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結婚式が終わり、今はパレード中。

王都の街をゆっくりと回りながら、王宮に帰っていく途中になる。


国民に手を振りながら、アズラ王太子殿下が楽しげに声をかけてきた。


「あの神官って、神様だったりするの?」


歓声が馬車の周りを埋め尽くしていて、隣にいるからどうにか聞こえる声の大きさだった。


「バレちゃいましたか。ミルクが協力してくれたんです」


なんて、本当は指輪を買いに行った日の夜に、お婆さんが突然部屋に現れて、ノリノリで提案してくれたんだけどね。


「だから、父上たちを説得する場にミルクもいたんだね。でも、みんなにはどう説明するの? シトリン公爵令嬢とか、同じような式がしたいって言いそうだよ」


「神様だって正直に話しますよ。私たちの結婚は、神様が祝ってくれる結婚なんだって」


「誰も文句が言えない夫婦になれたってことだね」


「はい。私たちは、神様が認めた夫婦です」


幸せそうに微笑むアズラ王太子殿下と、顔を見合わせた。

お互いの頬にキスし合うと、歓声が一段と大きくなる。


神様の司会進行で、あたしがしたかったことは2つ。


1つは、アズラ様との仲の良さ。

誰にも邪魔できない夫婦だって示すこと。

横槍やチャチャは煩わしいし、ヤキモチは楽しんだので、もうやめてほしい。


もう1つは、黒目黒髪の人たちへの認識をより一層変えるってこと。

神様が笑顔でセラフィの歌を全国民に聞かせたんだから、神様は何一つ邪険にしていないと伝わってほしい。

何か言う人がいれば、「神様はセラフィの歌を褒めていましたよ」と返せばいいしね。

神様が聞き惚れる歌を貶すことはできなくなるもの。


そのための派手な登場に、派手な演出だ。

あの神官は誰? と、みんなが聞いてくるように仕向けたんだから。


これからセラフィには、アヴェートワ公爵家監視の元、パーティー会場や劇場で歌ってもらう予定だ。

逃げられないように、発火する魔具を両足に付けてもらうことになる。

その魔具を付けた上でなら外出していい、という許可をもぎ取った。


批判されることもあるだろうが、彼女は頑張ると決意していたので見守ろうと思っている。


そして自信がついたら、オニキス様に謝罪とお礼を伝えたいと言っていた。

1日でも早く、2人が笑い合って話せる日がくることを願っている。


パレードが終わり、一息つく間もなく披露パーティーに参加した。

拍手で迎えられ、招待客に再度誓いを立ててから、ダンスを1曲踊る。


その後は、挨拶のラッシュだった。

新年祭の時と同じように、両陛下と共に辞義を受けていく。


驚いたことに、ラセモイユ伯爵家が勢揃いしていた。

オニキス伯爵令息はもうラセモイユ伯爵家を抜けているのでいなかったが、セラフィの恋人だっただろう令息から深く頭を下げられた。

彼もずっと動けずに、悩み続けていたのかもしれない。


挨拶が終わり、神様のこととセラフィのことを話しながら会場内を練り歩く。


1箇所で固まっていたシトリン公爵令嬢たちと途中で合流し、結婚式の感想を怒涛の如く述べられた。


オニキス伯爵令息からは「ルチル嬢のバーカ」と、真っ赤な瞳で笑いながら言われた。

今までとどこか違う笑顔が嬉しくて、少し泣きそうになった。


アズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息がケーキを食べている姿を見守っていると、フロー公爵令息が話しかけてきた。


シトリン公爵令嬢は、ジャス公爵令息たちとお肉を取りに行ったそうだ。


「先ほどは、きちんとお祝いを伝えられなくて申し訳ございませんでした」


「いえいえ。シトリン様の勢いが凄かったですから。喜んでいる顔をしてくださっているので、仰ってくださったのと一緒ですよ」


「ありがとうございますって、私がお礼を言うのはおかしいですね」


小さく笑い合い、穏やかな雰囲気が流れた。

フロー公爵令息の視線の先には、シトリン公爵令嬢がいる。


「シトリン様との結婚式を想像されましたか?」


「少し、というより、ルチル嬢と似たような結婚式をしたいと言われました。それはちょっと……と悩み中です」


苦笑いのフロー公爵令息に、ルチルは意地悪く微笑んだ。


「結婚式は真っ白なドレス、披露パーティーではお互いの色を身につけられたらいかがでしょう。

私たちはパレードがあったので着替えは難しかったですが、シトリン様なら2・3回着替えてもいいと思うんです」


「あ、いいですね。お洒落好きのシトリンにぴったりです」


「はい。フロー様は、ずっとピンクや緑を着てくださいね。もう青色はダメですよ」


面食らったような顔をしたフロー公爵令息が、楽しそうに笑い出した。


「そういえば、バレていたんでしたね。もう青色を集めることはしませんよ」


「よかったです。強力なライバルでしたから安心しました」


「ライバルと仰ってくださるんですね」


「もちろんです。負けないよう頑張る予定でしたから」


フロー公爵令息の瞳が、寂しそうな影を含みながらアズラ王太子殿下を捉えた。


「……気持ち悪くないですか?」


「そんなこと思ったことありませんよ。性別関係なく、心を占める人が好きな人ですから。それだけ魅力的な人だってことですしね」


「ああ、納得しました。好きな気持ちは変わらないのに、なぜシトリンを好きになったのか。私の心を占める割合がシトリンの方が大きくなったんですね」


「シトリン様は、素直で可愛い女性ですからね」


「はい。誤魔化したり隠してばかりいた私は、その素直で真っ直ぐにぶつかってきてくれる所に惹かれたんだと思います」


泣きそうにない人の涙が好物じゃなかったっけ?

だから、シトリン様なら気持ちを変えられると思ったんだけどな。

まぁ、アズラ様が本と違うように、フロー様も違ったんだろうな。


少し遠くにいるシトリン公爵令嬢が、小さく手を振ってきた。


「フロー様、シトリン様が呼ばれていますよ」


「はい、行ってきます。ルチル嬢も殿下が気にされていますよ。相手が私だとしても、男と話しているのは嫌みたいですね」


おかしそうに笑うフロー公爵令息に、ルチルも笑みを溢した。


「アズラ様と食べさせ合いをしてきますわ」


「では、私も食べさせ合いに挑戦してみます」


「怒られますよ」


「そこが可愛いんですよ」


見事にツンデレにハマっているなと思いながら、フロー公爵令息とは別々に歩き出した。


アズラ王太子殿下に「楽しそうに何を話していたの?」と問われ、「お祝いと、シトリン様との結婚式をどうするかですよ」と答えた。


「今日は、僕たちの結婚式なのに」と面白くなさそうにしているアズラ王太子殿下に「あーん」をして機嫌を直してもらっていると、オニキス伯爵令息から呆れたように見られた。


結婚式の日でもいつもと変わらない光景に、幸せが体を満たしていった。






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― 新着の感想 ―
・青 ああ。 そういうことでしたか。
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