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ルチルは、頭の中で「閨の先生」というワードについて思考を巡らせた。


確かに、閨の先生には未亡人がつく習わしがあるらしいけど……。


ラリマー・メクレンジック伯爵夫人は、未亡人だもんね。

だから、当てはまるのよね。


でもさ、先生になったとかって、秘密にしなきゃいけないことなんじゃないの?


そんなイメージだけど、今回のように子供ができたら言っていいもの……なのか?

そもそも閨って本番と一緒なの?


そういえば、さっきフロー様は、子供はできるわけないみたいに言ってたな。

だったら、やっぱり最後まではしないのかな?


うーん……前世の本の知識しかなくて、さっぱり分かんないわ。


あたしが読んだことある本なんて「経験は閨の勉強の時だけだから勘違いしないでほしい」みたいなことを言う話と、閨の先生とラブラブになっちゃう話でさ。


どっちも小説だから現実味……って、ここも18禁小説になぞられている世界だったわ。

そう考えると「うふふ、きゃはは」していても普通なのか。


まぁ、どっちだろうと聞くに限る。


その前にと、真っ赤になっているアンバー卿に視線を向けた。


オレンニュ伯爵が年上ということもあり、友人内ではアンバー卿が誰よりも先に嫁ぐだろうと思っている。


でも、アンバー卿は護衛騎士として一人前になるまではと、結婚には今1歩踏み出せないそうだ。

オレンニュ伯爵は、一緒にいられるのならどのような形でもいいと言ってくれているらしい。


2人がどんな触れ合いをしているか分からないけど、手まで赤くしているのだから、きっと耐性はないのだろう。


当初は、事実確認と気持ちや理由を聞くだけの予定だったから、気になるだろうと同席を許可した。

だけど、際どい話を未婚の女性に聞かせるのはどうかと思う。


「アンバー様、席を外して大丈夫ですよ。ここからは聞かれない方がいいと思います」


「い、いいえ。大丈夫です」


「でも……」


「居させてください」


真っ直ぐ真剣に見つめられ、ルチルは困ったように微笑んだ。


「少しでも無理だと思ったら、気にせず席を外してくださいね」


「お心遣いありがとうございます」


ルチルはにこやかに微笑んでから、フロー公爵令息に視線を向けた。

でも、フロー公爵令息はいまだに狼狽えている状態なので、ルチルは尋ねる相手を変えることにした。

まずは一般的な知識を、と思ったのだ。


「アズラ様。私、お祖父様とお父様が過保護ですので、よく知らないんですが、閨の授業は皆様通るものなんですか?」


アヴェートワ公爵家の男性陣が過保護という言葉に同意見なのか、アズラ王太子殿下は苦笑いしながら教えてくれた。


「うーん、過保護というか、閨に関しては詳しく女性に言わないんじゃないかな。男性は、尊厳を守るために失敗しないようにって教わるものだからね」


「そうなのですね」


「それと、閨の授業を全員が通るかどうかは、その家によって違うと思うよ。実際に僕は本だけで勉強したわけだし、オニキスだって授業を受けるような環境じゃなかったしね」


オニキス卿を見ると、小さく微笑まれる。


「俺は、父に勧められたが断った」


ジャス卿にはっきりと言われて、ルチルは小さく頷いた。


「では、アズラ様たちは、実際の閨がどのように行われるかはご存知ないってことですね」


「うん、知らないね。授業内容も人によって違うかもしれないしね」


なるほど。案外自由なのね。

ということは、実際のところ何をしたのかは部屋の中の2人しか分からないってことか。


ルチルはもう1度頷いて、フロー公爵令息に視線を送った。


「フロー様。詳しく聞きたいのですが、先ほど妊娠の可能性はないと仰られましたよね。最後までされていないということですか?」


「あの、その……」


「いや、フロー。ここで赤くなっても仕方ないから。照れる方が余計に恥ずかしくなるって。今しているのは卑猥な話じゃなくて、フローの命運を握った事情聴取だから」


オニキス卿の言葉に、ハッと体を揺らしたフロー公爵令息は、途端に真面目な顔付きになった。

というより、いつもの平静な雰囲気に戻ったのだ。


後ろめたいんじゃなくて恥ずかしがっていたと分かって、黒だと思っていたフロー公爵令息が段々と白に見えてくる。


「もう1度尋ねます。最後までされていないんですか?」


「していません。女性の体の構造を教えてもらうために触りはしましたが、キスもしていません」


「それを証明することはできますか?」


「できませんが、神様に誓えます。それに、メクレンジック伯爵夫人は妊娠しづらい体だから先生にぴったりだ、と勧めてきたのはナギュー公爵です。スミュロン公爵家には話を通していると……だから仕方なく……」


「は? それ言うの遅くない?」


オニキス卿の言葉に全員で頷くと、フロー公爵令息は気まずそうに視線を落としている。


「まぁ、しづらいだけでしないわけではありませんしね。でも、色々引っかかる方ですね。わざわざシトリン様に言いに行くというのもおかしいですし。ナギュー公爵は他に何か仰っていました?」


「他にも何も」


「そうですか。とりあえず、フロー様の言い分は分かりました」


「では、シトリンと会えますよね!」


「いいえ。シトリン様は今とても動揺されています。それは、フロー様にも言えることです。今のお2人が落ち着いて話し合えると思えません」


「そ、うですね……」


「でも、手紙ならお渡しいたしますよ。書くときに言葉を考えられますし、読むシトリン様もゆっくり読めるでしょうから」


「ありがとうございます! きちんと想いを書いて持ってきます」


ようやく安心できたのかフロー公爵令息の体から力が抜け、前屈みで倒れるように傾いた。

長い間正座をしていた反動で足が痺れてしまったようで、低い声で呻きながら何度も体を揺らしている。


その姿にオニキス卿がすかさずフロー公爵令息の足を突つきに行き、みんなで笑い合うことができたのだった。





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