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35

王宮に戻ってきたその足で、アズラ王太子殿下の執務室に急いだ。


「アズラ様、ただいま戻りました」


「ルチル、おかえり。来てくれるなんて嬉しいよ」


いつも通り立ち上がってハグをしに来てくれるアズラ王太子殿下に、ルチルからも抱きつく。


はぁ、落ち着くわー。

今日は、もうこれからの時間全て、アズラ様摂取時間にしよう。

急ぎの仕事は終わっているはずだからね。

うん、明日のために英気を養えよう。


「アズラ様、ここで過ごしてもいいですか?」


少し空間を開けて見上げながら伝えると、瞳を糸のようにして応えてくれた。


「いいの? 嬉しい。ルチル用の机を、そのままにしていてよかったよ」


そうかそうか。

そんなに喜んでくれて、あたしも嬉しいよ。


ご機嫌なアズラ王太子殿下はにこやかに椅子を引いてくれたが、ルチルが座りたい場所はそこではない。

笑顔で首を横に振って、アズラ王太子殿下の執務机の目の前に移動した。


「ルチル、どうしたの?」


「チャロ、ここに椅子を運んでほしいの」


「かしこまりました」


チャロは、少し戸惑っているアズラ王太子殿下から椅子を受け取り、すぐにルチルが指定した場所に置いてくれた。

ルチルは胸を踊らせながら椅子に座り、アズラ王太子殿下に笑みを向ける。


「アズラ様、私に構わずお仕事をしてください」


「え?」


「ほら、座ってください」


「う、うん」


執務机は、4人掛けテーブルくらいの大きさなので、そこそこ大きい。

ルチルが両肘をついて顔を支えながらアズラ王太子殿下を眺めていても問題ないくらいスペースはあるのだ。


困惑しながら椅子に腰掛けたアズラ王太子殿下に窺うように見られたので、小首を傾げながら微笑んだ。


「えっと、ルチル……本当にそこでずっと見ているの?」


「はい。大好きなアズラ様を観察するんです」


「えっと、仕事はいいの?」


「大丈夫ですので、存分に眺めさせてください」


「そ、そっか」


ふふふふふ。久しぶりのキョドりアズラ様可愛いわー。

そっかそっか。

エロいことより、こういうシンプルな方が耐性なくてキョドるのね。


まぁ、そうよね。

知らない間に見られていたとかじゃなくて、見つめる宣言された上で穴が開くほど直視されるんだもんね。

見られているって分かると緊張しちゃうよねぇ。


「アズラ様ってまつ毛長いよねぇ。伏せているといつもより分かってセクシーだし。お肌も綺麗だなぁ。頬っぺたつつきたいなぁ。すべすべしているから気持ちいいんだよねぇ。ってかさ、どうしてこんなに完璧な顔をしているんだろう? カッコいいし可愛いし綺麗だしって最強よね。だから、ドキドキしちゃうのかなぁ。瞳だって吸い込まれそうになるし」


「……ルチル、あの」


おやおや、文字を書く手が止まっているよ。


「本当に素敵な男性に成長したよねぇ。手なんて大きくてゴツゴツしているのにスラっとしていてさ。剣だこ触るのも気持ちよくて癖になるしね。努力の結晶だから愛しさが倍増するのよね。今は見えていないけど、鎖骨だって胸板だって完璧で離れられなくなるし。魅力がありすぎて、どんなに強い引力があるんだろうって1度研究してみたいほどよね。食べている姿も飲んでいる姿も見惚れてしまうものね。どうしよう。好きすぎて、本当に困るわ」


「ルチル、あの、ま、まって……」


あらあら、そんなに狼狽えちゃって、まぁ。

「好き」や「愛している」には耐性ができちゃったけど、細かく言われるとまだ照れちゃうのかぁ。

可愛いなぁ。

もっと言ってやろう。


「私の旦那様がアズラ様だなんて、こんなに幸せでいいのかなって考えちゃうよね。でも、アズラ様以外を好きになれないからなぁ。素敵すぎるのよね。歯止めが効かないほど大好きすぎて、どうしたらいいのか分からなくなるのよね。幸せで言ったら、朝起きた時に掠れた声で告げられる『おはよう』の破壊力よね。あれ、何気に昇天しそうなほど胸を鷲掴みにしてくるのよね。ああ、でも朝だけじゃないわ。夜は夜で私の息を止めにきているんじゃないかって思うほど美しすぎるものね。アズラ様の温もりがないと、私もう眠れない気がするわ」


「ルチル! 待って! ねぇ、待とう!」


耳まで真っ赤にしているアズラ王太子殿下が、持っていたペンを置いて顔を上げた。

ルチルは、ニコッと微笑みを向ける。


「どうされました?」


「嬉しいよ。嬉しいけど、文章が頭に入ってこなくなるから見ているだけにしてほしいんだ」


「え? 私、まさか声に出していましたか?」


わざと驚いたふりをして、両手で口元を隠した。

恥ずかしそうに慌てて、わずかに顔を伏せる。


「気持ちが膨らみすぎて心に留められなかったようです。はしたなかったですね。ごめんなさい」


「ううん、はしたないとかじゃなくてね。抱きしめたくなるから今はやめてほしいってことなんだよ」


「じゃあ、アズラ様に抱きしめられることを想像しながら、アズラ様を見つめていますので、仕事が終わったら引っ付かせてくださいね」


叩くように手を合わせ満面の笑みを向けると、アズラ王太子殿下は目と口を強く閉じて数秒悶えていた。

そして、小さく息を吐き出して大きく頷いてきた。


「分かったよ。頑張って早く終わらせるから、少し待っていて」


真剣な面持ちで真っ直ぐ伝えてくるから、いくつになっても愛らしいなぁとニヤニヤしてしまいそうになった。

でも、笑うと拗ねられるのは目に見えているので、なんとか耐えて笑みを深める。


「ゆっくりで大丈夫ですよ。アズラ様を見ている時間も幸せですから」


「ううん、僕が我慢できそうにないの。だから、ルチルは覚悟していてね」


「ふふ、望むところですね。どっちが相手を喜ばせられるか勝負しましょう」


「負けないよ」


「私も負けませんよ」


意気込んで仕事を再開したアズラ王太子殿下を見つめながら、「今までした事がないことって何があったかなぁ」と考えていた。




ルチルとアズラのバカップルのお話は続きます。


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