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曖昧な笑顔にならないように微笑み、「3煎目や4煎目も試してみませんか?」と告げた後に、何かに気づいたように目を見開き口元を隠した。


「妃殿下、どうされました?」


申し訳なさそうに眉尻を下げ、困ったように微笑む。


「実は私、いつ妊娠してもいいように、妊婦についてたくさん勉強しているんです」


「まぁ! そうなのですね」


食いついてくれると思ってたよ。

あたしの妊娠がいい餌になるのなら、いくらでも使うよ。

さぁ、覚悟してもらいましょうか。


脳内でゴングを鳴らし、演技を続ける。


「それで、妊婦の体にいいもの悪いものを調べているうちに、紅茶やお茶に入っているカフェインが良くないことを知りましたの」


「え? そうなのですか? え? どうしましょう……茶葉が原因ですの? え? 夫に言わなければ……どうしましょう」


狼狽えはじめるポルトゥバッテン侯爵夫人を落ち着かせるように、少し前のめりに身を寄せた。


「夫人、大丈夫ですわ。私はまだ妊娠しておりませんし、紅茶やお茶は素晴らしい嗜好品ですもの。子供のために我慢した分、再び飲めた時に喜びが増すはずです。頑張ったご褒美用の紅茶を売り出してもいいですしね」


「ぁ、え、ええ、そうですね」


「飽きられることはありませんから大丈夫です。ポルトゥバッテン侯爵にもお伝えください。新しい売り出し方をアヴェートワ商会と一緒に考えましょうと」


「え、ええ! ありがとうございます! 忘れずに伝えます!」


うんうん、よかったよかった。

マイナスイメージなこと言っちゃってごめんね。

これを言わないと、攻撃できないからさ。

もし売り上げが落ちるようなら、紅茶のスイーツを考えて茶葉を購入するからね。


「私がこの場でそのような発言をしましたのは、妊娠している方がいらっしゃるので、その方の害にならないようにと思ったからです。大切な体ですもの。大事があったはいけないでしょ」


「え? 今、この場にですか? いらっしゃらないはずですが……」


ルチルは姿勢を正し、メクレンジック伯爵夫人に微笑みかけた。

全員がルチルの視線を追い、顔を強張らせているメクレンジック伯爵夫人を見ている。


「メクレンジック伯爵夫人、お子様ができたそうですね。おめでとうございます。先ほど申した通り、これ以上お茶を飲まれない方がよろしいですよ」


「あ、の、はい、いえ」


ん? もしや妊娠していない?

誰かとの子供を身籠もって、その子をあたかもフロー様の子だと言い張るんだと思っていたのに。

シトリン様を泣かせて、婚約を解消させたかっただけとか言うの?


「ラリマー夫人、そうですの!? どうして教えてくださらなったんです。おめでたいことですのに」


メクレンジック伯爵夫人の隣に席に座っている令嬢が、顔を輝かせながら伝えている。

その令嬢以外は、気まずそうに視線を彷徨わせている。

それもそうだろう。一体誰の子供だろうと、考えを巡らせているはずだから。


というか、様子を窺っていて分かったことだが、この場の誰もメクレンジック伯爵夫人の妊娠を知らなかったようだ。


誰にも伝えていないってことは、本当に妊娠していない?

シトリン様が騒いだら、どうするつもりだったのかしら?

醜聞になるから何も言わない、とでも思ったのかな?

公爵家が明言を避けたとしても、四大公爵家同士の婚約が破棄なんてされたら理由がバレないわけないのに。


「それは、えっと、まだ安定期ではありませんので、皆様には落ち着いてからと思いまして……」


「え? ごめんなさい。秘密でしたのね。それを、皆様の前で言ってしまうなんて、本当に申し訳ありませんでしたわ」


少し大袈裟に驚いて、俯きがちに謝罪した。

素直に謝っている姿は周りに好印象を与えるだろうし、そんな空気の中メクレンジック伯爵夫人も文句を言えなくなる。

ここでルチルに対して口悪く言うものなら、お茶会メンバーから負のイメージを抱かれ、面白おかしく吹聴されるかもしれないからだ。

ルチルは、あくまでメクレンジック伯爵夫人の体を心配しただけなのだから。


「い、いえ、妃殿下は私の体を気遣ってくださっただけですから。お気遣いいただき、本当にありがとうございます」


「いいえ、私が迂闊でしたわ。本当にごめんなさい。お詫びに、私がお手伝いできそうなことはありませんか? もしくは、体に良さそうな食べ物を贈らせていただきますわ」


「そこまでしていただかなくて大丈夫です。謝罪も必要ありませんのに、していただいただけで十分です」


「でも、私が納得いきませんから、食のアヴェートワとして体にいい食材をお贈りさせていただきますね」


「身に余る光栄です。ありがとうございます」


どんよりしかけた空気が、和やかなものに変わった。

ルチルがポルトゥバッテン侯爵家の侍女に、お水を運ぶようにお願いをする。


「でも、本当に羨ましいですわ。私も早く懐妊をして、嘘を吐く方々を牽制したいのですが……」


「嘘を吐く、ですか?」


メクレンジック伯爵夫人が体を揺らしたことを視界の端に捉えながら、ポルトゥバッテン侯爵夫人の問いに悲しげに答える。


「はい、そうなんです。昔1度アズラ様と何もないのに側室になると噂を流したご令嬢がいたように、アズラ様と1度も関係を持っていないのにアズラ様の子供ができたと訴える方がいらっしゃるんです」


本当はそんな人いないけどね。

いないからこそ、誰も糾弾されないからこそ、こういうお茶会で言えるんだよね。

架空のライバルさん、ごめんよ。


「そういう方を牽制するためには、私が早く第1王子になる子供を生めたらと思うんですが、熱い夜を過ごしていても授かることは難しくて……でも、ここだけの話。素晴らしい魔道具を製作中ですの」


「それは、どのような魔道具ですか?」


「親子関係を調べられる魔道具です」


令嬢たちの反応は薄かったが、夫人たちは息を飲み込んだり目を丸くしたりと忙しくしている。


「子供から親は誰がというのは無理なんですが、子供と親の髪の毛があれば、その親子が本当に血が繋がっているかどうか分かるんです。ですので、アズラ様の子供だと言い張られても問題なくなるんです」


「まぁ! 画期的な魔道具ですわね。それが完成しましたら、胸が痛くなるような話も少なくなるかもしれませんわ」


「そうですね。私だけではなく、皆様のお役に立てそうですね」


色んな所から上がる賞賛の声に「今は嘘だけど、作ってもらうようにするから。ごめん」と胸を痛めながら、やりきった感に心を軽くしていた。


ふふふ、本当に妊娠しているかどうかはこの際置いといて、これでもう何もできないでしょうよ。

お腹が大きくならなければ、妊娠自体が嘘。

子供を生んだとしても、DNA鑑定をされるかもと怯えて近づいてこようとしないはず。

八方塞がりで、何もできないわよね。はっはっはっはっは!


それにもう、嘘がバレて捕まらないように、どっかに逃げるしかなくなったしね。

家族や仲のいい友人、住み慣れた家や思い出を捨ててもらおうじゃない。

婚約者を奪おうとしたんだから、復讐を選んでしまうほど愛した伯爵との思い出が詰まっている家を捨ててもらうわよ。

あたし、かなり怒っているからね。

言葉通り1人になるという罰を背負って、馬鹿なことをしたって大いに反省してほしいわ。


ただもし流産したとかの嘘をつくようなら、もっと辛いお仕置きを考えるからね。

嘘をつき続けるのなら、覚悟してかかってきなさいよね。




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