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「先程の話だけど、僕へのプレゼントのカカオだっけ? そんなに珍しい物なの?」


「はい。何年も前からお祖父様とお父様にお願いをして、探してもらっていた食べ物なんです。でも、見つからなくて半ば諦めていたんです。可能ならば定期的に購入したくて、オニキス様に購入先をおうかがいしたいと思ったんです」


「よろしいですよ。喜んでお教えします」


「ありがとうございます」


「カカオは、南にあるバゴディ島という島国で栽培されています。トゥルール王国の2つ隣のシャティラール帝国に住んでいる従兄弟が、バゴディ島と取引を始めたんです。ですが、あまり美味しくない飲み物ですから、中々販売するのが難しいようで。余ったからと従兄弟から貰ったんです。

あ、殿下の分はちゃんと購入しましたよ」


「大丈夫だよ。そんな心配していないから。でも、その従兄弟も美味しくないと分かってて贈るとはね」


「従兄弟も俺と一緒で珍しい食べ物が大好きでして、俺が喜ぶと思って贈ってくれたんですよ。まぁ、喜びはしましたけど、1度飲んでからは飲んでないですね」


「本当、よくもそんな物を僕に……」


アズラ王子殿下が、深い息を吐き出した。

ルチルもフロー公爵令息も、苦笑いをするしかない。


「でも! ルチル嬢が探していたってことは、カカオはスイーツになるってことですよね!?」


「あ、はい」


オニキス伯爵令息のいきなりのテンションの高さに、若干瞬きの回数を多くしながら頷いた。


「ぜひカカオを取り引きしたいので、シャティラール帝国にいらっしゃる従兄弟の連絡先を教えていただいてもよろしいですか?」


「バゴディ島と直接取り引きした方が安いと思いますよ」


「そうだとは思いますが、この度カカオを知ることができたのはオニキス様、ひいてはオニキス様の従兄弟の方のおかげですから。恩は恩で返しませんと」


それに、もっと珍しい食べ物を教えてもらえるかもしれないしね。


後、バゴディ島は島国ってことだから、こっちから船を借りて行かなきゃいけない。

その航路代に運搬代、賃金等を考えると、2つ向こうであっても陸路の方が安いはず。

縁も繋げられるからいいはず。


「殿下の選んだ人が、ルチル嬢みたいな人で喜ばしいですね」


「ん? ありがとうございます」


なんで褒められたのか分からないが、とりあえずお礼を伝えた。

アズラ王子殿下は、誇らしげにルチルを見ている。


「カカオが手元にくるまで時間が掛かるだろうし、僕が貰ったカカオを先に譲るよ」


「そんな。ちゃんと取り引きできるまで待ちますよ」


「ううん、僕の分を使って美味しいスイーツを作って。それを1番に食べさせてくれたらいいよ」


「殿下、ずるいですよ。伯爵家にもまだ残っていますからお渡ししますよ。なので、俺にもカカオのスイーツください。お願いします」


勢いよく直角に腰を折られて、困惑してしまう。


「わか、分かりました。ですので、頭を上げてください」


「やった! ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ重要なお話をありがとうございました。それと、毎週のようにレストランやカフェに通っていただいてありがとうございます」


「知られていましたか」


「アズラ様からおうかがいしていましたので」


「そういえば、殿下に自慢したんでした」


静観していたフロー公爵令息が、少し恥ずかしそうに近づいていた。


「あの……ルチル嬢とお呼びしてもよろしいですか?」


「はい」


チラチラとアズラ様を見るとは、フロー公爵令息はアズラ様の性格をちゃんと分かっているのね。


「私のことはフローでお願いします」


「はい、フロー様と呼ばせていただきます」


「それで、ご相談なのですが……その、私にもカカオのスイーツをいただけないでしょうか?」


恥ずかしそうにしどろもどろ言うフロー公爵令息が可愛くて、ルチルは笑いながら頷いた。


「もちろんです。アズラ様と仲のいい方たちにお配りしますね」


「では、提案なんですが、カカオのスイーツが完成しましたらお茶会をしませんか? 今はいませんが、ルクセンシモン公爵家のジャスをいれて、いつも4人で遊んでいるんです。ぜひジャスを紹介させてください」


