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苦悶するように眉根を寄せたアズラ王太子殿下の瞳を、力強く見つめ続ける。
「罰なら私が受けます。オニキス様は私の命令で動いただけですので」
「ルチル、オニキスの所属は近衛だよ」
「王太子妃殿下を担当している近衛騎士で、私の護衛騎士です。周りに贔屓だと非難されても構いません。特別扱いと思ってもらって結構です。私の愛人だと公言してもいいです」
「ダメだよ! 嘘でも許せないよ! ルチルの唯一は僕だけなんだから!」
「はい、私のたった1人の人はアズラ様ですよ。だけど、アズラ様とはまた違う、相棒に近い人がオニキス様なんです」
「分かってるよ。オニキスは僕にとっても、かけがえのない存在だから」
「それは少し妬けますね」
「僕は常日頃妬いているよ」
ルチルの柔らかい口調を真似るように言ってきた姿が綺麗で、吸い寄せられるようにアズラ王太子殿下の唇を舐めた。
アズラ王太子殿下は瞳をパチクリさせた後、可笑しそうに笑いながらルチルの唇を舐めてくる。
「私、オニキス様だけじゃなくて、大切な人たちには悲しんでほしくないんです。みんなと笑って過ごしたいんです」
「うん、ルチル。僕は、ルチルの女神のように愛情深いところが大好きだから分かるよ」
今、大切な話し合いをしていると分かってる。
でも、突っ込ませて。
アズラ様。女神のような性格なら、たぶん全人類の幸せを願うと思うよ。
あたしのは大切な人限定だからね。
本当に、ルチルバカは天井知らずなんだろうな。
「それに、物怖じしない行動力にも憧れている」
ごめんなさい。
それは、もう性格を変えることのできない精神年齢だから、これと決めたら突き進んじゃうだけです。
「さっきも言ったけど、私情を挟んでもおかしくないほどオニキスは大切な友人なんだ。だから、今回ルチルが無茶をしたことに、どこか心を救われた。僕の中でもオニキスの恋は引っかかるものがあったからね」
「アズラ様……」
「ルチル。協力するから、本当に自分の身を第1に考えて行動してね。それと、オニキスとの仲を勘違いされるようなことはしないこと。僕、嘘だと分かっててもオニキスを許せないと思うから」
朗らかに微笑むアズラ王太子殿下に強く抱きつくと、包み込むように抱きしめ返してくれる。
アズラ様に相談していたら、オニキス様をセラフィ様のところに配置しなくても大丈夫な、妙案を提案してくれたと思う。
でも、安全だと分かっていても、オニキス様の心にはセラフィ様の安否が引っかかったままになってしまったと思うのよ。
そのせいで、気持ちが落ち着かなくなったり、昔に引きずられてしまったら悪循環でしかない。
大切な人の無事な姿は、自分の目で確認するまで不安を拭いきれないものだから。
騎士にあるまじきだとしても、騎士だって人間だ。
心は強くなるためにも必要なものだから、絶対に蔑ろにしてはいけない。
なんて、あたしがそうしたいだけであって、騎士のみんなは確固たる意志を持っているんだろうけどね。
全部、あたしの我が儘でしかないのよね。
「ありがとうございます。アズラ様も気をつけてくださいね。私を苦しめるには、アズラ様を傷つけるのが何より有効ですから」
「僕よりルチルが心配だよ。僕が命に代えても守るけど、もしもの時は何も気にせず指輪を使ってよ」
「守ってくださるのは心強いですが、命には代えないでください。アズラ様が死んだら私も死にますからね。天国まで追いかけてお説教ですからね」
膨れっ面をしながらアズラ王太子殿下の胸を軽く叩くと、アズラ王太子殿下は幸せそうに頬を緩めた。
あざとい行動好きだよね。
こんなのにって思わなくないけど、好きな人を心地よくさせるだけなんだから、使える手はいくらでも使うよ。
アズラ様の優しい心を利用して、私の意見をゴリ押しさせてもらったも同然なんだから。
申し訳ないと思う以上のありがとうを送らないと。
まぁ、オニキス様のいない今日が、アズラ様と一緒にいるからっていう理由は大きそうだけど。
明日から、どうするかよね。
自由に動けるよう考えなくちゃ。
「ごめんごめん。言葉のあやだよ。ルチルとこの先やりたいことがたくさんあるのに、死んでできないなんて、そんな勿体無いことできないよ」
「本当にそうですよ。私を泣かせないでくださいね」
「泣かせないよ、絶対に」
頬にキスをしてくるアズラ王太子殿下にキスをし返して、解けないよう視線を絡ませる。
深い口付けを交わそうとした時、ドアがノックされ、「両殿下、そろそろ執務に戻られてください」とチャロの声が聞こえてきた。
どこかから見ていたのかと思うほどタイミングが絶妙なチャロの声かけに、アズラ王太子殿下と笑い合ったのだった。
新事実、オニキスは部隊長になっていました。
次話からはルチルが動きまくる予定です。お楽しみに。
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