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朝起きると、憂いを帯びた瞳で優しく微笑むアズラ王太子殿下のご尊顔が目の前にあった。

「おはよう」と柔らかくキスをされ、強く抱きしめられる。


「怖い夢でも見ましたか?」


「ちょっとね」


「私がアズラ様の夢に登場して、その夢を壊せたらよかったですのに。不甲斐ない妻ですみません」


バカなことを言って場を和ませようとしたのだが、どうも間違ったらしく、更にきつく閉じ込められる。


「ルチルほど素晴らしい女性はいないよ。僕はいつになったらルチルを守れるんだろうって、そればっかり考えているんだから」


「これ以上完璧にならないでくださいね。私、追いつけなくなります」


「それは僕の方だよ」


「いいえ、私です」


いつもなら「僕だよ」「私ですよ」の応酬が始まるのに、今日は頭を撫でられただけで終わり、拭えない違和感が胸に落ちてくる。


昨日、眠るまでは普通だった。

イチャイチャして、アズラ王太子殿下と寄り添いあって眠りについた。

もし何かあったのなら、冗談で言った「夢の中」か、夜中ルチルが眠っている間に「現実世界で何かあったか」になる。


「アズラ様、何かありましたか?」


「怖い夢を見ただけだよ」


答えてくれないかー。

本当に、何があったんだろ?

昨日の夜勤はシーラだったよね。

後で聞いてみよ。


「では、今日は就寝前にハーブティーでも淹れてもらいましょう。よく眠られるはずです」


「そうだね、そうしよう」


腕が解かれ、おでこにキスをされる。

先に体を起こしたアズラ王太子殿下に続くように上体を起こした時、アズラ王太子殿下はすでにベッドから降りていた。


「ねぇ、ルチル」


「はい、何でしょう」


「僕が……今すぐ子供が欲しいって言ったら、協力してくれる?」


「もちろんです。私も子供に会えるのを、楽しみにしていますから」


ただ、アズラ様が禁欲生活に戻ってしまうからさ。

今、心を解放して、HPを貯めておかなくて大丈夫なのかなって思うだけ。


「じゃ、じゃあさ、今日から、その」


言い辛そうにしているアズラ王太子殿下の背中に向かって微笑む。

見えていなくても、雰囲気は伝わるはずだ。


「分かりました。子供ができやすい日もありますし、そこの計算をスミュロン公爵としますね」


ずっと背中を向けていたアズラ王太子殿下が振り返った。

泣き出してしまいそうな面持ちをしていて、瞳を瞬かせてしまいそうになる。


「本当にいいの?」


「はい、問題ありませんよ。体力がある若いうちに産んだ方がいい、ともいいますからね。2人くらいかなと思っていましたけど、今からでしたら3人はいけそうですね。頑張りましょうね」


「……うん、うん」


涙を溢したアズラ王太子殿下に急いで駆け寄り、左手で手を握り、右手で涙を拭うように頬を撫でる。


「結婚1年も経っていませんが、もしかして誰かに側妃の話をされましたか?」


「されてないよ。もしされても一蹴するよ」


うーん、急に子供が欲しくなった、じゃないような気がするんだけどなぁ。

今日ナギュー公爵家に行くし、ぽんぽこ狸に聞いてみようかな?

絶対、待っていると思うんだよね。


朝、そう想像した通り、ナギュー公爵家の転移陣前でナギュー公爵が待ち構えていた。

「妃殿下、2人だけでお話をしたいのですが」と嘘くさい笑みを浮かべられ、「待っていると思っていたけど、ここ!?」と驚きながらもニッコリと微笑んで了承している。


ナギュー公爵に案内されたガゼボには、既にお茶が用意されていて、護衛騎士や侍女たちは声が聞こえない距離で待機してもらった。


「宰相のお話の前に、私から質問があるんですが、よろしいですか?」


「何でしょうかな?」


「アズラ様に子供、後継者を急かす人は多いんでしょうか?」


ナギュー公爵に眉間に深く皺を刻まれたが、ルチルは微笑みを絶やさない。

「こいつ、何言ってんだ?」って瞳で語られているが、怯んではいけない。


「殿下たちの仲睦まじさは、国民の間では有名ですからな。皆、まだかまだかと待ってはいるでしょうが、話題に出す者はいないのではないでしょうか。殿下がお生まれになったのも陛下が婚姻されて数年後ですし、何よりどの公爵家にも次々代の子はいませんからな。まだ急かしようがありません」


そっか。じゃあ、「王太子妃に子供が生まれるかどうか分からないのだから、我が娘を」っていう押し売りはないってことね。


だったら、どうしてあんなに不安そうだったんだろ?

シーラに確認したら「夜中に執務室に行かれました」だったから、そういう手紙が多いんだと思ったんだけどな。

あたしと机が隣になったから、あたしの目に触れないように、夜中に処理しに行ったと確信してたのに。


本当に、急に子供が欲しくなった?

うーん……謎だ。


「妃殿下、質問はそれだけですかな?」


「はい。アズラ様のこと以外で、気になることはありませんから」


めっちゃ冷めた目で見てくるよね。

夫婦がラブラブなのはいいことなんだから、褒めてほしいくらいだよ。


「では、私から。何でも屋の一部を匿ってまでしたいことが、まさかホーエンブラド侯爵家を潰すだけとは仰いませんよな? 妃殿下は、一体何をされたいのですかな?」


はじめは本当にホーエンブラドの息の根を止めたいだけだったとは……口が裂けても言えない雰囲気だわ。

潰すだけなら匿う必要ねぇよな。っていう圧を感じるもんね。

まぁ、あたしは圧にビビらずに、平然と言っちゃうんだけどね。




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