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文化祭と夏期テストは取りやめになり、夏休みは1ヶ月伸びることになった。

運動場を覆いつくす魔物が現れたのだ。

設営していた屋台は壊れ、学園も一部破壊された。


ルチルの窓が爆破された音に、学園の外を見回りしていた騎士隊員が王宮に早馬を送っていたので、王宮にいた騎士たちが駆けつけてくれた。

その後で、ルクセンシモン公爵率いる第一騎士団も来てくれた。

そのおかげで、学生は十数人の怪我人だけで済んだ。


運動場の真ん中では、アズラ王太子殿下たちが戦った。


魔物の血がかからないようにと、ルチルはオニキス伯爵令息の防御壁に守られ、非日常の景色を手を組み全員の無事を祈りながら見ていた。

時々、火の魔法で援護をしたが、魔物を足止めすることしかできなかった。


魔物を全て倒し終わり、アズラ王太子殿下が生活魔法で自分たちとあたり一面を綺麗した後、やっと防御壁から出ることを許してもらえた。


防御壁の真横でルチルを守るように戦っていた祖父と父以外は、倒れるようにその場に座り込んでいる。


「アズラ様! 大丈夫ですか?」


アズラ王太子殿下に駆け寄ると、腕を掴まれ引っ張られた。

座っているアズラ王太子殿下に被さるように抱きしめられる。


「うん、大丈夫だよ。ルチルを守れてよかった」


遠くからルクセンシモン公爵の声が聞こえてきた。

スミュロン公爵が走ってくるのも見えている。

騎士たちも到着し、スミュロン公爵の診察後、全員王宮に連れ帰ってもらった。


ルチルは王宮に戻る馬車の中で、オニキス伯爵令息の怪我を治し、王宮でジャス公爵令息、リバーとマルニーチ先生の怪我を治した。


アズラ王太子殿下とミソカは、ルチルに治してもらった体を装って自分で治していた。


学生や騎士たちの怪我は、スピネル男爵令嬢が治してくれたそうだ。


先に体を休めてから話し合うことになり、会議は明日行われることになった。

長かった夜はこうして朝を迎えたのだった。



昼食後に、重苦しい会議が始まった。

昨日ルチルを守って戦った人たちと四大公爵家当主と両陛下でになる。


ルチルはデュモルが突然現れたことを話し、その先はマルニーチ先生が話を引き継いでくれた。


そして、シトリン公爵令嬢が男子寮まで行き、アズラ王太子殿下たちに伝えてくれたことを知った。

ルチル救出にフロー公爵令息がいなかったのは、シトリン公爵令嬢と先生たちに報告に行き、学生たちを避難誘導してもらうためだったそうだ。


デュモルの最期は父によって伝えられ、祖父と父はアヴェートワの騎士がアズラ王太子殿下を危険に晒し、学園を休校にしてしまったことを両陛下に謝っていた。


クンツァ王太子殿下から、加担していた人物の一覧表をもらっているそうだ。

後数人で全員捕まえられるとのことだった。


後処理は残っているが、主犯格のデュモルが死んだことで、長く続いた事件は終止符を打つことになった。


「ルチルの部屋に結界を張っていたとか、僕は初耳なんだけど」


「伝えておりませんでしたから」


「どうして?」


「殿下は、私を信用してくれないと思ったからですよ」


マルニーチ先生の言葉に、アズラ王太子殿下は顔を歪めている。

結界とマルニーチ先生については、オニキス伯爵令息は知っていたそうだ。


「えっと、お祖父様たちは、マルニーチ先生がリバーの双子の弟のルセドニー侯爵令息だと知っていたのですか?」


「いや、聞いたのは、今年の新年祭の日だったな。リバーが助っ人を見つけたと急に抱きついてきたんだ」


祖父は「殴ってやったよ」と付け加えている。

祖父がリバーを軽く殴るのは日常なので誰も突っ込まないというか、知らない人たちだけは軽く引いていた。


「私もあの日にルドが生きているって知ったんです。嬉しかったです」


「俺は、もうルセドニー・リュリュシュではありませんからね。リバーに伝える必要はなかったんです。でも、神殿を探っていると、確実に魔法陣に詳しい奴がいることが分かったんです。俺以外に魔法陣に詳しいとなるとリバーくらいだろうと思って、訪ねてみたんです」


