表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/373

42

シュラーという人物が来るまでの間、カタログでも見ていようかなと手を伸ばしかけた。


「こういう服も似合えばよかったなぁ」


残念そうに呟かれたシンシャ王女の言葉に、ルチルはシンシャ王女が開いているページを覗き込む。

そのページには、ストラップ部分は太めの肩紐をリボン結びにする形状で、スカートの裾にリボンを等間隔であしらっているドレスが描かれていた。


「……ウエディングケーキが乗ってそうね」


声に出したつもりはなかったのにしっかりと出てしまっていたようで、シンシャ王女は確かめるようにカタログに顔を近づけた後、小さく吹き出した。


「やめてください、お姉様。もうそれにしか見えなくなりました」


ルチルは咄嗟に口元を隠し、ゆっくりと視線をアンドラ店長に移した。

見られたと気づいたアンドラ店長は、笑みを作った顔でわずかに首を傾げている。

聞こえていなかったようで何よりと、ルチルは小さく安堵の息を吐き出した。


「シンシャ様はTHE美女ですからね。甘いドレスよりもシャープなドレスの方がカッコよく着こなせそうです」


「分かってはいるんですが、ミソカ様に『可愛い』って言ってもらうには可愛いお洋服の方がいいのかなって思ったんです」


「あら、あの子、シンシャ様を褒めないんですか?」


ミソカはアズラ様と同類だと思うから、挨拶と変わらないくらいの感じで褒めちぎっていそうなのに。

婚約者を褒めないなんて、帰ったらお説教しなきゃだわ。


「いいえ。いつも褒めてくださるんですけど『綺麗』なんです。『可愛い』って言われたことあったかなぁくらいなんです」


なるほどねぇ。褒めていてよかったわ。

ってか、あたしもミソカには「綺麗」しか言われていないような気がするな。

あの子の「可愛い」っていえば……


「ミソカの女性を褒める言葉に『可愛い』は無いのかもしれませんね。思い返してみても『可愛い』はミルクにしか言っていない気がします」


「それはまた違う『可愛い』ですよー」


「まぁまぁ、カーネや侍女たちに相談をしてお化粧の仕方を変えてみましょう。シンシャ様ならミソカから『可愛い』を引き出せますよ」


「お化粧チャレンジはしてみたことがあるんです。でも、ミソカ様はお化粧が嫌いなようでして……」


そうなの? 初耳だわ。


「お姉様みたいに素顔でも綺麗でいる人がいいと言われたんです。そこからは必要最低限のお化粧しかしていません」


あの子は、どこまであたし基準なのよ。時々怖くなるわ。

あたしは若い肌を堪能したいからやらないだけで、もう少し歳を重ねたら塗りたくる予定だよ。

お祖母様やお母様は美しいけど、あたしは美魔女になれる気がしないもの。

もうめちゃくちゃお化粧の力を借りるつもりだからね。


「では、普段とは違う行動をしてみるのはいかがでしょうか?」


「どんな行動ですか?」


「シンシャ様は『好き好き。かまって』って感じの小型犬っぽいですから、駆け寄らないとか手を繋ぎにいかないとか気持ちを伝えないとかの猫っぽい行動をとってみるんです」


まぁ、あたしがこの行動をすると、アズラ様は「何かしちゃったのかな?」って真剣に落ち込みそうだからできないけどね。

恋の駆け引きとかせずに、始めっから好き好き光線を送られて不安がないミソカには、効果あるような気がするのよね。


「それがどう『可愛い』に繋がるんですか?」


「どうして急に態度を変えたのかって聞かれると思いますので、そこで『ミソカに釣り合えるように大人になろうとしている。でも、やっぱり引っ付けないのは寂しい』みたいなことを伝えるんですよ。好きな人のために頑張る姿って、いじらしくて可愛いじゃないですか。それに、今までの行動がどれだけ愛らしかったか気づいてもらえるチャンスになりますしね。しかも寂しさを感じてもらえたら、なおいいですよね」


どんな姿でもいいって言ってもらえるのも嬉しいだろうし、いつも通りじゃないと落ち着かないって告げられたらそこまで日常に溶け込めていたって分かるしね。

ちょっとしたスパイスは、気持ちを確かめるキッカケや想いを伝え合う機会になるものね。

もし、あからさまな変化を無視されるようなら別れることも考えられるしね。

お互いがどんな変化もスルーするっていうのならいいと思うけど、相手してほしくて変わろうとしている人を気にしないなんてどうでもいいのと一緒だから共に歩む相手じゃないわ。

そんな奴は、こっちから願い下げしたらいいのよ。

って、今はミソカの話だったわね。


「どう反応してもらえるか不安ですが、私やってみます」


「アズラ様みたいに分かりやすく落ち込まないでしょうが、ミソカも絶対に気にしますよ」


「アズラ様は特殊ですものね」


「とても可愛らしいの間違いですね」


シンシャ王女と顔を合わせ、一拍置いた後に小さく笑い合った。

店内にいた人たちが「今なら挨拶できるかも?」と、周りの出方を窺っている雰囲気が漂ってくる。




たいっっへんお待たせしました。

次話、問題の人物であるシュラーが登場します。

やっとエンジェの仇が討てるかもです。


いいねやブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

ノロノロ更新ですが、今年もよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! お洋服、どこかのファッションショーで見る奇抜な服装より、日本でよく見る、ロリータファション(確か日本初だったような)や普通に可愛い服のほうがよく見えるのは美的センスの違いな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