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「王太子妃殿下。相談したいことがある」


フロー公爵令息の足から痺れがなくなり、全員を見送ろうとした矢先に、ジャス卿に言われたのだ。

ジャス卿に頼られることは少ないので、少し嬉しく思いながら笑顔で快諾した。


「エンジェ嬢のことなんだが……」


「エンジェ様がどうされました?」


「最近、元気がないんだ」


「何かありましたか?」


「それが教えてくれなくて……この前遊びに出かけた時にレストランやカフェにも行ったんだが……遠慮したのか食べてくれなくて……」


「体調が悪かったとか?」


ジャス卿に首を小さく横に振られる。


「俺も聞いてみたんだが、元気だと言われた。お腹が空いてないだけだと」


「本当に空いていなかったわけではないってことですよね?」


「ああ、朝から買い物をして昼に行ったんだ。空いてないなんておかしい」


うん、それは絶対に嘘だろう。

食べることが大好きなエンジェ様が、嘘をついてまで食べないのか。

何があったんだろう?


「1度、エンジェ様と話してみますわ」


「シトリンのことで大変なのにすまないが頼む」


「いえいえ、シトリン様もエンジェ様も大切な友達ですから。私が笑っていてほしいんですよ」


「ありがとう」


安心したように微笑むジャス卿に、笑顔を返した。

というのが、昨日の起こった全てのことだ。


そして、寝ずに書いたというフロー公爵令息から朝一で手紙を受け取り、休みのアンバー卿に持っていってもらった。


ルチルが行きたかったが、昨日の今日で外出予定を組み込むことができなかった。

代わりに、明日は丸1日予定を空けることができている。


休日のアンバー卿には申し訳なかったけれど、落ち込んでいるシトリン公爵令嬢には友達からの方がいいだろうと思ったことと、アンバー卿が自分で名乗り出てくれたので甘えることにした。


読むかどうかは分からないけれど、アンバー卿からなら受け取ってはくれるだろうという打算もあった。


ルチルからは、エンジェ辺境伯令嬢に「何時でもいいので来てください」と手紙を送っている。

すぐに「仕事が終わり次第お伺いいたします」という返事が、エンジェ辺境伯令嬢より返ってきた。


次期公爵夫人だが、エンジェ・ポニャリンスキ辺境伯令嬢はアヴェートワ公爵家が営んでいるネイルサロンにて働いている。

公爵夫人としての勉強をしながらなので、ネイルサロンに赴くのは週の半分くらいなのだが、まさに今日が出勤する日だったようだ。


昼食時になり、久しぶりにアズラ王太子殿下とお昼を取ろうと思ったルチルは、アズラ王太子殿下の執務室を訪ねた。


「アズラ様、昼食をご一緒いたしませんか?」


「嬉しい。すぐに用意させるね」


見目麗しい好青年に育っているが、ルチルからすればやっぱりカッコいいよりも可愛いと感じてしまう。

そして、嬉しそうに微笑まれると、胸が温かくなり幸せを実感する。


時間が合わない時はお互い執務室で食べてしまうのだが、共だって食べる時は応接室の1室を利用している。


1人だと簡単に済ませるので、執務机やローテーブルでも構わない。

でも、2人並んできちんと食事をするのなら、応接用のローテーブルでは食べづらくなる。

だから、ダイニング用のテーブルがある応接室に移動をしている。


応接室にあるテーブルは8人掛けのゆったりとしたテーブルだが、2人は対面や斜めに座ることはない。

必ず横並びで席に着き、食べるというよりイチャイチャを楽しんでいる。


「ねぇ、ルチル。執務室の壁を無くそうと思うんだけど、どう思う?」


もうアズラ様ったら、相変わらず過激なことを言うんだから。


至極真面目な表情をしているアズラ王太子殿下に届くことはないので、心の中では茶目っ気たっぷりに答えるルチルである。


結婚して王宮に戻ってきたけど、思ってたより一緒の時間がないからだろうなぁ。

学生の時の方が、まだ時間があったような気がする。

夜の引っ付き方でそろそろ限界かなと思ったから今日のお昼を誘ったんだけど、正解だったみたいね。


「嬉しいです。でも、いつもアズラ様を見ることができるとなると、ずっと見てしまって仕事が進まなくなるから困りますわ」


よし、口元緩んでるな。


「それに……」


「それに?」


ルチルは頬を赤らめながら視線を外して、アズラ王太子殿下のジャケットの裾を摘んだ。


「私、ついアズラ様とのことを惚気てしまうんです。アズラ様に聞かれたら恥ずかしくて顔が見れなくなります」


「どんなことを惚気てくれているの? 僕、知りたいな」


「それは……」


「それは?」


覗き込むように見つめてくるアズラ王太子殿下の視線と、絡ませるように瞳を動かした。

ジャケットの裾を摘んでいる手を握られたので、握られていない方の手を体で隠しながら椅子の横で軽く振る。


護衛騎士や給仕を外に出す合図になり、チャロとアマリン子爵令嬢が全員の退出を促してくれるのだ。

部屋にはルチルとアズラ王太子殿下2人っきりになるため、護衛の面では渋られるのだが、5分だけと約束をして席を外してもらっている。


「アズラ様がカッコよすぎて苦しいとか、抱きしめられると安心するとか、もっと手を繋いでいたいとか、ずっと側にいてほしいとか、話すだけで嬉しいとか、色々です」


先ほど絡めた視線を再度逸らすと、握られた手に力が込められ、頬にキスされた。

耳にもキスをされ、ゆっくりとアズラ王太子殿下を見ると、顎を掴まれ唇を重ねられる。


何度も体を重ねているうちに、恥ずかしさは薄れたのだろう。

もう震えるようにキスされることはなくなり、1度触れ合うと激しく求められる。


少し残念に思うが、これはこれで萌えるのでルチルは身を任せるようにしている。


それに、どれだけ暴走されようと、5分後にチャロが叩くドアの音で、アズラ王太子殿下はいつも目が覚めたようにイケイケではなくなってしまう。

なんとも不思議な現象である。


「あ、ごめんね。苦しくなかった?」


「大丈夫です。幸せでした」


「僕も。本当に毎日幸せだよ」


至近距離で微笑み合い、最後に可愛いリップ音を鳴らして、手は繋いだまま体を離すのだった。





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