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侍女からはアマリン子爵令嬢を伴い、メクレンジック伯爵夫人が参加するというポルトゥバッテン侯爵家のお茶会に赴いた。

馬車での外出になるので、ルチル専属の護衛騎士アンバー卿・シーラ卿と王族専用近衛騎士隊から3名がルチルの護衛にあたる。


苛烈なアズラ王太子殿下には「5人……ううん、10人つけよう」と言われたが、仰々しくなるのは目立ちすぎるので丁重にお断りしている。


まぁ、何度も「でも」と「いいえ」が往復し、アンバー卿が「命に代えてもお守りします」と頭を下げてくれたおかげで、何とか諦めてくれたのだが。

もう苛烈を超えて激烈である。


「王太子妃殿下。本日はお越しくださり、誠にありがとうございます」


少し尖っている顎が特徴的なポルトゥバッテン侯爵夫人が出迎えてくれた。


「頭を上げてください。こちらこそ無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございます。参加させてもらえて本当に嬉しいです」


「いいえ、いいえ。妃殿下に興味を持っていただけるなんて、こんなにも光栄なことはありません。ぜひ感想をお教えください」


ポルトゥバッテン侯爵家は、領地にお茶畑を持つ貴族になる。

この世界では紅茶が好まれて飲まれていて、有名なポルトゥ紅茶はポルトゥバッテンの名から取られた商品名になる。


そして、去年から新しい試みとして黒茶を作りはじめている。

夫人のお茶会で試飲をしてもらい、改良を重ねているところだそうだ。

ルイボスティーが流行ったことで新たなお茶に挑戦したらしいと、調べてくれたケープから聞いている。


だから、ルチルが参加したいと手紙を送った時、大いに喜んだはずだ。

ここで気に入ってもらえば、王妃殿下やルチル主催のお茶会で飲まれ、一気に流行らせることができる。

アヴェートワ商会に売り込まなくても、ルチルの一声で取り引きが決まるかもしれない。


そういう希望がひしひしと感じられる参加オッケーの返信を、ポルトゥバッテン侯爵夫人から受け取っていた。


ちなみに、緑茶は不発酵茶・紅茶は茶葉の酵素による発酵茶になり、黒茶は麹菌等での後発酵茶になり、全て同じ茶葉からのお茶になるよ。

黒茶とはプーアール茶のことで、プーアル茶・ポーレイ茶と呼ばれることがあるよ。

数年ぶりのルチル1口メモでした。


お茶会場になっている部屋に通されると、部屋にいた夫人や令嬢たちが一瞬だけ動揺し、すぐに立ち上がり腰を折ってきた。


ポルトゥバッテン侯爵夫人には、ルチルが参加することを隠してほしいとお願いしていた。

どうやら、約束をきちんと守ってくれていたようだ。


「皆様、楽にしてください。私もぜひ新しいお茶を味わいたくて参加させてもらっただけですので。皆様と楽しく試飲できればと思っています」


微笑みながら見渡し、メクレンジック伯爵夫人がいることを確かめた。


逃げられたらと思って参加を秘密にしてもらっていたが、平然とした態度を見る限りバレていても逃げられなかったような気がする。

それとも、まだ知られていないと思っているのか、公の場で何もされないと思っているのか、分からないが逃げそうにないのなら好都合である。


席に案内され、ルチルが腰を下ろすと、侍女が黒茶を淹れはじめた。


ああ、そうそう、これこれ。

プーアール茶の匂いだわ。懐かしい。

ダイエット目的で飲む女の子が多かったなぁ。

プーアール茶には、コレステロールの抑制・便秘解消・冷え性改善・免疫力アップ・がん予防・美肌効果・老化防止があるって言われてたもんなぁ。

でも、中国茶葉の店主さんは、「本当のところは誰にも分からないけどねぇ」と笑ってたな。


あたしはそこまで好んで飲んでいなかったけど、揚げ物と合うって分かってからは、揚げ物の時だけ飲んでいたのよね。


それに、不思議話もある。

プーアール茶は熟成過程でカフェインが少なくなるって言う人もいたけど、緑茶や紅茶と同じ茶葉なんだから普通にカフェインはある。

これは、きちんと論文と数字で出ている。

