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夜になり少し広めの応接室にて、ルチル・アズラ王太子殿下・アンバー卿・ジャス卿・オニキス卿がソファに座っている。

そして、出入り口近くでフロー公爵令息が正座をしている。

顔色は悪く、身は縮こまっている。


それぞれの侍女や侍従には、席を外してもらった。

座っているが騎士が3名いるのだからと、他の騎士は廊下で待機させている。


「えっと、一体何があったの? 日中、騒々しかったことと関係があるの?」


この状況を不思議がっているアズラ王太子殿下が、ルチルに問いかける。

ジャス卿にしっかりと頷かれて、言葉は発せられなかったが同意見だと示された。


「男性の意見も聞きたいと思いまして、アズラ様たちには来ていただいたんです」


「フローが何かをしたってことだよね?」


「はい。ラリマー・メクレンジック伯爵夫人と浮気をされたそうなんです」


アンバー卿がずっとフロー公爵令息を睨んでいる中、初耳だった男性陣3人は時を止めた。


アズラ王太子殿下は、錆びついた機械のようにゆっくりとルチルを見た後、正座しているフロー公爵令息を勢いよく見ていた。

ジャス卿は「そうか」と呟き、オニキス卿はソファの背もたれに体を預けながら息を吐き出している。


「フロー、何やってんの?」


呆れたように言うオニキス卿の声に堪えたのか、フロー公爵令息の肩が揺れた。


「俺も同意見だ。父が言うには、バレることはしてはいけない。するのなら絶対にバレない時を選ばないといけないらしい。だから、そういう目を養えてから遊ぶものだそうだ」


ええ!? ルクセンシモン公爵、そんなことを教えているの!?

いいの? それ!?

ほら、アンバー様の顔がもっと険しくなったよ。

それは言っちゃダメだったんじゃない?


「みんな、待とうよ。本当に浮気したかどうかは、まだ分からないでしょ。フローの話を聞いてみようよ」


たった1人だけ優しい言葉を言ったからだろうか、フロー公爵令息がアズラ王太子殿下に縋るような瞳を向けた。


「フロー、本当はどうなの? ラリマー・メクレンジック伯爵夫人と関係があるの?」


フロー公爵令息は、誰が見ても分かるほど挙動不審になり、そして、かすかに頷いた。


ため息が2個聞こえたからジャス卿とオニキス卿だろう。

だが、ゆらりと立ち上がり傍に置いていた剣を取ろうとしているアンバー卿に気づくや否や、体を掴んで止めていた。


「姉上、落ち着いてください」


「待って待って待って」


必死に止めてくる2人を振り払おうとしているアンバー卿を止めたのは、冷静なルチルの声だった。


「アンバー様、落ち着いてください。とても腹立たしいけれど、フロー様をどうこうできるのはシトリン様だけです。私たちは正確な情報を得て、シトリン様に何をどう伝えるのか決めなければいけませんわ。その上でシトリン様がどうするかになります」


冷静な声だが、ここにいる誰もがルチルが怒っていると肌で感じていた。

平坦すぎる声が、怒りを抑えていると表している。

面持ちも先ほどから一才表情が変わらない。

優しく笑っているのに、目の位置も頬の膨らみも動かない。

辛うじて動くのが口だけだから、余計に怖いのだ。


短く息を吐き出したアンバー卿が「失礼いたしました」と頭を下げたので、ジャス卿はそのまま手を離し、オニキス卿は盛大に安堵の息を吐き出しながら座り直している。


「フロー様、教えてください。どうして浮気なんてされたんですか?」


「う、う、浮気ではありません」


唾を飲み込んだフロー公爵令息に、意を決したように言われた。

怯えているが、しっかりとルチルと瞳を合わせている。


「お相手のラリマー・メクレンジック伯爵夫人は、妊娠されているかもしれないんですよ。それでも、浮気ではないのですか?」


「にっ、んしん……」


驚きすぎて声を出したのはアズラ王太子殿下だが、アンバー卿以外は目を丸くして固まっている。


まだ子供がいない貴族の家に子供を授かることは本来なら喜ばしいことで、一気にお祝いムードになるのだが、今回ばかりは祝いようがない。

初めて聞いたアズラ王太子殿下たち3人は、苦そうに顔を歪ませた。


「まままってください! ありえません!」


思いがけない事故に巻き込まれたような沈痛な空気を壊したのは、フロー公爵令息の声だった。


「どういうことですか?」


フロー公爵令息がどんなに必死に訴えても、ルチルの雰囲気が変わることはない。

だからこそ、恐ろしいのだ。


「ここ子供ができるなんておかしいんです」


「しかし、関係をもたれたのならあり得ますよね?」


「かか関係といっても、その、あの……」


「はっきりと言えないってことは、そういうことですよね?」


「ちち違います」


アズラ王太子殿下たちは割り込んであげたい気持ちもあるのだが、ルチルが怖すぎて口を挟めないでいる。

行く末を見守るしかなく、誰もが邪魔をしないように徹していた。


「ですから、その……ね、ねやの先生なんです……」


これにはルチルも心の中で言葉を反芻するしかなかった。


閨の先生って言った、よね?

え? え?

えー、うん、ん? え?





5月の4連休のどこかで続きを投稿したいと思っています。


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