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アズラ王太子殿下と触れられる距離に居ても、それぞれ粛々と仕事を片付け、休憩時にイチャつき、また黙々と書類を捌いていく。

ルチルは合間に、お茶会の招待状の返事を書いたりもしていた。

根が真面目な2人なので、メリハリはきちんとしている。

相手が頑張っているのだから自分も頑張らないと、というモチベーションアップに繋がっているため、部屋をくっ付けてよかったかもしれないと思うくらいだった。


そんな日を2日ほど過ごしていると、ナギュー公爵が執務室にやって来た。

部屋を見渡してから、これみよがしにため息を吐き出し、にっこりと微笑んでくる。


「妃殿下、少しばかりお時間よろしいでしょうかな」


これは、あの件だな。

まだケープからの報告が上がってきていないというのに、どこの公爵家がこんなにも早く、あたしに辿り着いたのよ。


「私ですか?」


「はい、私は今『妃殿下』と申しました」


相当怒ってるよー。

でも、あたしは知らないフリ。知らないフリ。

だって、アズラ様にも打ち明けていないんだもの。

キョトンとしておかなきゃ。


「宰相からの書類は全て目を通しているはずですが、何か不備でもありましたか? すみませんでした」


とぼけながらソファまで移動し、ナギュー公爵にも座るように促す。


ジト目で見られたって、負けないんだから。

あたしは、ホーエンブラド侯爵家の息の根を止めるため、極悪の悪女になるのよ。


ナギュー公爵にはっきりと重たい息を吐き出され、小首を傾げてみた。

震え上がりそうなほど鋭く睨まれたので、お返しに微笑んだら、額に青筋を浮かべられた。


これ以上小賢しい演技をしたら、本当に雷を落とされるかもしれない。

へへ、少し自重しよう。


「仕事のことではありませんよ。少しばかり知恵を貸してほしいと思いましてな」


「私の知識なんて、宰相に及びませんよ」


「いえいえ、昔からアラゴもですが、殿下も褒められておりましたからな。きっと私の悩みにも答えをいただけるのでは、と期待しております」


「そうだね。ルチルは天才だよ。僕が保証する」


アズラ様、今その合いの手いらない。

あたしを窮地に追い込む一手だからね。


「私に答えられるかどうか分かりませんが、おうかがいします。何にお困りなのでしょうか?」


「実はですな。昨晩、アヴェートワ公爵家を除く、3つの公爵家で1つの組織を潰しましてな」


「まぁ! それは……もしてして、何でも屋ですか?」


「さようです。どうしてすぐに何でも屋だと分かられましたかな?」


「メクレンジック伯爵夫人とお茶会で会う機会があったんです。シトリン様のことで腹が立っておりましたから、話し合いをさせていただいたんです。その時に何でも屋のことを耳にしまして……そして、ポニャリンスキ辺境伯令嬢に対して失礼な態度を取った、シュラーというデザイナーの口からも、何でも屋の名前が出たんです。ですので、まずは実力が本物かどうか、調べていたところだったんです」


表向きにバレていることは吐いていくよ。

アズラ様にも話していることだからね。

噂にもなっているだろうから、絶対にナギュー公爵も知っていると思うしね。

でも、これ以外は知らぬ存ぜぬを通すので、怒らないでくれると嬉しいです。


「おや? 接触されておりましたか?」


「はい。依頼をして嘘を吐かれた場合、基本的に誤った情報を流す集団として取り締まろうと思っておりました。ただもし特定の人物だけを陥れてきたのだとしたら、何者かの陰謀を疑い、更に調査しようと思っていましたわ」


アズラ様の「熟慮していて、さすがルチルだよね。僕は鼻が高いよ」って声が聞こえる。

たったこれだけのことで、そこまで褒めてもらえるなんて、天狗になってしまいそう。


まぁ、あたしは、ルチルバカという得体の知れない病原体を、体に宿してしまった人を何人も見てきたからね。

あの病原体の怖さを、身を持って知っているからね。

自分が天才かもなんて勘違いはしないよ。


アズラ様も、そろそろ気づこうね。

目の前に座っている御仁も、めちゃくちゃ呆れているよ。

見えているでしょ。


「では、依頼をされた以降は接触していない、と申されるんですな?」


「いいえ。何個か依頼をしまして、2個答えをもらっていますわ。1つはアズラ様の好みでして、これについては古い情報でした。そしてもう1つは、キルシュブリューテ領を襲った者たちの正体ですね」


本当は、この2個しか依頼してないんだけどね。

これからも接触するつもりでしたって、匂わせておかないとね。

ぽんぽこ狸に、どこから切り崩されるか分かったもんじゃない。


「ほう。どこの馬鹿が、妃殿下の領地を襲ったのですかな?」


「ホーエンブラド侯爵家だそうです」


アズラ王太子殿下が勢いよく立ち上がった様子が、視界の端に映っている。

でも今は、目の前で珍しく言葉を失っているナギュー公爵から、顔を逸らすわけにはいかない。


色々結びついたよね?

察してくれると考えて、ここまで情報提供したんだよ。

だから、引いてね。




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