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アンバー卿にメクレンジック伯爵夫人を支えてもらいながら、メクレンジック伯爵家の馬車にルチルも乗り込んだ。

視線を彷徨わせて狼狽えているメクレンジック伯爵夫人に微笑みかける。


「じっくりとお話ししましょう」


「……はい。申し訳ございませんでした」


後悔の念を浮かべて目を伏せるメクレンジック伯爵夫人を見て、首を傾げる。


先ほどのお茶会の時もだが、シトリン公爵令嬢やスミュロン公爵から聞いた話のイメージでは、もっとイケイケで攻撃してくると思っていた。

自分は悪くないと主張してくると構えていた。

それなのに、何とも怯弱である。


開いたままのドアから「メクレンジック伯爵邸に向かうよう伝えて。みんなは私の馬車で追ってきてね」とアンバー卿に伝えると、「かしこまりました」と腰を折ってくれた。

2人っきりにできないと言われたらどうしようと悩んでいたので、心の中で安堵の息を吐き出す。


だが、顔を上げたアンバー卿の瞳にも、アンバー卿の後方に控えていたアマリン子爵令嬢の瞳にも怒りが見えて、苦笑いが出そうになる。

アンバー卿によってドアが閉まられ、今度は実際にホッと息を吐き出した。


馬車が動き出すまで何も話さず、演技かもしれないと考えながら俯いているメクレンジック伯爵夫人を眺めていた。


「メクレンジック伯爵夫人、先ほどは何を謝られたのでしょう?」


変な令嬢に絡まれたのは気の毒と思ったから助けたが、メクレンジック伯爵夫人を許したわけではない。

だから、言葉のチョイスがキツくなってしまうのは仕方がないことだ。


「妃殿下は、ナギュー公爵令嬢から話をおうかがいされたのだと気づきました」


「そうですね。夫人が未婚の女性にどんな暴言を吐いたかまで聞きました」


メクレンジック伯爵夫人は、ずっと自分の手元を見ている。


「……やはり、ナギュー公爵令嬢は特別なのですね」


「どういう意味ですか?」


「羨ましいということです。どんな場面でも優先されるんですもの。重症だった場合は国の優れた医師や聖女のお二方、少し暴言を吐かれただけで妃殿下がわざわざ足を運び、2つの公爵家からは謝罪がなければ爵位の剥奪をするなんて脅されるんですよ。何もかも爵位次第なんですよ。誰も私の味方にはなってくれません。私を追い込んだのは向こうなのに。私はされたことを返しただけなのに、私が謝らないといけないんです」


なるほどねー、こっちかー。苦手なタイプだわー。

オラーって向かってくる人は、こっちからもオラオラできるから得意なんだけど、鬱っぽいというかネガティブなのに絶対自分は悪くないって思っている人って折れないから苦手なのよね。

何を言っても堂々巡りだし、納得したように見せて全然納得してないのよ。

「分かっています。理解しています。私が悪いんですよね」って言いながら、ずっと文句を言い続けるのよ。

落とし所を見つけることができないのよね。

だって、自分の考え通りじゃないと、全部周りがおかしいって結論なんだもんなぁ。


「されたことと仰いましたが、ナギュー公爵令嬢に何をされたと言うのですか?」


「彼女に何かされたわけではありません。彼女を優先する周りにされたのです」


「では、ナギュー公爵令嬢ではなく、その周りに攻撃されるべきではありませんか?」


「ただの伯爵夫人でしかない私に、公爵家当主や聖女に攻撃しろと仰るんですか? 妃殿下は、大切な人以外は簡単に死んでもいいとお考えなんですね」


ああーん?

グジグジ小声で言い返してくる割には、結構なこと言ってくるじゃない。

聖女に攻撃って、それあたしも入っているんだよね?

今、それとなく攻撃しているんだよね?


受けて立とうじゃない。

あたしに口で勝とうなんて100万年早いわ!


「究極そうですね。もし目の前でアズラ様と国民に同時に矢を放たれたら、アズラ様が強いと分かっていてもアズラ様を庇いますわ。絶対に失いたくない方ですから。アズラ様がいない世界なんて、どうなろうといいんですよ。彼の幸せのために、私は私にできることをしていますから」


ほらほら、妃殿下にあるまじきとか、国母になれないとか言い返してきていいんだよ。


ん? でも、このタイプの人はそんな風に言ってこないか。

オラオラなあたしが思う言い返し方と違うよね。


「妃殿下も地位がありますからいいですよね。きっと今のお話も美談として称賛されますものね。私が同じ話をすれば爪弾きにされますのに……本当に弱い立場の者の声は届きませんわ」


うんうん、そうかそうか。

アズラ様が喜んでくれて、なおかつ、美談とされるなら喜んでいくらでも話すよ。


いやね、そこまで落ち込むことがあったんだよね。

きっかけは、きっと伯爵の死なんだと思うよ。

自暴自棄になっちゃう気持ちは分かるしね。

そういう人を嫌いだとは思わないよ。


でもね、それを言い訳に誰かを傷つける人や可哀想な自分に酔っている人は、どうかと思うよ。

負の感情に誰かを巻き込むって悲しいことなんだよ。

巻き込むなら、笑えるような陽の感情の方がいいと思わない?

あたしは断然そっちなんだけどなぁ。


それに、伯爵夫人って、そこまで弱い立場じゃないからね。

家の歴史や財力とか色々関係するから一概には言えないけど、やりたいことを見つけて始められる位置にはいるからね。




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