表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/373

29

梅酒を作る土曜日。


朝から最後の王太子妃教育を終えた。

先生たちには「長い間、本当に頑張りましたね。立派な王太子妃になれることでしょう」と褒めてもらった。


ウキウキ気分でアズラ王太子殿下の執務室に行くと、アズラ王太子殿下は青い百合の花束を持って待っていてくれた。


「ルチル。王太子妃教育、本当にお疲れ様」


アズラ王太子殿下から花束を受け取ると、手の甲にキスをされる。


「ありがとうございます。これからは、土曜日の午前中はアズラ様の側にいますね」


「いいの?」


「はい。書類仕事だけでしたら、どこでもできますから。少しでもアズラ様の側にいたいんです」


「嬉しい。今まで以上に土曜日が待ち遠しくなるよ」


「私もです」


花束をカーネに渡すと、カーネは部屋から出ていった。

ルチルの部屋に飾りに行ってくれたのだ。


「アヴェートワ公爵家に行く前に、話したいことがあるんだ」


頷くと、ソファまでエスコートしてくれた。

並んで腰かけ、アズラ王太子殿下がオニキス伯爵令息も座るように促している。


「オニキス、宰相の話を受けてほしいんだ」


「嫌ですよ。俺は、ルチル嬢の護衛騎士のままがいいです」


「ルチルは、どう思う?」


「もしオニキス様がされないとなると、他の方の候補はあるんですか?」


「ううん、ないよ。ただ、ナギュー公爵からフローをって薦められている」


ナギュー公爵家当主になるもんねぇ。

宰相に就くのは、ナギュー公爵家からがいいってことなんだろうな。

フロー様、医師か文官で相談するって言ってたし。


「フローは、僕たちの友人として側にいたからね。四大公爵家の当主にもなるし、成績も優秀だからね。まぁ、妥当なんだと思う」


「フローでいいじゃないですか」


「本当にそう思ってる?」


アズラ王太子殿下の真剣な瞳に、オニキス伯爵令息は面倒臭そうに視線を外した。


「フロー様を懸念される理由は何ですか?」


「フローには、良くも悪くも向上心がないんだよ。教科書通りの綺麗な政治をしてくれると思う。でも僕がほしいのは、僕やルチルを支えることができる人物だからね。綺麗な政治だけじゃつまづくことになる」


なるほどね。

時には大胆に動いてくれる人がいいってことよね。

あたしの突拍子もないことにも動じない人がいいってことよね。


うん、フロー様は笑顔で動じないだろうけど、大胆に動いてはくれなさそうだもんね。


「オニキス様は、どうしてそこまで宰相が嫌なんですか?」


オニキス伯爵令息が、諦めたように息を吐き出した。

今まで嫌と言うだけで、理由を教えてくれなかった。

聞けそうな雰囲気でもなかった。


「殿下やルチル嬢の協力はしたいと思うよ。でも、国の協力はしたくない。それが理由」


セラフィ様の件で国は助けてくれなかったし、黒目黒髪は排他的な扱いをされることも許せないんだろうな。


「分かりました。では、オニキス様には、このまま私の護衛騎士でいてもらうでいかがでしょう。でも、アズラ様の気持ちを蔑ろにすることはできません」


喜びかけたオニキス伯爵令息が、顔を顰めた。


「アズラ様、オニキス様にも勉強の期間は必要ですよね?」


「そうだね」


「ナギュー公爵の下につける予定ですか?」


知ってるよ。知っているけど、知らないふり。

オニキス様に頼まれたとかバレてはいけない。

アズラ様の気持ちは理解できるし、国を良くしていくための人事はアズラ様の仕事だ。

邪魔をしたくない。


「ううん。実はアヴェートワ公爵に頼もうと思っているんだ」


「お父様は受けられないと思いますよ」


「そこは、まぁ、頑張るよ」


苦笑いしているってことは、もうすでに断られているんだろうな。


「お父様はオニキス様より手強いと思いますので、お父様が了承されたのならオニキス様もということでいかがでしょうか? どちらかが欠けては、アズラ様の理想の人事にはなりませんでしょう」


「うーん…………」


「オニキス様はいかがですか?」


「それってさ、ミソカが当主交代したら、宰相していいとかにはならないの?」


「ミソカが当主になれば、お祖父様はお父様に領地経営させるはずですから。家族との時間が欲しいお父様を宰相にするのは難しいかと」


アズラ王太子殿下の「そこなんだよねぇ」という呟きが聞こえた。


「後はシンシャ様の懐妊と出産が早ければ、それこそ家から出ないって言いそうですしね」


あたしがお祖父様に愛されたように、孫を愛しそうだもんね。

あの2人の子供なら、あたしも超絶に可愛がる気がする。


「はぁ、嫌ですけど、それで。アヴェートワ公爵が降参したら、俺も腹括りますよ」


うんうん。

手に入る時はセットで手に入るんだから、いい案だと思うんだよね。

口説くにしても1人に集中できるしね。


「分かった。僕もそれでいいよ。何が何でもアヴェートワ公爵に受けてもらうよ」


花を飾り終えたカーネが戻ってきて、この話はお開きになった。

転移陣に向かっている途中で、アズラ王太子殿下に「提案ありがとう。まぁ、見ててよ」と勝ち気な顔を向けられた。


そういえば、アズラ様は、オニキス様は最後には頷いてくれるって前に言ってたよね。

まずは難関のお父様を説得する予定で、お父様を承諾させる見積りがあるのかも。


もしそうだったのなら、知らず知らずにアズラ様に協力したことになるよね。

オニキス様、ごめんなさい。お給料見直すようにするから頑張って。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 見積り
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