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15

「ルチル、僕にできることはある?」


ルチルの背中に手を添えてきたアズラ王太子殿下の瞳を力強く見ると、穏やかに微笑んでいる。

ルチルを落ち着かせようと、心を配ってくれている。


「使用人と騎士たち全員を廊下にお願いします」


「分かった」


アズラ王太子殿下はルチルの背中を柔らかく叩き、チャロとオニキス卿に命令をし、部屋から家族以外を出してくれている。


「お父様、ミソカの腕はありますか?」


「ここだ。ミソカは戦いながらも、吹き飛んだ腕を御者に探させたそうだ。治してもらえると信じているんだろう」


気になることを言われたが、今は追求している時間はない。

ミソカの命は、刻一刻と削られている。


父が大事に抱えていたモノがミソカの腕だったようで、白いシーツの中から傷だらけの腕が現れた。


絶対に綺麗にくっつける。

くっつければ血は止まるから、これ以上危険にならない。


すぐにミソカの体に腕を引っ付け、ルチルは大きく深呼吸をした。


『我が治す』


言うや否やミソカに息を吹きかけるミルクに、自分が治すと気張っていたルチルだけが瞳を瞬かせた。


ミソカが淡く光りだし、自分よりもミルクに治してもらった方が確実だと気づいた。


ミルクとミソカの仲が良かったから連れてきただけで、ルチルの頭の中からミルクが何でもできる神獣という事実が抜け落ちていた。

ここ最近は、毎食よく食べるのに太らない犬という認識になっていたのだ。


ミルクが吹き続ける息の量に比例するように、ミソカの姿は白い光に包まれていく。


神様、どうかミソカをお救いください。

ミルクの治癒が成功しますように。


両手を組み、息を潜めて、ミルクとミソカを見守っていると、最後に大きく一息吹いたミルクがふらつきながら倒れた。


「ミルク!」


『……疲れた。我は寝る』


ミルクの瞳は閉じられ、無防備なお腹が規則正しく動きはじめる。


「ね、ねぇ、ミソカが光ったままなんだけど、どうしたらいいの?」


ルチルだけではなく全員が困惑していると、眩しかった光は次第に小さくなりミソカの姿形が見えた。


そして、ミソカの瞼が揺れ、ゆるゆると開けられる頃には、何にも邪魔されないミソカの顔を全員で覗き込んでいた。


「あれ? ここは……僕……」


「ミゾガざまー!」


しっかりと話し、ゆっくりと起き上がる姿に、ルチルたちは同時に安堵の息を吐き出す。

シンシャ王女は、大号泣しながらミソカに抱きついている。


「お姉様! お会いできて嬉しいです!」


うん、ミソカ。姉もあなたが元気になって嬉しいわ。

ミルクに感謝感激雨霰よ。


ただね、命を落としかけていたのに、起きた直後がその言葉ってどうなの?

泣いているシンシャ様を抱き留めて、あやすように背中を叩いて行動で示しているとしてもね。

まずは、シンシャ様に声をかけるべきなんじゃないの?

お父様たちから吐き出されたため息も聞こえているわよね?

可愛く笑っている顔で、何かを期待しているように見ないで。


「お姉様? 僕に会えて嬉しくないですか?」


あざとく首を傾げながら見つめてくるんだから。

成長期で急激に大きくなっちゃったけど、相変わらず顔はめちゃくちゃ可愛いから抗えないわ。


ルチルは涙を拭い、安心したように微笑んだ。


「嬉しいわよ。ミソカが元気になって本当によかったわ。ミルクには感謝しなきゃね」


「ミルクが助けてくれたんですね。僕からも何かお礼します」


ミソカは、空いている方の手で、眠っているミルクの体を優しく撫でながら「ありがとう」と囁いている。


「シンシャ。これ、僕の血? お風呂で流しておいで」


「いいえ、ずっと側にいます。今日は絶対に離れません」


「分かったよ。後で一緒に入ろう」


「はい」


ん? うーん?

何か聞こえたような気がするんだけどなぁ。

でも、みんな普通なんだよねぇ。

いや、アズラ様だけ狼狽えてるわ。

ってことは、空耳じゃなく、ミソカとシンシャ様は日頃から一緒に入浴していると。


ルチルは納得したように小さく頷いたが、その後1拍分綺麗に固まってしまう。

そして、叫びそうになるほど驚愕した。


ええ!? 何それ!? 羨ましすぎる!

あたしでさえ、あんなにラブラブでもアズラ様に拒否られたのに!


いやいや、そういうことじゃなくて、アヴェートワ公爵家側は気にしていなくても、クンツァ様が知ったら廃人になるわ。

最悪ミソカに決闘でも申し込むんじゃないかしら。


「ねぇ、ルチル。婚約者なら一緒に入浴することは当たり前なの?」


「どうで――


「殿下、まさか結婚前にルチルと一緒に入浴したとか言うんですか?」


低すぎる祖父の声や父の睨みに、アズラ王太子殿下が両手を前に突き出して大きく振った。


「してない! してないよ! 僕はきちんと守ったよ!」


祖父と父が背中に背負った炎のせいで上がった部屋の温度が下がり、ルチルが苦笑いをした時、部屋のドアがノックされた。

スミュロン公爵が到着したというブロンの声が聞こえ、ドアが開けられる。


治っているミソカに驚かれたが、聖女のルチルが部屋にいたので、スミュロン公爵は納得してくれた。


念のためミソカを診察してもらっている間に父の傷を治し、父の体調も確認してもらった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 前回までの恋愛物語と、不穏な国の動きになれてたら、突如の襲撃! 前話の不穏なたくらみ?につながるのか? 助かってよかった! ミルクさんが犬あつかいされるほど…
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