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アヴェートワ公爵家での話し合いを終え、王宮に戻り、書類整理をしながら待ってくれていた侍女たちに弟と父親は無事だということを伝えた。

みんな安心したように体から力を抜いている姿に、心配してくれていたことがありありと分かり、心の中で感謝を述べた。


ミルクは起きるまで、見える範囲にいてもらうことにした。

今はルチルの執務室で眠っているが、夕方からはアズラ王太子殿下に見守りをお願いしている。

心配だからといって、ナギュー公爵家に連れていくことはできない。

撫でると口元を緩めるから大丈夫だと思っているが、それでも心配なものは心配なのだ。


ミルクがいてくれて、本当によかったわ。

起きたら、お腹が破裂しない程度にスイーツをプレゼントしなきゃ。

ケープのところに連れてってあげて、1日遊んでもらうのもいいわね。


そろそろ1度休憩をしようと腕を伸ばした時、ドアがノックされた。

すぐにアマリン子爵令嬢が、ドアを開けて対応してくれる。


「妃殿下、キャワロール男爵令嬢がお見えです。いかがいたしましょうか?」


「応接室に案内をして。すぐに行くわ」


「かしこまりました」


アマリン子爵令嬢が部屋を出ていく姿を見ていると、オニキス卿が話しかけてきた。


「なんかさ、ここ数日おかしくない?」


「なにが?」


「なーんか、妃殿下の周りばかりが忙しないなぁと思ってね。だって、この流れってさ、絶対キャワロール嬢も『妃殿下、助けてください』でしょ」


「時間ができたからお茶を飲みにきたってだけじゃない? スピネル様、たまにフラッと来ては城下町の噂を教えてくれるでしょ」


「いーや、俺の勘が問題事を持ってきたと言ってるね」


「嫌なこと言わないでよ」


「楽観視しない方がいいっていう親切なのに」


いやいや、そういうのをフラグって言うのよ。

あー、絶対に立った。

オニキス様が変なこと言うから、絶対に何か起こるわー。

ううん、人生にそんなにポンポンとフラグなんて立たないわよ。

可愛い戯言よ、戯言。大丈夫ったら大丈夫。


気を紛らわせながら応接室に入ると、スピネル男爵令嬢が怒りを露わにしている顔で待っていた。

引き攣りそうな頬を叱咤しながら笑みを作り、挨拶をしてソファに腰掛ける。


「妃殿下、知恵を貸してください!」


オニキス卿から「ほらね」というような勝ち誇った顔を向けられていると、後ろに立たれているのに感じる。

だが、今はそんなことよりも目の前のことだ。


「突然どうされました?」


「聞いてくださいよ! うちの親が勝手に縁談を決めたんです! 最低だと思いません!? 私、縁を切るって手紙送ってるんですよ! それなのに、急に会いに来て『縁談が決まった。娘のお前に拒否権はない』って言うんですよ! 腹立つ!!」


スピネル様は、教会に捨てられた過去があるもんね。

それは、ムカつくと思うわ。


両手にお菓子を持って頬張りながら食べているスピネル男爵令嬢を見て、「この子は変わらないなぁ」と小さく笑ってしまった。


「何回かお金をせびられたんですよ。でも、私それを無視してたんです。だから、これはお金目当てに私を売るってことですよ。10歳までしか育てなかったくせに、どれだけ私で金儲けしようとしてんだって怒りが収まりません!」


「そこまで怒らなくて大丈夫ですよ」


「怒りますよ! 私の人生は私の物なんですから!」


「それは間違いありませんが、スピネル様の婚姻は王家を通さないと成立しませんから」


「え? そうなんですか?」


ああ、驚いた拍子に止まったから、口からお菓子の屑がいっぱい落ちたよ。

白衣についたから目立ってる。

職場に戻る前に着替えるよう、別れる前に言わないとだわ。


「そうですよ。光の魔法の使い手は王家か教会に入ることが義務付けられていて、スピネル様は王家に入ってはいませんが籍は預かっている状態です。スピネル様の身元保証人には、父であるアヴェートワ公爵がなっていますので間違いありません。教会から離れて王宮に入るためには必要だったので、スピネル様にも署名いただいたはずですよ」


「……そんなこともあったような」


隠していないから、きちんとスピネル様について調べれば分かることなのよね。

キャワロール男爵家にもその旨は通達しているし、たんとお金を支払ったはず。

お金で買ったみたいになるから、スピネル様には言えないけどね。


「ええ!? じゃあ、どうして両親は縁談なんて持ってきたんですか!?」


「それは私にも分かりませんが……ちなみに、お相手の方はどなたですか?」


スピネル様は光の魔法の使い手だから、取り込みたい家は多いと思うのよね。

だから、王家にバレないように密かに押し進めたってことは、相手側にかなり力があるってことだと思うのよね。

まぁ、密かに進めようが何だろうが、王家が了承しなければ簡単に白紙になるんだけど。


「えっと、ジェード・ベネディアートです。シャティラールの侯爵家って言ってました」


開いた口が塞がらない。なんてことにならないように気合いを入れて口を閉じた。

動揺を悟られないように、笑みを薄く貼り付ける。


「シャティラール帝国ですか?」


「はい。鉱山を何個も持っている家で、宝石商を営んでいるって言ってたような気がします。だから、年齢は離れているけど幸せになれるだなんだほざいてました」


「年齢ですか?」


「そうなんですよ。ここがまた怒りどころなんです! 相手の年齢が55歳なんです! ふざけていると思いません! 夫人に先立たれていて愛妾ではないから安心しろなんて言うんですよ! 脳みそ腐ってるんじゃないかって怒鳴りましたよ!」


55!?

いや、年齢で判断してはいけない。

だって、私はイケオジ最高!派の人間で、お祖父様が好みど真ん中なんだから。

それに、どんなに年齢が離れていても、好きになったら愛を育むことはできる……と思う

前世よりも今世の方が、年齢の壁は低いだろうしね。


まぁでも、スピネル様は反対派の人だろうというか、会ったこともない55歳とはイケオジ最高!派のあたしでさえ無理だわ。

ベネディアート侯爵がイケオジとも限らないしね。


「それはちょっと離れすぎですね」


「ですよね! 両親よりも年上なんですよ! そんなに結婚したいなら自分たちがしろよって思いません!?」


その後もテーブルに並べられたスイーツがなくなるまで文句を言い続けて、スピネル男爵令嬢は仕事に戻っていった。

ルチルは「そうですね」「ムカつきますね」と相槌を打ちながら、「ここでシャティラール帝国だなんて、こんな偶然があるんだろうか?」と考えを巡らせていた。




いいねやブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


余談→不定期更新と言いつつ毎週日曜日に投稿をしていましたが、来週は投稿をお休みします。再来週は投稿できると思います。

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