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デュモルに襲われた日から1週間の間に、関わっていた人たちは全員捕まった。

王家と神殿は協定を結び、捕まった貴族たちの領地はその貴族の分家筋が治めることになった。


長かった一連の事件が落着したので、夏休みは久しぶりに旅行に行く予定だ。

そのため、ルチルは今キルシュブリューテ領で、早送りのように仕事を片付けている。


キルシュブリューテ領の工事は、着々と進んでいる。

旅館もとっておきも、来年早々に開業予定になる。


「ルチル様、デザイナーのフロスト様が到着されました」


「すぐに行くわ」


伝えに来てくれたケープを追うように、ルチルは執務室を出た。

応接室に着くと、着物や浴衣、簡易版メイド服を着たマネキンが置いてある。

ルチルの入室を、フロストは頭を下げて待っていた。


「楽にしてください」


頭を上げたフロストは、肩までの若紫色の髪を1つに結んでいて、水色の切長の瞳をしている。

長身で、一見男性に見えなくもないが、スレンダーな女性だ。


売れないデザイナーだったところをケープが見つけてきて、キルシュブリューテ領で働いてもらうことになった。


ルチルが妄想の中で、ケープとフロストをくっつけて楽しんでいることは内緒だ。


ルチルはソファに座るより先に、マネキンに着せている衣装を色んな角度から眺めた。


「いいですね。この3種類でいきましょう」


「ありがとうございます」


2度目のダメ出しにならずに済んで、体から力を抜いているフロストに、ルチルは小さく笑った。


見本を持ってきてくれた1度目に、ルチルは大いにダメ出しをした。


着物や浴衣を知っているルチルは、絵が上手ではない。

着物や浴衣を知らず、絵を見てもイマイチ分からないフロストは、さぞかし大変だっただろう。


それでも頑張って作ってくれた見本は褒めるところがなく、もう1度絵を書いて説明したのだ。


ルチルがソファに座ると、フロストもソファに掛けた。

カーネが淹れてくれたお茶を飲みながら、話し合いをはじめる。


従業員の着物の色は赤色で統一し、浴衣は赤色を除く数種類の色で仕立ててもらう。

簡易版メイド服は動きやすさを重視し、夏用冬用を用意してもらう。

これらを踏まえて、作ってほしい枚数を伝え、納期の確認をする。


フロストの工房には、他にも針子が在籍をしている。

ルチルの難しい注文に、みんな新しい服を楽しく作ってくれているそうだ。

もちろんに彼ら彼女らにも、挨拶代わりのお菓子を配っている。


「ルチル様、こちらも完成いたしました。いかがでしょうか?」


制服等の話し合いが終わったところで、フロストが箱を差し出してきた。

中を確かめたルチルの顔が輝く。


「すごいわ! もうできたのね!」


「まだ見本になりますが、こちらでよろしければ生産をさせていただきます」


「早速試してみますね。アズラ様や王妃殿下にも試してもらいます」


フロストが「お、王妃様……」と囁いた声は聞こえないことにした。

3日後にまた来てほしいと約束をし、ルチルは足取り軽く王宮に向かった。


「それさ、殿下の前で着るんだよね?」


「そうですよ。感想をいただきます」


「えー、あー、うん」


「なんですか?」


「ルチル嬢だから言うけどさ、殿下相当我慢してるよ。そろそろ胃に穴が開くんじゃない?」


「仕事の合間に見るには、刺激が強すぎるってことですね」


「それもあるけど、もうしてあげてもいいんじゃないってこと」


「ダメですよ。もし妊娠したら結婚式の時辛いですもん」


いや、今なら産後結婚式だな。

それも辛いわ。


「殿下、本当に可哀想」と呟かれたので、アズラ王太子殿下には夜にお披露目することにした。


なので、先に王妃殿下の元に行く。

男性陣には部屋から出てもらったので、王妃殿下も王妃殿下付きの侍女も首を傾げていた。


「お義母様、コルセットなかったらいいなぁと思いませんか?」


この言葉に王妃殿下ははしゃいで、ルチルに抱きついた。


まだ何も言ってませんよ……

それだけ信頼してくれていると分かって、嬉しいですけどね。


ルチルが持ってきたのは、ブラジャーとボクサータイプのパンティーだ。

フロストと魔道士たちとで作ってもらった少しだけ伸びる生地の下着になる。

もちろん男性用のボクサーパンツも作ってもらっている。


王妃殿下のコルセットのサイズは、事前に把握済み。

合わせて、ドレスでサイズの確認をしている。


ルチルが鞄から出した下着を王妃殿下に渡すと、王妃殿下はその場で着替えてくれた。

着替えてくれている最中に説明をすると、王妃殿下も侍女も驚いていた。


下着だけの姿を鏡で確認した王妃殿下は、ドレスを着た後、左右角度を変えてシルエットを確かめている。


「楽だわ。とても楽だわ」


「喜んでもらえてよかったです。こうしてほしいという箇所はありませんか?」


「ないわね。スカートの下もごわつかずに快適よ」


とても喜んでもらえ、陛下用の下着も渡しておいた。


それともう1つ、水遊び用の水着も渡した。

ビキニの上から、ノースリーブと膝下丈の短パンを着用するタイプの水着になる。

本格的に夏になったら、一緒に海に行こうと約束をして部屋を後にした。


下着はコルセットが嫌で考え、水着はアヴェートワ領の海で泳ぎたくて作った。


アヴェートワ領では、海辺にピャストア侯爵家経営のホテルの建設が始まっている。

リゾート地として、更に豊かな領地にしようと計画中なのだ。






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