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朝早くにケープがやってきて、何でも屋で依頼をした時の話を報告してくれた。

録音機から聞こえる内容に「面白いじゃない」と呟き、薄く笑う。


「見張りをつけておりますので、接触すれば分かるようになっています」


「ありがとう。答えを聞くまでは泳がせておいてね」


「かしこまりました」


ケープが退席すると、すぐにアンバー卿が入ってきた。

どこか怒っているように見えるアンバー卿に笑顔を見せる。


「アンバー様、どうされました?」


ちなみに、アマリン子爵令嬢たち侍女は執務室で仕事の準備をしてくれているので、今は2人っきりになる。


「どうされたではありません。なぜオニキス卿がいないのですか?」


「オニキス様には彼にしかできない仕事をお願いしました。終われば帰ってきますよ」


「私たちにとって、妃殿下をお守りする以上に大切な仕事はありません」


アンバー様が激おこプンプン丸だわ。プンプン。

って、懐かし言葉を言って遊んでいる場合じゃないわね。

どうにか宥めないとだけど……アンバー様に注意じゃなくて怒られるのって、初めてかしら?


「そうですね、私もそう思います」


「だったら――


「でも、私は欲張りだから後悔したくないんです。あの時ああしていればって悔やみたくないんです。だから、オニキス様にお願いしました。彼が適任でしたから」


「しかし、オニキス卿はこの隊の部隊長です。他の者ではダメだったのでしょうか?」


「ダメなんです。彼じゃなきゃいけないことなんです」


ん? 苦々しい顔?

あ、そっか。アンバー様はオニキス様がいないことより、オニキス様が内密の仕事を任されたのが不服なのね。

どうして自分じゃないのかって憤っているってことね。

オニキス様を羨む場面が多かったもんなぁ。

オニキス様が部隊長で、誰より悔しい思いをしたのはアンバー様だろうしね。

落ち着いたら指輪の秘密くらいは、アンバー様に内緒で伝えようかな。

話すには、リバー作の防音の魔法陣が必要だからね。


「それに、私の周りにはアンバー様たちがいてくれますしね。オニキス様の穴を埋めてくれ、必ず守ってくれるって信頼しているからオニキス様にお願いできたんです。オニキス様だってそう思っていなきゃ、私の側を離れないですよ。だって、アズラ様が怒るじゃないですか」


ハッと体を揺らしたアンバー卿は、勢いよく頭を下げてきた。


「申し訳ございませんでした。アズラ王太子殿下が許可していることに、私が口を挟むなんて言語道断でした。深く反省いたします」


いや、アズラ様のイメージってどんな感じなの?

他の騎士ならまだしも、アンバー様がそんなに慌てるほど怖いの?

よく知っているよね?

かっわいい犬属性の男の子だよ。

ちょっぴり闇を抱えている部分もあるけど、基本甘々ほわほわだよ。


「私は妃殿下一筋だと自負していますが、その私より王太子殿下は苛烈ですから。そんな王太子殿下がオニキス卿を外していいと仰られるなんて、相当な理由があるからなんだと分かります。なのに、そこまで考えが至らなくて、妃殿下に対して失礼な物言いをしてしまいました。本当に申し訳ございませんでした」


今一度腰を折るアンバー卿に「許す」と言わなくてはいけないのに、笑いを堪えていて言葉が出てこない。

早く頭を上げるように伝えたいのに、口を開こうとすると笑い声が漏れてしまう。


「ふっ……アンバー様……ふふ……い、いいから……ふっふふ……大丈夫です……」


「妃殿下?」


「あー、だめ。無理っ」


お腹を抱えて笑い出すと、アンバー卿に目を点にされた。


「あはははは、だってアズラ様を苛烈って、はー、お腹痛い、確かに苛烈だけど、でもはっきり言います?」


怖いじゃなくて、盲目すぎる愛の方ね。

そっちか! って笑っちゃったわ。

まぁ、でもそうよね。

アズラ様が何事もあたし中心で考えるって、アンバー様は知っていることだものね。


「言いますよ。私は剣しか磨けませんでしたが、王太子殿下はあらゆる分野を習得されましたから。さすがに医学は驚きましたしね」


「そうですね。お医者様としても働ける腕前になってしまいましたものね」


しっかりと2回頷くアンバー卿が面白くて、笑いが収まってくれない。

ルチルが底なしに笑うから、アンバー卿も今の会話がじわじわとおかしく感じてきたのか、小さく笑いはじめた。

となると、目を合わせた途端、明るい笑い声が重なり合う。


「あー、本当にお腹痛い」


「私も久しぶりにここまで笑いました」


目尻に浮かぶ涙を拭いながら、体から空気を抜くように息を吐き出す。


「アンバー様。さっき言いましたけど、本当にアンバー様たちの力を信じているからこそ、オニキス様に仕事を頼めたんです。アズラ様も同じ気持ちだと思います。だって皆様、苛烈なアズラ様が選んだ騎士ですもの」


「はい、私は私の仕事を全うします。必ず妃殿下をお守りします」


「ありがとうございます。信用していますわ」


「はい、お任せください」


真っ直ぐに見つめ合い、今度はくすくすと小さく笑い合った。


「それと、怒られついでだから今伝えるんですけど、今日と明日の予定を大幅に変更します」


「何をされるんでしょうか?」


ふっふふふふ。

黒幕は分かったからね。1つ1つもいでいくのよ。

まぁ、ホーエンブラド侯爵家にとって、全員ただの駒だろうけどね。


「今日はメクレンジック伯爵夫人が参加するお茶会に顔を出して、明日はエンジェ様に贈るドレスを注文しに行きます」


「それは……」


「カッコいい悪役王太子妃になってみようかなと思いまして」


唇の端を得気に吊り上げると、アンバー卿は頬を緩めた。


「どこまでもお供いたします。存分に暴れてください」


「はい、楽しみにしていてくださいね」


ここにオニキス卿がいれば天を仰いでいそうなほど、悪どく笑ってしまったのだった。




お仕置きまで辿り着きませんでした……(ノ_<)

次話こそはメクレンジック伯爵夫人とバトル?します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! アズラ様は、ある女性(誰とは言わないくてもね〜)の前だと可愛い大型犬! また、ある人達(キライな人たち)の前だと危険なドーベルマン(狼)などの大型犬かな(笑)…
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