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悪い笑みを浮かべそうになったが、顔に力を入れて耐えた。

体を起こし、極めて明るい声でアズラ王太子殿下に話しかける。


「アズラ様、足ツボマッサージをしましょう」


「え? マッサージは分かるけど、足ツボってなに?」


瞳を瞬かせながら体を起こすアズラ王太子殿下に微笑む。


「ツボとは、体の至るところにある経穴(けいけつ)の別名です」


「経穴? それをマッサージするの?」


「はい。ツボに刺激を与えることで臓腑が活性化されて体調が整うと言われているんです」


「そうなんだ。初めて聞く治療法だね」


「概念みたいなものですからね。悪いところは痛かったりするので好みは分かれますし」


針やお灸なら痛くはないけど、今からするのは曲げた指を押しつけてグリグリするマッサージだからね。

痛いかもしれないことは、先に言っておかないとね。


「痛いの?」


「人によってはです。さ、習うより慣れろっていいますからね。ぜひ体感してください」


「うん、楽しみ」


そうかい、そうかい。

あたしもアズラ様の反応が楽しみだよ。


ソファの肘掛けを背もたれにするようにアズラ王太子殿下に座ってもらい、ルチルは逆端に腰を下ろし、アズラ王太子殿下の足を太ももの上に置いた。

ソックスを脱がし、ズボンの裾を捲り上げた時、チャロが戻ってきた。

ルチルがアズラ王太子殿下の足を撫でているという不思議な光景に一瞬止まっていたが、何事もなかったかのようにテーブルに軽食をセットしている。


「では、いきますね」


「うん、お願いします」


ふふふ、前世で面白がって勉強したのよね。

痛くなければ不調はないってことであたしは安心できるし、もし不調があれば痛いから身をもって知ってもらえる。

こんなにもいい案を思いつくなんて、あたしグッジョブすぎる。


心の中で気合いを入れて、曲げた指の関節部分で土踏まずを押した。

アズラ王太子殿下が眉根を寄せたので、「やっぱりな」と思いながら押し続ける。


「アズラ様、ここは胃になります。痛くないですか?」


「痛いとかじゃなくて、ちょっとピリッとしたかな」


「きっと不規則な食生活で胃に負担がかかっているんですよ。このままだと痛くなるかもですね」


アズラ王太子殿下は難しそうに顔を顰めている。

痛気持ちいいと思ってもらえるように、土踏まずを丁寧に揉みほぐしていく。

順番に説明をしながら指を移動させてマッサージをしていくと、アズラ王太子殿下は頭と目の部分で胃の時と同じ反応を見せた。


スマホもPCもないのに目が疲れているなんて、仕事のしすぎだよ。

もっと自然を見た方がいいってことだよ。

それに、睡眠不足じゃない。

ここはもう1日、2人っきりでダラダラする日を作るしかないわね。


というか、学生の時みたいに休みの日を作る方がいいのかな?

時間調整が自由だから深く考えていなかったけど、休日っていう休日がないのがおかしいんだわ。


って、アズラ様は学生時代、平日は勉強、休日は仕事をしていたわ。

うわー、もっと真剣に週休2日制に取り組もう。

改革をしなきゃだわ。


「っ!」


「え? アズラ様、ここが痛いんですか?」


より強くグリグリと押すと、必死に何度も頷かれた。

一旦押すことを止め、深呼吸するアズラ王太子殿下を見つめる。


「ルチル、さっきのツボはなに? 僕、どこか悪いってことだよね?」


「えっと、そうですね。大切な所が悪いようです」


まぁ、大切じゃない所なんてないんだけどね。

でも、ここはショックを受けるだろうな。


「どこ?」


「生殖腺です」


「………………え?」


目を点にしているアズラ王太子殿下にルチルはハッとし、ここぞとばかりに攻めることにした。


「生殖腺とは、生殖細胞である卵や精子をつくる器官です。アズラ様はそこが不調のようです」


「え? ちょ、え? 嘘だよね?」


「嘘じゃありません。私も驚いています。アズラ様は睡眠時間は短く、不摂生で不規則な生活を送られていますからホルモンのバランスが崩れていてもおかしくありません。ストレスも関わってきますしね」


「え? ま、まって。そこって治るよね?」


「不調なだけですから、規則正しい生活をすればきっと大丈夫ですよ」


「ほ、本当に?」


「はい。病気であれば大きな問題になってしまうかもしれませんが、今は不調なだけですから」


「ま、まって。何度も不調って言わないで」


「すみません」


天を仰ぐように項垂れるアズラ王太子殿下の足を、さっきと同じようにほぐしはじめる。


「アズラ様、私が口うるさく言う理由が分かりましたか?」


「……うん、頑張るよ」


「私も今まで以上に一緒に食事や休憩をとれるように調整しますから、2人で改善していきましょう」


「それなら喜んで正していけそうだよ。ありがとう」


さっきと違いすぎる反応が可愛すぎて、つい小さく笑ってしまった。

笑われた意味が分かったのか、アズラ王太子殿下はわずかに頬を赤らめている。

その顔があまりにも愛しくて「アズラ様、本当に可愛いです」と言ってしまい、「可愛くないよ」と顔を背けられたのだった。




次話も2人の話になりそうで、話が進まなくて「ヤバいなぁ。これ、100話近くいきそうじゃない」とまだ書いていないのに戦々恐々しております。

皆様、のんびりとお付き合いいただきたく思います。よろしくお願いいたします。


いいねやブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 2話分で、やはり王宮はブラック企業(笑) 問題がないより問題がちゃんと上に上がるのは良いことなんだけどね〜 現世日本にもいますよね、働いてると逆に元気だよと言う人は!? …
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