本当のところはどうか分からないし、何を信じるかは人によって違うだろうしね。

ペットボトルでカフェイン無しっていうプーアール茶も販売されていたしね。


淹れてもらった黒茶の匂いを嗅いでから、口に含んだ。


なるほど。

ちょっと茶葉を入れすぎかな。

茶葉はごく少量でいいし、苦手な人には2煎目3煎目の方が飲みやすいのよね。

5煎目くらいまで飲めるから、しっかりと味わえるお茶なんだよね。


口当たりは滑らかだが癖がある匂いと味だからか、反応に困っていそうな人たちが数名いる。


「妃殿下、いかがでしょう。お口に合いますか?」


少し顔を強張らせたポルトゥバッテン侯爵夫人が尋ねてきた。

周りが固唾を飲み込んで見守っている雰囲気が伝わってくる。

王太子妃のルチルが「美味しい」と言えば賛同するだろうし、「美味しくない」と言えばもう1口も飲まないだろう。

だからこそ、ポルトゥバッテン侯爵夫人は緊張している。


「そうですねぇ。淹れ方の工夫次第で美味しくなると思います」


「……淹れ方ですか?」


「はい。よろしければ、私に淹れさせてくださいませんか?」


「え? ええ? そそそんな妃殿下に淹れていただくわけには!?」


「私は有り難いことにアズラ様と結婚させていただきましたけど、その前は食のアヴェートワ公爵家でスイーツの開発を手伝っていたんです。ですので、新しい食べ物や飲み物に触れると、こうしてみたいって熱が出てしまうんです。ポルトゥバッテン侯爵家の大切な茶葉だと分かっていますが、ぜひ試させていただけませんか?」


嫌だとしても、相手は王太子妃なのだから何度も断ることはできない。

それに、ルチルのスイーツ開発の名声を知らない者はいない。

ここまで言われてしまったら折れるしかないのだ。


「実は少し行き詰まっておりましたので、そう仰っていただけて感謝しております。妃殿下の力で、ぜひ美味しいお茶にしてください。お願いいたします」


「ふふふ、まだ感謝しないでください。試すだけですから、ものすっごく不味くなる可能性もあるんですから」


悪戯っ子のように少し声を弾ませて言うと、緊張の糸を切らせたような小さな笑みが至る所で上がった。

ポルトゥバッテン侯爵夫人も、柔らかい笑顔になっている。


ルチルが立ち上がると、すぐさまアマリン子爵令嬢が側にやってきた。


「妃殿下、私が淹れますので指示をください」


「大丈夫よ」


「私が淹れますから指示してください」


うっ……これはお願いした方が、後から小言を言われないわね。

アマリン様は基本穏やかだけど、時々笑顔で迫ってくるのよね。

昔からアンバー様と仲良いのも納得よね。


「では、お願いするわ」


「お任せください」


ちょっと上がった心拍数をバレないように落ち着かせ、アマリン子爵令嬢の横に立ち、淹れ方を伝えていく。

茶葉は少量でいいこと、1度茶葉が浸る程度に熱湯を入れてすぐに捨てること。

そして、再びお湯を入れ1煎目を渋い顔をしていなかった人たちに、2煎目を渋い顔をしていた人たちに配ってもらった。

ポルトゥバッテン侯爵夫人には、違いが分かるように2杯配ってもらっている。


「味がしっかりとしている茶葉のようですから、何度もお湯を入れて味の変化を楽しめると思ったんです」


ルチルは口をつけてから、笑顔で頷いた。


「うん、飲みやすくなりました。これくらいだと食事の邪魔になりませんから、すっきりと飲めますね」


ルチルの様子を窺ってから、恐る恐る飲んだポルトゥバッテン侯爵夫人は顔を伸ばしている。

まさか2煎した茶葉で、お茶の味を楽しめると思っていなかったのだろう。

「さすがです、妃殿下」と満面の笑みで喜んでくれた。


これからお茶会を壊してしまうかもしれない、せめてものお詫びができてよかった。

ポルトゥバッテン侯爵夫人、本当にごめんなさい。

お祖父様とお父様に黒茶のことを伝えておくから許してね。




書きたいところまで、と書いていたら長くなりすぎました。

3ページ投稿します。

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