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1日の終わりに、寝室でアズラ王太子殿下と寄り添うようにソファに座っている。
机の上にはチャロが淹れてくれたお茶があり、サイドテーブルには水差しが用意されている。
この時間はいつも、2人っきりで過ごす大切なひとときになる。
「ルチル、そういえば僕に相談があるんだよね?」
「はい。でも、もう少しこのままでいたいです。アズラ様、あったかい」
「眠ってしまいそう? ベッドに行く?」
「まだ寝ませんよ。もっとアズラ様とお喋りしたいですから」
「いいよ。何を話そっか」
「そうですねぇ。アズラ様は、私のこと可愛いと思っていますか?」
「思っているよ。ルチル以外、可愛い人なんていないよ」
「では、綺麗だと思ったことはありませんか?」
「そんなことないよ。ルチルはいつも綺麗だよ」
「では、可愛い私と綺麗な私、どちらが好きですか?」
「どっちがってないよ。ルチルは可愛いし綺麗だからね」
まぁ、そう返ってくると思ってたけど、やっぱり嬉しいものだよね。
アズラ様って、本当にあたしを褒めてくれるんだもの。
自己肯定感が強く、そして高くなる。
「カッコよすぎるアズラ様の横に立てるように、侍女たちが頑張ってくれているので、そう言ってもらえると私も嬉しいです」
「ルチルは何もしなくても可愛いし綺麗だよ。女神だからね。侍女たちの腕を褒めるなんて、ルチルは本当に優しいね」
ルチルバカは、時々発言が怖くなる。
私、女神じゃないからね。
好きではいてほしいけど、早くその沼からは抜け出してね。
正気に戻ってもらえるように、話題を変えるよ。
「実は、新しい洋服を作ろうと思っていまして、アズラ様の意見が欲しいんです」
「ん? それが言っていた相談?」
「はい。着替えますので、可愛い方がいいのか、綺麗な方がいいのか、教えてください」
「うん、任せて」
ふっふーん。先にどっちから着ようかなぁっと。
「ルチル、ここで着替えるの?」
「はい、ダメですか?」
「ダメじゃないけど……後ろを向いてるから、着替え終わったら教えて」
「見てくださっていいですよ」
「ううん。女性の着替えは見てはいけないって、父上に言われているから。ごめんね」
絶対に嘘だろうなぁ。
あの2人だってラブラブだから、陛下は王妃様の着替えを嬉々として見てそうだもの。
アズラ様もズル賢くなっちゃって。
狼狽えることしかできなかったアズラ様の成長を感じて、寂しくなっちゃう。
でも、喜びも大きいから問題ない。
「着替え終わりましたー」
クルッと振り返ったアズラ王太子殿下は、まずは足に視線が釘付けになっている。
スカートは太ももの真ん中くらいまでしかない。
高めのピンヒールを履いているので、足はスラっと長く見えていることだろう。
左足を曲げてポーズを決めると、ゆっくりと視線が上がってきた。
上半身はチューブトップと悩んだが、ノースリーブを選んだ。
ピタッとしていて、体の凹凸がはっきりと分かるようになっている。
「なななな! ダメだよ! どこに着ていく用なの!?」
「このドレスの名前は、バブルドレスというんです。スカートが風船のように膨らんでいて、ふわっとしているのが可愛いと思いませんか?」
「可愛いよ! でもね、今は名前のことを話していないの! 足を出したらダメなの!」
「裾のクシュっと感が可愛いですよね。小さなリボンを付けて、より可愛さをアップさせてみたんです。似合ってませんか?」
「似合っているよ! 可愛いよ! でもね、その姿はダメなの!」
「カチューシャをしたら、もっと可愛くなるって言いました? アズラ様分かってるぅ。私も、髪飾りはカチューシャがいいなと思ってたんです」
「ルチル!」
言い聞かせるように名前を呼ばれて、ルチルはわざと唇を尖らせて拗ねてみせた。
「アズラ様が可愛いって言ってくれるから、もっと可愛くなりたくて作ってもらったのに。褒めてくれないどころか、怒るなんて酷いです」
「ち、ちがうよ。怒っているんじゃなくてね。ルチルの足を、僕以外の男に見せたくないんだよ。だからね、可愛いよ。可愛いんだけど、その服はやめよう」
「分かりました。一旦、着替えますね」
「一旦?」
「はい。先ほど相談したように『可愛い私』か『綺麗な私』のどちらかを選んでほしいですので」
「ま、まって、ルチル……もう1着は、どんなドレスなの?」
「アズラ様に綺麗って思ってもらいたいドレスです」
はじめからアズラ王太子殿下に着替えを手伝ってもらえないと予想していたので、着脱しやすいように背中にある紐を引っ張れば着られるように、肩部分を左右に引っ張れば脱げるようにしてもらっている。
勢いよく肩部分を引っ張ってガバッと胸元を開けると、アズラ王太子殿下は慌てて後ろを向いた。
真っ赤になっている耳に、小さく笑ってしまいそうになる。
そのうち、こういう行動も平気になってしまうはずなので、今のうちに堪能しておきたい。
「アズラ様、着替え終わりました」
「う、うん、見るよ」
ゆっくりと振り向いたアズラ王太子殿下は、目を細めていた。
薄目だとしっかりと見られない、というアズラ王太子殿下の持論である。
「絶対きちんと見えているでしょ」と思っているが、ツッコんだりしない。
何歳までその持論を貫き通すのか、見守るつもりだ。
「ななななな! ダメだよ! さっきよりもダメ! さっきもダメだけど、ダメ!」
目を細めがら語彙力なくすなんて器用だな。
もっと喜んでくれていいんだよ。
アズラ様が好きな足をチラ見せって、そそるんじゃないの?
