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午前中は書類仕事を黙々と片付け、お昼休憩をアズラ王太子殿下と取り、転移陣でアヴェートワ公爵家に移動をしてから無印の馬車で目的地に向かった。


「お姉様、どちらに行かれるのですか? 私もご一緒してもよろしいですか?」と腕に抱きついてきたシンシャ王女も同乗している。


そして、公爵令嬢時代ルチルを支えてくれていたカーネは、今シンシャ王女付きの侍女になっている。

カーネは、アマリン子爵令嬢と共に別の馬車に乗っている。


「お姉様、5月くらいにみんなで旅行に行きませんか? お兄様がポナタジネット国なら豪遊させてくださると仰っているんです」


「それはとても魅力的なお誘いですね。でも、その付近はシャティラール帝国に行かないといけないかもしれないんです。だから、予定を決められなくて……ごめんなさい」


「え? シャティラール帝国へ行かれるのですか? 行かれませんよね?」


慌てた様子で前のめり気味で驚かれたことに、ルチルの方が目を点にしてしまった。


「てっきりお姉様は行かれないものだと……」


「どうしてですか?」


目を大きく見開かせた後、視線を彷徨わせるシンシャ王女に首を傾げる。

何をそんなに悩ましげに困っているのかが分からない。


「あ、あの、お姉様。もしかして、続編を読まれていませんか?」


は? はぁ? はぁぁ?

あの本に続編なんて出てたの!? だってアズラ様死んでいないんだよ!

って、主人公のルチルが生きているからいいのか……


「もしかして、続編の舞台がシャティラール帝国なんですか?」


ん? 舞台がシャティラール帝国になるのなら、主人公はルチルじゃないかもか。


「その様子だと読まれていないんですね。そっか。私、てっきり知っていて、だからもしもを考えられて王子を生まないんだと思っていました」


「王子? 学園卒業後に生んで、王太子になる子ですよね?」


シンシャ王女が、わずかに顔を歪め俯いた。

彼女の瞳は、自身の太ももの上で組まれている両手を映している。


「……そうです」


「シンシャ様、そんなに落ち込まれなくても大丈夫ですよ。本は本ですわ。今だってこうして私とシンシャ様が仲良くしていることもですけど、何よりアズラ様が生きている未来になっています。たっくさんのことが本とは違いますから、続編がどんな内容だろうと『へーそうなんだ』くらいですよ。だから、教えてくれませんか?」


本当に「マジで? またそんな濃い話を」って驚くくらいだからね。

ここが本とは似て非なる世界だって分かっているから、何を聞いても落ち込まないよ。


「分かりました。お伝えします。それに、お姉様がシャティラール帝国に行かれるのなら知っておいた方がいいと思いますから」


ってことは、あたしが主人公のままなのね。

もう作者さんったら、あたしを大好きすぎるんだから。

あたしはアズラ様一筋だから困っちゃうぞ。えへ。


おふざけはここまでにして……まぁ、シンシャ様の言葉の端々から、あたしが主人公だと気づいてたよ。

だから、できるだけ優しい内容でお願いします。


「続編ですが、王子が5歳の時に暗殺されるところから始まるんです。そして、その魔の手がルチルにも伸びるんです」


お、おう、始まりからキツイな。

我が子が殺されるなんて、あたしなら刺し違えてもそいつを殺すわ。


「そして、その時にルチルを助けるのが護衛騎士のデュモルで、逃げる先がシャティラール帝国になるんです」


「……え?」


デュモルが続編に出てくる?

護衛騎士って……それって王家がつけたの? それとも、公爵家からずっとだったの?


「それで、シャティラール帝国の王都から近い街で2人は過ごしはじめるんですけど、お忍びで訪れた第2皇子にルチルは見染められて王宮に連れていかれるんです。第2皇子に籠の鳥にされたルチルを助け出すのが王太子なんですけど、王太子もまた守ってあげないととルチルを好きになってしまうんです。そして、第2皇子の時同様に囲われてしまうんですけど、デュモルが助け出してくれるんです。そのまままた逃げるのかと思ったら、ルチルはデュモルの手を振り切って、アズラを思いながら最後海に飛び込むところで終わるんです」


全然優しい話じゃなかったわ。

あたしも死ぬのね。

そっか。みんな死んでいく死に物語なのね。


「シンシャ様の心配は分かりました。でも、本当に気にもなりませんよ。デュモルはもういませんし、シャティラール帝国に一緒に行く相手はアズラ様ですしね」


「え? デュモル、いないんですか?」


え? ってことに、え? なんだけど……

クンツァ様は裏切り者として知っていたけど、シンシャ様はデュモルを知らなかったってことよね。

クンツァ様は、シンシャ様には本当に最低限のことしか話してないのね。

あれ? でも、デュモルの口からシンシャ様の名前出てなかった? 記憶違い?


