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「アズラ様のことしか考えていませんのに、そんなに褒められると恥ずかしいです。ですので、もう二度と女神だなんて褒めないでください。私は、全員ではなく、愚かなほどアズラ様を愛している1人の人間なだけですから」
大切なことが伝わっていたら何でもいいから、もう女神でいいやって乗っかるんだけどね。
でもさ、嘘だから、何度も言われたら心苦しくなってくるし、居た堪れなくなるからさ。
罪悪感が押し寄せてこないように、女神って言葉を封印してもらおうと思うのよ。
「そっか、うん、そっか……嬉しいよ。ルチルが僕と同じ時代を生きる人間で生まれてきてくれたことが、本当に幸せだよ」
「一緒に年を重ねていけますものね」
アズラ王太子殿下の幸福に満たされている瞳が潤んでいる。
泣いている顔も麗しいから、このまま眺めていてもいいのだが、アズラ王太子殿下は先ほども涙を流したばかりだ。
さすがに泣きすぎている気がするので、目が腫れないように笑えるような話をしようと雰囲気を変えることにした。
「アズラ様。1つずつ教えてほしいとのことでしたが、どれからお話しますか? アズラ様が誰彼構わず体を交じらわせるエロエロ大魔神って話からにしますか?」
「僕はルチル以外と絶対にしないよ! さっきも思ったけど、その本は僕の好みだけ間違えている」
真っ赤になって、ぷんぷんしてて可愛い。
もう少し弄りたいところだけど、この話で時間を使いすぎると他の話ができなくなっちゃうからね。
残念だけど、さらっと流してしまおう。
「そうですね。アズラ様もですが、私も違いますからね」
「そうなの?」
「はい。コインの表と裏くらい違うんです」
ルチルはにっこりと微笑んでから、本と現実の類似点と相違点を伝えた。
恋愛については、すでに拒まれているので説明から省いている。
真剣に話を聞いてくれていたアズラ王太子殿下に「色々結びついたよ。話してくれてありがとう。でも最後に1つ教えて。ルチルが2年間眠ってしまうことは知っていたの? 回避できなかったの?」と問われ、必死に視線を逸らしながら小声で黒歴史の真相を答えた。
真っ青になったアズラ王太子殿下に「無茶しすぎだよ!」と抱きしめられ、「何か行動を起こす時は、絶対の絶対の絶対、僕に相談してからにして」と懇願されたのだった。
「あの、アズラ様……その、私のこと気持ち悪くないですか?」
話し終えた今も、アズラ王太子殿下の態度は全く変わらない。
視線にも雰囲気にも、嫌悪感は一切感じられない。
確認しなくてもアズラ王太子殿下の愛は揺らいでいないと分かっているが、ルチル自身が自分を気持ち悪いと思ってしまった気持ちを払拭しきれずにいる。
だから、もし思うところがあるのなら、遠慮せず話してほしいのだ。
自問自答を繰り返し、やっと気持ちの整理がつけられたとして、その時に「おかしくない?」と突っ込まれたら辛い。
やっぱりそうか……と再度落ちてしまうと、次に気持ちを強く持てるようになるまで、どれだけ時間がかかってしまうか分からない。
纏めると、地獄に落ちるのなら、さっさと奈落の底まで落としてほしいだけである。
「どうして?」
アズラ王太子殿下は、ルチルが何を言い出したのか本気で分からないと示すようにキョトンとした。
「だって、私は外側はまだ若いですけど、中身はうーんと年上なんですよ。アズラ様が孫やひ孫でもおかしくないからって、アズラ様に今まで打ち明けずにいて、それなのに愛しているなんて……矛盾しすぎていると思うんです」
呟くように「なるほどね」と溢したアズラ王太子殿下は、ルチルの頬に手を添えてきた。
視線を外させないように真っ直ぐ見つめられる。
「僕にとっては、外も中も大好きなルチルだから、何歳だろうと関係ないよ。ルチルは可愛いし、美人だし、綺麗だし、愛くるしいけど、それは見た目の話だけじゃないんだ。ルチルの中身が違う人だったら、僕はこんなにも好きになっていないよ。だから敢えて言葉にするのなら、外見が僕と同じ年齢の見た目で幸運だなってくらいだね。ルチルがたくさん色んな経験をして、僕と出会ってくれたから、僕はルチルを愛する喜びを感じることができているんだから。気持ち悪いなんて思わないよ。僕と巡り合ってくれてありがとうって感謝の気持ちしかないよ。僕を愛してくれて、僕に愛させてくれて、本当にありがとう」
アズラ様……めちゃくちゃ、ものすっごく、最高に、最上に、素晴らしいほど男前すぎる!
すうっと、胸の中にあった黒い塊が消えたよ。
うん。これは嫌気することじゃなくて、幸運なんだよ。
アズラ様と出会えて恋をしたことも、心温まる人たちと大切な絆を築けてきたことも、全部が全部、記憶を持ったままのルチルだから巡り重ねられた倖せだ。
分かっていたはずなのに、ちゃんと自分が自分であることを受け入れていたはずなのに、凝り固まった考えに引っ張られて、深みにハマってしまったんだ。
前世の記憶があることは、ただただ感謝しかない奇跡なだけなのに。
どれだけ幸せなのかを再確認したことでポロッと落ちてしまった涙を、アズラ王太子殿下がルチルの顔に添えた手の親指で拭ってくれる。
「ルチル、愛してる」
「私もアズラ様を愛しています」
生涯共に歩む誓いをたてた結婚式よりも、死が2人を別つ時までずっと寄り添いながら生きることを約束するように、優しいキスをして微笑み合ったのだった。
※文中の「倖せ」ですが、わざとこちらの漢字にしています。
作者ごとで恐縮ですが、職場が変わることになりまして、更新頻度が落ちます。
月に1回は更新できるように頑張りますが、本当の本当に、言葉通りの不定期更新になります。
しかし、投げ出さず、完結まで必ず投稿を続けますので、のんびりと最後までお付き合いくださいませ。
ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
読んでくださる方がいて、書く元気をもらっています。
これからもよろしくお願いいたします。