「よろこ一一


「待ちなさいよ!」


近くから大声が聞こえて、ルチルの肩が跳ねた。

アズラ王子殿下が背中を撫でてくれる。


「ルチル、大丈夫?」


「はい、少し驚いただけです」


「無視しないでよ!」


大声が聞こえた方を向くと、目尻を上げた女の子がいた。


折角のお人形のような可愛らしい顔が台無しだなぁ。

黙っていれば、庇護欲唆る美少女なのに。


ナギュー公爵家のシトリン公爵令嬢。

ぶつかりにくるだろうと思っていたけど、思っていたよりも遅かったなと冷静に考えていた。


「シトリン公爵令嬢。大声ははしたないですよ」


「フローは、いつもいつもうるさいわね」


シトリン公爵令嬢のうんざりしたような言い方に、ルチルは笑顔を保つのは無理だと判断して扇子を開いて口元を隠した。

小さな子供が駄々を捏ねに文句を言いにくるだけだろうから軽くかわせばいいと思っていたのだが、つい「会場で大きな声を出さない。友達を蔑ろにしない」と注意しそうになったのだ。

もしシトリン公爵令嬢が自分の子供だったら、顔を両手で挟んで分かるまで瞳を合わせて言い聞かせていただろう。


「それに聞こえてたわよ! どうしてジャスの名前だけで私を誘わないのよ! アズラ様の行くところには私もでしょ!」


「シトリン公爵令嬢、いいかな?」


こわっ! アズラ様から出ている空気も声も冷たすぎて怖いー!


「もう、アズラ様ったら。シトリンって呼んでください」


「呼ばないからね。それに何度も言うけど、僕のことを名前で呼ぶのは止めてくれるかな。最愛のルチルに勘違いされたくないんだ」


手を添えてた腕を外されて、腰をもたれた。

勘違いしませんよ、と伝わるようにアズラ王子殿下に微笑む。


「あら、いらっしゃったのね。気づかなかったわ。ああ、顔にも存在にも華やかさが無いからね。居ても居なくても分からないなんてアズラ様に似合わないわ」


おおーい! あたしは何を言われても何とも思わないけど、アズラ様の顔見てみろ!

めちゃくちゃ怒ってるよ!

あたしに向けられた殺気じゃなくても、泣きそうなほど怖いよ!


「そんなこと言っていると、今年の誕生日パーティーにはアヴェートワ公爵家からスイーツ提供してもらえませんよー」


「伯爵家ごときが何を言ってるのかしら。アヴェートワ公爵家がナギュー公爵家に協力しないわけないじゃない」


いやいや、さっきの言葉聞いたら、お祖父様もお父様も激怒して提供しないと思うよ。

あの2人は骨の髄までルチルバカなんでね。

ここで何かを言えるわけじゃないし、これ以上空気が重くなるのも気分が下がるしだから、無視しよう。


「アズラ様。少しお腹が空きましたし、何か食べませんか?」


「そうだね」


「フロー様にオニキス様、またお会いできる日を楽しみにしております」


フロー公爵令息とオニキス伯爵令息にだけ頭を軽く下げて、アズラ王子殿下と背中を向けて歩き出した。

後ろから大声で喚く声が聞こえるが、振り向いたりしない。


「ルチル、僕とあの子は何でもないからね。僕にはルチルだけだからね」


「勘違いなんてしませんから大丈夫ですよ」


「よかった」


小さく安堵するアズラ王太子殿下に微笑みかける。


「アズラ様、食べていた方がいい料理ってありますか?」


「うーん、何かあるかなぁ」


一緒になって周りを見渡していると、クラッカーの上に生ハムやらチーズやらを乗せたオードブルを見つけた。

チャロに取ってきてもらい、お皿を受け取ったルチルはいい案を思い付いた。

どこかまだ怒っているだろうアズラ王子殿下の機嫌を直す方法を。


「アズラ様、あーん」


「あーん?」


手でつまんだクラッカーを、アズラ王子殿下の口元に持っていく。


「はい、あーんと口を開けてくださいませ」


「え? え? ルチルが食べさせてくれるってこと?」


「はい。食べてくださると嬉しいです」


折角の誕生日なのに笑顔がないなんて寂しいからね。


「あーん」


「えっと……あーん」


ルチルの指に唇が触れながら、アズラ王子殿下はクラッカーを食べた。

真っ赤な顔で口元を隠しながら咀嚼している。


「あの、あのさ、ルチル」


「はい、もう1つ食べますか?」


「うん、もう1つ欲しいのは欲しいんだけど、あの、後で2人になれるかな?」


「はい、後で休憩室で休憩しましょう」


「約束だからね」


「はい」


元気になったアズラ王子殿下に、ルチルも笑顔になる。


天使には笑っててもらわないと。癒しだわ。


クラッカーを食べさせながら、ルチルも数個クラッカーを食べた。






もう少しだけ誕生日パーティー続きます。


いいねやブックマーク登録、誤字報告ありがとうございます。これからも楽しく書いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。 お腹の中は黒いかもですが、ルチルと一緒の時の年相応な恋するアズラはなんともかわゆいですね。 今のところ、シトリンこそがアズラルートの悪役令嬢みたいで、ルチルはあまり心配…
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