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今日の目的地であるブティックに到着し、腕を組んでくるシンシャ王女と一緒に入店すると、店内が一気に騒がしくなった。

本来、高位貴族になればなるほどショップに足を運ばない。

屋敷に呼び寄せ、買い物をするのだ。

その最もとなる貴族が王族になる。

いまやルチルの顔を知らない者はいないと言っても過言ではない。

変装をしていないのだから、王太子妃殿下がやってきたと丸分かりだ。

それに、ルチルの横にいる眩いばかりの美女が誰かなんて、すぐに予測できる。

ポナタジネット国王女で未来のアヴェートワ公爵夫人、シンシャ・ビューネ・ポナタジネットだ。

突然の大物2人に驚愕しているのと同時に、偶然出会えた幸運やお近づきになれるかもという期待が一気に膨れ上がったのだ。


緊張が空気を支配している中、動揺や戸惑いを見せず、店の奥から凛とした姿勢で数名の女性が足早にやってくる。

そして、目の前で足を止めると、綺麗に編み込んだ髪の毛を1つに纏めている女盛りの婦人を筆頭に頭を下げてきた。

左右の斜め後ろに従業員の女性たちを付き従えている様子から、この婦人がきっとこのブティックの店長なのだろう。

全員同じ服を身に纏っているところからも店員であることは間違いない。


「お越しくださり誠にありがとうございます。私はこの店を任されておりますアンドラ・リッジアートと申します。何なりとお申し付けくださいませ」


リッジアートは子爵家だったわね。

数年前に挨拶したことがある気がするわ。

でっぷりした子爵がお洒落さんだったから服を褒めたはず。

そういえば「妻が〜」とか言ってたような気もしなくもない。


「予約をしていないのだけど、ドレスを見せてもらうことはできるかしら?」


「もちろんでございます。個室へご案内いたします」


もう一度深く腰を落とすアンドラ店長に、ルチルは扇子を広げてから微笑んだ。


「飾っているドレスを見ながらがいいのだけど」


「飾っている品はほんの一部のデザインになります。ですので、静かなところでごゆっくりカタログをご覧いただいた方がよろしいかと存じます」


ほほう。さすがは洋服屋さんの店長。

エンジェ様に名前を聞くまで知らなかったけど、お店のトップではあるんだから情報は持っているよね。

あたしの服は王宮お抱えのデザイナーか、キルシュブリューテ領にいるフロストが作っているものね。

それが知れ渡っているからこそ、どうして来たんだって不思議でめちゃくちゃ警戒するよね。

もしもあたしとの意見が食い違った場合、周りに会話を聞かれたくないもんね。


「いいえ。プレゼント用を探しているから、できるだけ実物を見たいのよ。空いている席に案内してくれるかしら?」


「かしこまりました。ご案内いたします」


王太子妃殿下という肩書きで脅しているみたいになって、本当に申し訳ない。

2回も言われたら断れないよね。

そして、この店の評判をこれから落とすことも許してほしい。

全てに目を光らせることは難しいと思うけど、公爵家と辺境伯家の婚約式のドレスの進捗を知らないとか職務怠慢だと言われても仕方がないからね。


他のお客さんだったらいいのかという問題じゃなくて、いくら内輪だけの婚約式だとしても着てもらえるなんてある意味広告塔みたいなものでしょ。

どれだけお金をかけたとか、どんな雰囲気だったとか、絶対に話題になるんだから。

宣伝できる場で失敗は許されないんだから、気にしすぎるくらいがいいはずなのよ。


それにしても……本当にブッリブリのブリブリなお店だな。

エンジェ様は可愛いからここの服でも着こなせそうだけど、ここまで普段のエンジェ様の趣味とかけ離れているとは思わなかったよ。

たぶん勧められて断りきれなかったんだろうな。


ここを経営しているのはアンジャー侯爵家。

どっちが勧めたのか知らないけど、親でも子でも引き下がらなさそうだもんね。

まぁ、どこにするかで悩んでいて助かったという部分が強そうな気もするけどね。

アイオラ・アンジャー侯爵令嬢とも仲良くしているらしいし。


ってか、このお店でシンプルなドレスをオーダーしたってことか。

うーん……飾っている服が、たまたまブリブリなだけなのかな?


6つあったソファ席のうち、空いていた左側の奥に通された。

シンシャ王女と横並びで腰を下ろすと、すぐさま紅茶とナッツ類のお茶請け、カタログが数冊運ばれてくる。


「お姉様、どなた宛のプレゼントを選びに来られたのですか?」


「エンジェ様です」


「あの方可愛らしいですものね。きっとこういう服もお似合いになると思います」


だよね。あたしと同じ意見で嬉しい。

それに、ブリブリもだけど、きっとゴスロリファッションでも似合うと思うんだよね。


ゴスロリファッションか……まだ見たことない気がする。

立ち上げて、シトリン様とエンジェ様にアンバンサダーにでもなってもらう?

あ、でも、2人とも可愛い路線だから、綺麗路線のモデルさんも欲しいところだよね。

となると、シトリン様たちじゃなくて領地内でモデルの募集をかけて、キルシュブリューテ領でファッションショーとか開催したらお金になるんじゃない?

たくさんの人が来てくれるだけで経済効果はあるものね。

ふふふふふ。追いつけ追い越せアヴェートワ領だわ。


「ポニャリンスキ辺境伯令嬢様が気に入ってくださいましたのね。とても嬉しい限りです」


純粋に喜んでいると分かるアンドラ店長に、きっとこの人はエンジェ辺境伯令嬢の件に一切関わっていないんだと予想できた。

本当にいい意味でも悪い意味でも、全てお任せ状態なのだろう。


「気に入られていなければ、そもそも婚約式のドレスをオーダーしないと思うわよ」


「はい。本日妃殿下が来てくださり、不安が取り除かれました」


「どういうことかしら?」


「実はこの度のオーダーは、この店の経営者であるアンジャー侯爵から入ったものでして、ポニャリンスキ辺境伯家の方々とは交流がありませんでしたの。ですので、勧められて断りきれなかったのでは? と不安だったのです」


従業員にそんな不安を覚えられるなんて、あのおっさんここでも相当傍若無人っぽいな。

あの時もすぐに4着同じドレスを用意できたのも、相当無理を言って用意させたんだろうな。

じゃないと、昨日今日のような時間で同じドレス4着用意なんて至難の業だもんね。

あの時のドレスは可愛い巾着になって、侍女たちは喜んでいました。

ありがとうございます。


ってかさ、アンジャー侯爵家関わってないよね?

実は……みたいな展開止めてよ。


「嫌でしたら、いくら縁戚の勧めだとしても断っているはずよ」


「そうですよね。本当に安心しました」


アンドラ店長、人が良さそうで、この後のことに心苦しくなるな。

でも、性格と店長としての器は別問題だもんね。

そこまで気にしてたんなら、きちんとケアやらフォローやらしてたらよかったんじゃないのって話だからね。

もしかしたら口が上手いだけで、裏では態度最悪な人かもしれないしね。

お客様はお金様だもんね。


「それで、エンジェ様を担当されている方と相談をしながらプレゼント品を決めていきたいから、その方を呼んでくださる? その方ならサイズ直しも問題ないでしょうし」


「かしこまりました」


アンドラ店長は笑顔で了承してくれ、控えてた店員に「シュラーさんを呼んできて」と伝えている。




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