ルチルが着替えたドレスは、エンパイアラインで、スカートに大胆な深いスリットが入っている大人っぽいデザインになる。
綺麗な人はスラッとした服を着こなしているイメージなので、そこにチラリズムを足してみたのだ。
「アズラ様、どっちがいいですか? 選んでくださった方を生産ラインに乗せ、私は広告塔としてお茶会やパーティーへ着て行こうと思っているんです」
アズラ様とこうやってイチャラブしたかったのも事実だけど、あたし的にはそろそろ自由な服装の時代がきてもいいんじゃないかなって思うんだよね。
スカートが短い方が可愛いドレスだってあるし、スリットがあると中にもう一枚生地がないといけないっていう、服を重たくする原因を取り除きたいの。
折角、支援しているデザイナーが領地にいるんだから、大胆な革命を起こしたいんだよね。
「どっちもダメだよ! いい、ルチル。胸元はそこまで深くなくていいし、足もそんなに見せなくていいの。というか、僕以外には見せたらダメなの。分かった?」
「可愛くないし、綺麗でもないですか?」
「可愛いし、綺麗だよ。でもね、そういう話じゃないの」
「アズラ様は、どっちの私が好きですか?」
「どっちも好きだよ。でもね、もう一度言うよ。そういう話じゃないの」
「どっちがいいのか選んでほしいです。可愛いか綺麗かの路線を決めたいんです」
「ルチルは両方似合っているから、僕には決められないよ。それよりも、ルチル。ダメだって分かってくれた?」
「じゃあ、どっちの私とデートしたいですか?」
「どっちもダメだよ。この部屋以外で着るのは禁止だよ」
私が言質取られないように、話題変えをしているのバレていたな、これ。
強引に聞こえないフリしてたからね。バレるよね。
可愛いアズラ様を見られて楽しめたし、もういっか。
ドレスについては、王妃様と話し合おう。
いきなりこれだと、お母様以上世代の人たちに目を付けられちゃうからね。
まずは膝くらいまでの長さを何段階かで作って、どの長さなら受け入れてもらえるかの調査をしないとね。
きっと王妃様ならノリノリで付き合ってくれるはず。
王妃様の圧に私の体力がもつかどうかの不安はあるけど、王妃様の協力は絶対に必要だから頑張らないとね。
「分かりました。この服はアズラ様の前以外では着ません。ですので、私がこういう服を着るのは嬉しいかどうかだけ教えてください」
「それは、その……嬉しいよ」
「あれ? 実は嫌でした?」
「違うよ。本当に可愛いし綺麗だしで、写真を撮りたいくらいだよ。でも、なんだか恥ずかしくて。ルチルは恥ずかしくないの?」
頬を赤らめて恥じらうアズラ様が尊すぎる!
叫びたい! 拝みたい! 眺めていたい!
「アズラ様、大好きです!」
「え? うん、僕もルチルのことが大好きだよ。愛してる」
「私の方が絶対に好きですよ」
「ううん、この勝負だけは負けないよ。僕の方がルチルを好きだよ」
「私です」
「僕だよ」
バカップルの暴走を止められる存在がいない時間帯のため、2人の告白大会は深夜まで続いたのだった。
バカップルは全ての事柄において、イチャイチャして終わるのです( ˘ω˘ )
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