「デュモルは、シンシャ様たちをも巻き込んだあの事件で、神殿側の人間として命を落としています」


「そ、うだったんですね……お姉様の周りにいないから、これから出てくるのかと……」


悲しそうに瞳を伏せるシンシャ王女になんとか微笑みかけようとした時、ルチルはハッとした。

神様に聞かないと分からないと思っていたが、シンシャ王女はあの時代の記憶を思い出したのだから知っているんじゃないか。

だって、同じ時代を生きていたはずなのだから。


「フラッと現れてはすぐに消えるから、神様に聞けるタイミングがなかったのよね。本当空気を考えて現れてほしいわ」と心の中で悪態をついてから、シンシャ王女に気づかれないように深呼吸をした。


「シンシャ様、おうかがいしたいことがあるんですが」


「なんでしょう?」


「ミルクはアズラ様がラピス・トゥルールにそっくりだと言っていたんですが、シンシャ様も誰が誰の生まれ変わりとか似ているとか分かるんですか?」


「生まれ変わりは分からないです。それに、アズラ様に似ているのが神様とラピスですので、他に似ている人がいるかどうかも分からないです」


それもそっか。

あたしとシンシャ様の感覚とデュモルが最後に残した言葉の意味は、根本的なところが異なるのか。

ミルクに聞いても「神様に聞け」としか言われなかったからな。

あの犬は時々ケチなんだよね。


「では、ラピス・トゥルールが生きていた時代に、ラピス・トゥルールを嫌っていた人と女神のように慕われていた人が誰か分かりますか?」


瞳をパチクリした後、真剣な面持ちで首を捻って考えはじめたシンシャ王女を、ルチルは真っ直ぐ見つめた。


今更、蒸し返したところで何も変わらないって分かっている。

気持ちを理解しようとしたところで、2度と笑い合えないことも分かっている。

でも、それでも、ただのエゴだとしても、どうしてあんなことをしたのか知りたい。


「きっと驚かれると思うんですけど」


「はい」


「ラピスとシャーマは、魅了の魔法でも放っているんじゃないかと思うほど全員から好かれたんです。神様の子供という補正があったのかもしれないと勘繰ってしまうくらい、嫌われたことなんてないんじゃないでしょうか。本当に人のために生きるような子たちだったんです。誰かのために行動でき、誰かのために涙する。そんな子たちで、子供らしさがなくて怖かったくらいです」


なるほどなぁ。

もしかしたら、そういう子を作ったから神様は一緒に育てるような素振りを見せなかったのかもな。

だって、いくら子供の瞳が金色じゃないからって理由だけで、神様からしたらいらない子だと思い込むには感情が激しすぎるものね。

そういう要因もあって、すれ違ってしまった溝が深くなりすぎたのもかもね。


「嫌うような人に心当たりはない。ということですね」


「はい」


「では、女神のように慕われていた人は誰か分かりますか?」


「シャーマじゃないでしょうか。あの時代に目立った女性といえばシャーマ以外には……あ! ルベアとラチアがいますね。でも、シャーマほどではなかったと思います」


「ルベアとラチアとは誰ですか?」


「え? ルベア・アヴェートワとラチア・スミュロンです。ラピスと一緒に語り継がれている人物です」


はい? 耳の調子がおかしいかもな。おーい、聞こえますかー?


じゃなくて!


女性だったの!? 物語はどれも男性の絵じゃない!

あれか? 全部ファミリーネームの方で語られているから、英雄だからって理由で勝手に男と思い込んで絵になったとかかな。


「私は封印時に転生をお願いして眠ったのでどちらが王妃になったのかは知りませんが、2人はラピスと付き合っていましたよ」


お、おう。そうなのね。


「あ、でも、2人が当主になっているのなら、2人とも王妃にはなっていませんね。ラピスは誰と結婚したんでしょう?」


そういえば、私も習ってないな。

なんでだろ?


「王宮に帰ったらアズラ様に尋ねてみます」


「分かったら教えてください」


小さく頷くと、シンシャ王女は朗らかに微笑んだ。

育児放棄をしたと聞いていたが、それでもやっぱりどこかに子供の恋愛の行く末が楽しみな親心が残っているのかもしれない。




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