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披露パーティーが終わり、ルチルとアズラ王太子殿下はこれからが本番みたいなものだ。
今日からついてくれる侍女たちに念入りに体を洗われ、脱がしやすい寝着を纏う。
「頑張ってください」とルチルよりも興奮している侍女たちを下がらせて、寝室のソファに寝転んだ。
疲れたー。
アズラ様には悪いけど、初夜より寝たい……
朝から動きっぱなしで本当に疲れたよ……
ノックの音が聞こえて、姿勢を正した。
ドアがゆるりと開き、真っ赤な顔のアズラ王太子殿下が入ってくる。
ヤバい。アズラ様の緊張が伝わってきて、あたしまで張りつめてきた。
慎重に隣に腰掛けるアズラ王太子殿下は、ルチルを見ようとしない。
斜め前1点だけを見つめている。
緊張のしすぎは、よくないよね。
緊張で記憶が曖昧になったり、失敗したりするかもだしね。
「アズラ様」
「ひゃい」
ひゃい?
盛大に噛んだよね?
アズラ様が、ひゃいって……
あまりの可愛さに反対側を向いて、笑いを噛み殺した。
「わ、笑わないでよ」
「笑って……ふふ……笑ってませんよ」
「笑ってるよ。笑うなら隠さず笑ってよ」
そう? じゃあ、遠慮なく。
お腹を抱えて声を上げると、アズラ王太子殿下が真っ赤な顔で恥ずかしさに震えた。
涙が溜まるほど散々笑ったルチルは、アズラ王太子殿下の肩に寄りかかる。
「私の緊張を解すために、ありがとうございます」
「違うけど、僕も緊張が解れたから結果としてよかったよ」
小さく笑うと、不貞腐れられた。
アズラ王太子殿下の手をとって手の甲にキスを落とすと、熱を帯びた瞳を向けられる。
「あ! アズラ様、お酒飲みましょう!」
「……うん、梅酒飲もうか」
空気を壊して、ごめんね。
アズラ様の緊張が、また膨れ上がったからさ。
心臓が口から飛び出さないように、必死で唇を合わせているみたいに見えたんだよね。
息止めてたっぽいしね。
それにね、瞬きはした方がいいよ。
焦点合わなくなるからね。
お酒飲んで、少しリラックスしよ。
「飲み比べしましょう」
「そうだね。美味しいといいな」
既に机の上に用意されている梅酒を、お互い注ぎあった。
軽くぶつけて乾杯する。
「美味しい」
うんうん、まろやかで飲みやすいね。
「美味しいですね。日付が変わった時に、陛下とは何を飲まれたんですか?」
「父上お勧めのワインだよ」
「酔われましたか?」
「ううん。二日酔いもしてなかったでしょ」
「はい、今日も麗しくてカッコよかったですよ」
「嬉しい。ルチルは綺麗で可愛かったよ」
飲みやすいお酒は危険だということを、ルチルは知っている。
この場で知らないのはアズラ王太子殿下のみ。
それぞれのお酒を1杯ずつくらいでと思っていたのに、緊張のせいか、アズラ王太子殿下の飲むペースが早い。
先程から「僕は出会った日に好きになっていた」と、蕩けた顔で昔話をしてくれている。
「アズラ様、お水飲まれますか?」
「ううん、おさけおいしいねぇ」
うっ!
ふにゃっているアズラ様、可愛すぎでは!?
緊張で酔いが早いのか、お酒に弱いのか分からないけど、完全に酔っぱらってるな。
どうしたものか……
「ルチル、あのね」
「どうされました?」
「ぼくね、ねやのほんでがんばって、べんきょうしたんだ」
うん、知ってるよ。
入れ替える前の近衛騎士が教えてくれたからね。
あの人、本当に下世話だったわ。
「そこにね、はじめては、いたいってかいてたんだ。ぼくね、ルチルがいたいのやなんだ。でもね、いたくないほうほうかいてなくてね。いたくして、ルチルにきらわれたら、どうしようとおもって」
なるほど。それであそこまで緊張してたのね。
「私が、アズラ様を嫌うことなんてありませんよ。痛いんだとしても、その相手がアズラ様なら嬉しいです。アズラ様と繋がった実感が湧くんですから」
覚悟の上だから、どんときていいんだよ。
「ルチル、やさしいね。うれしい。はやくつながりたいね」
アズラ王太子殿下の顔が近づいてきたので、目を閉じた。
が、倒れてきたアズラ王太子殿下の重みに、ルチルも後ろに倒れる。
いやー、お約束すぎない?
ちょっと危ないかなぁと思ってたけど、本当に寝てしまうとは。
声をかけたり背中を叩いたりしていたが、起きる気配が一向に感じられない。
ルチルは息を吐き出してから、数分かけてアズラ王太子殿下の下から抜け出した。
待ちに待った夜だったろうに。
明日の朝、泣くだろうなぁ。
アズラ王太子殿下の頬を突つくと、寝言で名前を呼ばれた。
ほんのりと幼さが残る可愛い寝顔と優しい声に、今日何度目か分からない幸福で心も体も一杯になる。
愛しい時間を堪能した後、アズラ王太子殿下の頬にキスをした。
この初夜の微笑ましいエピソードは側近までが知る物語であり、2人は何歳になっても蜜月を過ごす理想の夫婦になる。
王位を譲って隠居してからは旅行三昧になり、屋敷には思い出の品が並ぶようになる。
毎日平和に暮らすその物語は、また別のお話。
〜 fin 〜
完結となりました。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
毎日ルチル達のことを考える日々は充実していて、とても楽しかったです。
読んでくださる皆様がいることは、書き続けるという意思を強いものにしてくれ、喜びを与えてくれていました。
本当にありがとうございました。めちゃくちゃ感謝しています。ありがとうございます。
今、次の話を書いては消し、書いては消しを繰り返しています。
これを書きたい!という話が固まりましたら、投稿を始めようと思います。
その時に、またお付き合いいただけたら幸いです。
ルチル達を見守り続けていただいて、本当にありがとうございました!!!




