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「届いていないなんてことありませんよ。現にナギュー公爵令嬢に言われた言葉や今ここでしている発言は、私に届いているじゃないですか。私、自慢じゃありませんが女性では王妃殿下の次に偉いんですよ。それとも、夫人の言葉は王妃殿下が相手じゃないと届いたことにならないのですか?」
「そうやって私が悪者になっていくんですね」
あーね、本当にね。
何でもかんでも、そっちに捉えるよね。
何を言いたのか分かるよ。
「公爵家ばかりを優遇して、下の者が悪いと決めつけるのは声が届いたとは言いませんわ。だって、悲しい思いを飲み込むのは、いつだって下の者ですもの。改善されないのなら聞き届けられたことにはなりませんわ」
ほらね。思った通りだわ。
結局は、公平な判断なんて関係ないのよ。
自分を正しいと言ってくれないのなら、どれだけ親身になって話を聞いても「分かってくれない」の一言で済まされるんだから。
欲しい言葉は、解決方法じゃなくて同意してくれる言葉のみ。
今の場合、「ナギュー公爵令嬢を攻撃してしまったのは仕方がないことで、夫人は悪くない。メクレンジック伯爵を救わなかった人たちが悪いんだから」。
この言葉以外は、全部認めてもらえない。
しかも、言ったら最後。
水を得た魚のように罵詈雑言の嵐になるだろう。
「改善ですか。どのように改善されたらいいと思われるのですか?」
ってかさ、自分の意見を伝えたいなら目を見ろや。
真剣だって目でも訴えてこい。と思っちゃうのは、私の性格の問題なんだろうな。
でも、人見知りで怖いから目を逸らしてしまうタイプは、見ていたら緊張しているって分かるじゃん。
それに、ただ単に怖いとかでもない。
メクレンジック伯爵夫人のタイプは、それじゃないんだよね。
はじめから理解してくれない人とは会話をする気がないんだよ。
「まずは、怪我人は重要人物順ではなく、怪我をした順番に診てほしいのです」
「診ていますよ」
「診ていません! 妃殿下だってご存知ですよね! 私の夫が事故をした時、全員ナギュー公爵令嬢を助けに行きましたよね!」
目を見られるんじゃない。
言いたいこと全部ぶち撒けてきたらいいのよ。
私、本当の意味で傷つくとは無縁だから、全部受け止められるんだから。
アズラ様の前でだけ傷つくフリするだけだから。イチャイチャのためにね。
「あの時のお話をスミュロン公爵から説明されていますよね? 学園には私とキャワロール男爵令嬢が確かにいましたし、2人でナギュー公爵令嬢を治しました。ですが、それはスミュロン公爵が向かってきてくださっている間にですし、治せたのは奇跡です。医師であるスミュロン公爵が駆けつけるのは当たり前です。
それに、メクレンジック伯爵にも医師が行かれましたよね? その医師では難しいと判断してでの応援要請ですよね? きちんと医師は駆けつけているではないですか」
「はじめからスミュロン公爵が来てくださっていたら夫は死にませんでした!」
「それこそ違いますよね。スミュロン公爵家では、すぐに医師が駆けつけられるよう担当区域が設けられています。そして、スミュロン公爵は王族の主治医です。どこの区域も担当していません。ですが、少しでも力になりたいと陛下の許可を得て色んな方を診てくださっているのです。
それに、もし自由に動けた場合でも、全ての事故現場に赴けませんよね? 同時に事故が起こることなんてたくさんあるでしょうから」
そうよね。言葉に詰まるわよね。
伯爵が死んだのを誰かのせいにしたいのに、全部運が悪かっただけだったって言われたみたいなものなんだから。
運なんて言葉で片付けたくないわよね。
でもね、悲しくて辛いけど、今回のことばかりは運なのよ。
事故なんだもの。
悪意があったわけでもミスがあったわけでもないんだもの。
「だから……だから、上の人たちは優遇されているんです……はじめから優秀な医師を独占できるんですもの」
はぁ、絶対の絶対に認めたくないのね。
これは違う角度から切り込まないと無理かもしれない。
まぁ、別に事実を認めさせたいとかじゃないからいいのよ。
誰のことも攻撃しないようにしたいだけでさ。
不幸な境遇の自分が可哀想って思っていればいい。
前向きだけが幸せとは限らないもの。
好きじゃないけど、そういう生き方もある。
「スミュロン公爵はたくさんの方の元に足を運ばれているので独占をしていませんが、でもなぜスミュロン公爵への復讐がナギュー公爵令嬢なのでしょうか? スミュロン公爵令息との縁談が破談になれば傷つかれると思われたのですか?」
「それもありますが……その……1番は夫を殺したナギュー公爵を悲しませるためです。2つの公爵家がお互いに揉めればいいと考えたんです」
ええー、なにー?
新しいパワーワード出てきたんだけどー。
ぽんぽこ狸が何をしたっていうの?
ってか、そんなすぐにバレるような殺人をしないでしょ。
ぽんぽこ狸って、元祖ツンデレで宰相なんだよ。
あーあ、なんか疲れたからアズラ様のニヤけている顔でも思い浮かべて心を潤そう。
うふふふ。帰ったら虐……いじりたお……いやいや、撫で回して遊ぼう。
「だから、本当に妊娠するつもりで挑んだんです……」
え? 今まで以上にジメジメし始めたんだけど。
情緒不安定すぎない? 大丈夫?
なんか追い込まれすぎじゃない。
それの一端を今あたしは担っているんだろうけど、シトリン様に謝ってもらうまではあたしも謝らないからね。




