身を洗うのだ。髪の毛も顔も体も。
よく泡立つし、石鹸のいい香りもする。
だが、許容範囲といえど、髪の毛が傷みはじめてきた。
顔もまだ子供なのに軽く化粧をする。
このままだと顔と髪の毛の乾燥が、目も向けられないほど酷くなりそうだなと不安になっていた。
それに、アロマが欲しいところ。
アロマ石鹸、そしてシャンプーにリンス、洗顔料が欲しい。
欲をいえば、化粧水と乳液も欲しい。
でも、まずは石鹸が欲しい。
どうやって作れたかなぁ?
と、思い出そうとしても思い出せない。
「お嬢様、何か心配事でもありましたか?」
「え?」
「先程から唸っておられましたので、何かあったのではないかと思いまして」
「ううん、何でもないわ。今日の夜に、あのパジャマをお披露目しようかどうか悩んでいただけよ」
「そうでございましたか。殿下はきっと喜んでくださいますよ」
そうね。あたしの使命は、推しのアズラ様を幸せにすることだからね。
恥ずかしいけど着ようと思うよ。
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