43 〜 アズラの思考回路 2 〜
オニキスに縛り上げた女性を牢屋に連れて行くように指示し、ルチルと部屋に2人っきりにしてもらった。
処罰よりもルチルを安心させることが、先だからだ。
どう伝えれば安心させることができるんだろう。
ルチルをソファに促して、横並びに座ろうとしたのに、ルチルは僕の膝の上に横座りをしてきた。
その状態で抱きつかれる。
「アズラ様、婚約破棄しませんよね?」
「しない! しないよ!」
やっと、もうすぐ結婚できるところまできたんだ。
誰がそんな恐ろしいことを言ってるんだ?
「よかったです。お祖父様もお父様もミソカも『婚約破棄だ』と言い出し兼ねない状況ですので、怖かったんです」
そうだよね……3人から1回ずつ殴られることは覚悟しよう。
殴られるだけで済めばいいな。
「もしアヴェートワ公爵家に反対されても、僕は絶対にルチルを諦めないよ。どんな手を使ってでもルチルと結婚する。ルチル以外と結婚しないし、側妃を迎えるなんてしない。僕はルチルがいれば、それだけでいいんだから。だから、安心して。もう泣かないで」
泣きながらだけど、嬉しそうに微笑んでくれた。
ルチルの潤んだ瞳に衝動が駆られて、キスをした。
応えてくれるルチルに歯止めが効かなくなりそうになり、アヴェートワ公爵家の面々を思い出して理性を繋ぎ止める。
自分を止めることに苦労していたが、最近思い付いたこの方法が1番効果的だった。
「おうかがいしたいんですが……」
「なに?」
「あの女性とは、どういう関係なんですか?」
「彼女は細工師で、ルチルの誕生日プレゼントにアクセサリーを贈りたくて、手作りの指導をしてもらっていたんだよ」
「そうだったんですね。アズラ様が他の女性をという噂を信じたわけではありませんでしたが、1度洋服の襟に口紅が付いていたことがあったんです。だから……」
「え? そんなことあったの? 気づいてなかった! ごめん!」
どうして付いたかの説明をすると、ルチルはようやく泣き止んでくれた。
少ししょっぱい頬にキスをすると、くすぐったいのか笑ってくれる。
その声に、憤りで固くなっていた心が柔らかくなっていく。
「作ってくださっていたのは、この指輪ですか?」
机にあった作りかけの指輪に気づいたようで、ルチルは手に取って眺めている。
「ドレスに合わせて、髪飾りとイヤリングと指輪を作ってたんだ。指輪だけが難しくて失敗ばかりで。たぶん、その失敗した指輪をもらったように自慢してたんだと思う」
特別な誕生日にしたかったのに。
今から、どうすればいいんだろう。
「嬉しいです! 完成楽しみにしていますね」
「え?」
「私へのプレゼントですよね?」
「うん、そうだけど……いいの?」
「悪いことなんて何一つありませんよ。アズラ様が私のために作ってくださっているんですよ。こんなに嬉しいことはありません」
「でも……つけない方がいいよ。僕のせいだけど、デザインは周りにバレてしまっているし、つけることで何を言われるか分からないからね」
「何か言う人はいるでしょうが、そもそも流行ったものって多くの人が持っているじゃないですか。それと一緒で、デザインが被ってようが知っていようが関係ないですよ。重要なことは、アズラ様が私のために作ってくださったということだけです」
ルチルの和やかな笑顔に、体が吸い寄せられる。
ルチルは、どうしてこんなにも優しいんだろう。
女神の生まれ変わりだから優しいのかな。
僕は何回もルチルに救われて、その度に恋に落ちている。
どこまでも深くても、2度と上には戻れないとしても、この世界から抜け出したいと思わない。
ルチルがいれば、光さえなくていい。
だって、ルチルが光そのものなんだから。
ドアがノックされて、思考を遮られた。
「時間切れか……」と呟くルチルの服が乱れていた。
アヴェートワ公爵家の面々を思い出すことを忘れていたと反省している僕に、ルチルは「早くもっとイチャイチャしたいですね」と頬を赤らめて伝えてくる。
それは僕の切実な願いだよと、返したくても返せなかった。
ノックをしたのは、オニキスだった。
理由は「後の用事がつかえるから、そろそろ指示をください」とのことだった。
ルチルはこの後、アヴェートワ公爵家で用事があるそうだ。
名残惜しいけど、僕にもやらなければいけないことは多いので、執務室でルチルと別れることにした。
ルチルは一緒に牢屋に来たがったが、そこは諦めてもらった。
ルチルに牢屋は似合わないし、あの女性と会わせたくなかったからだ。
別れ間際にオニキスから「殿下は、そのままでいてくださいね」と意味不明なことを言われ、肩を2回叩かれた。
何なんだ、あいつは。
牢屋に行く途中で、キャワロール男爵令嬢に会った。
会った途端に「ルチル様の劣化版を側妃に迎えるって本当ですか?」と質問された。
否定をし、気になった「ルチル様の劣化版」について尋ねてみた。
すると、細工師の女性はルチルの劣化版と呼ばれていて、劣化版と呼ばれている子と結婚は恥ずかしいと、婚約破棄されていると教えてくれた。
下町では有名な話で、キャワロール男爵令嬢はよく行く食堂でその話を聞いたそうだ。
僕としては「へー、そうなんだ」くらいだったけど、これが側妃になるみたいに振る舞った原因だった。
僕が牢屋に行った時に、細工師の女性は苦々しい顔で反抗的な瞳で見てきたけど、数分後にはことの成り行きを話し出した。
自分はルチルのせいで不幸になったんだから、ルチルも不幸になるべきだと。
僕とルチルを仲違いさせたかったそうだ。
自分勝手な言い分に腹が立ったが、ルチルが僕の話を信じてくれていたので、手荒いことをするだけに止めた。
これがもしルチルに嫌われることになっていたら、この女性を殺していたかもしれない。
僕が相当怖かったのか、泣きながら「許してください」と懇願された。
今回は僕にも悪いところがあったので、国外追放で許すことにした。
もう誰だろうと、女性と2人っきりになることはしない。
ルチルには、もう1度きちんと謝ろう。
後日、アヴェートワ前公爵たちから訓練という名の叱責を受けた。
もう死にかけることはないと思っていたのに、数時間で何回も死にかけた。
チャロがルチルを呼んで来てくれたから訓練は終わったが、あのまま続けていたら死んでいたかもしれない。
「次に同じことがあれば……分かりますよね?」と睨まれ、しっかりと頷き、再度ルチルに謝ることで許してもらえた。
作者自身も驚いているのですが、気づけば明後日完結になります。
もう少し日にちがかかると思っていた分、本当に「あれ?」ってなりました。
明日はオニキス目線です。
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