「本当に殺されるかと思いました。挨拶するよりも先に攻撃されたんですよ。実の兄にひどいと思いません?」


「言葉が通じない人と話す時間ほど、無駄なものはありませんからね」


「私、会話できますよ」


誰もが、マルニーチ先生の言葉に心の中で頷いたことだろう。


「リバーと先生は双子なんですよね?」


「違うぞ」


ん? んん?


「同じ父親の血を引き、同じ日に生まれたが、母親が違うんだ」


「母親が違っても、同じ日に生まれた兄弟です。双子でいいじゃないですか」


いや、正確には双子じゃないから。


「俺の母親は、リュリュシュ侯爵家の侍女でな。妊娠が発覚して母親は侍女を辞めたんだが、母親が死んだ時に侯爵が迎えに来たんだよ。

で、数年間だけ侯爵家で過ごした。その後、馬車事故に見せかけて殺されかけた。マルニーチ男爵家は、怪我した俺を助けて養子にしてくれたんだよ」


「私が確認した死体は、母が用意した偽物だったんです。通りで顔が潰れていたわけですよ。同じ場所にホクロがあったから、ルドだと思い込んでしまいました」


今、サラッと母って言ったよね?

その事実、怖いから!


「ルドが生きていて、本当によかったです。空間移動の魔法陣は私たちで作ったんですよ」


「リバー、喜んでいるところ悪いが、その魔法陣は今後使用禁止だからな」


「分かっていますよ、陛下。犯罪に使われるでしょうからね。記憶にないことにします。最後に使えただけで大満足です」


そう、完成すれば興味がなくなる。それが、リバーだ。


「じゃあ、リバーの兄弟と分かって、学園でのルチルの護衛になったってこと?」


「そうです」


「先生は神殿を嫌っていて、だから私を助けてくれたんですか?」


「そうだ。俺の恋人だった人が、孤児院で育った光の魔法使いでな。今はもう死んでしまっていないが、その死は神殿のせいだったんだよ」


だから、スピネル様の訓練に付き合ったり、あたしと和解したりするように仕向けたのね。


「聞きたいことがあるんだが…………」


ルクセンシモン公爵が手を挙げた。


「ルチルちゃんが女神と言われた理由は、金色の瞳だからなんだろうけど、シンシャ王女との違いが何かあるの?」


瞳の色については、クンツァ王太子殿下たちが帰国した後の四大公爵家会議で発表されていた。

シンシャ王女が操られていた説明をするには、どうしても避けられない内容だからだ。


それぞれにそれぞれが視線をぶつけるが、誰1人として答えを持っていない。


「デュモルが死んでしまったから分からない。ただデュモルは、ルチルを『愛している』って言ってたんだ。それが理由じゃないかな」


「愛で狂っちゃったのか」


「私も1つ気になることが」


「何かな? 宰相」


「殿下をラピス・トゥルールと例えていたことになります。どうしてでしょうか?」


「それもデュモルしか分からないと思うよ。僕も初めて聞いたから」


アズラ様がラピス・トゥルールにそっくりだと言ったのは、ミルクだ。

あたしは、その事実を誰にも伝えていない。


でも、デュモルは知っていたことになる。

誰かから聞いたにしては、他のことも詳しすぎる。

ミルクと一緒で、知っていたと思うのが妥当だろう。


となると、デュモルも前世の記憶があったのかもしれない。

ラピス・トゥルールが生きていた時代の記憶を持つ人だったのかもしれない。






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