28
ルチルが怪談を6話書き起こし、クラスメートの前で披露すると、面白いほど怖がってくれた。
そして、6話全て使用することになり、文化祭初日に3話、2日目に3話と分けることになった。
役割分担は、当日読み聞かせる人・受付・案内係・大道具係になる。
ルチルたちは当日自由の方がいいと思い大道具係に手を挙げたが、くじ引きで負けてしまい、ゴシェ伯爵令嬢も含めて受付担当になった。
そのことを昼食時にアズラ王太子殿下に伝えると「自由時間を合わせようね」と言われ、例のごとく、その場にいたみんなで自由時間を合わせることになった。
「ルチル、どうかした?」
「どうしてですか?」
「僕の手をじっと見ているから、何かあるのかなと思って」
「何もありませんよ。ゴツゴツしているのに綺麗な手だなぁと、その手に触られたいなぁと見ていただけです」
あらあら、皆さん。変なところに何か入っちゃったのかな?
オニキス様やジャス様のように、早く耐性つけてね。
アズラ様みたいに赤くなるだけでも、咳き込む辛さがなくていいよ。
「あな、あなたね! ここは食堂なのよ!」
「知っていますよ。でも、アズラ様とラブラブする時間が本当に足りなくて、おかしくなりそうなんです」
「元からおかしいわよ!」
そう言われると思ってたよ。
シトリン様とオニキス様は、いつもあたしをおかしな子扱いするもの。
「シトリン様。では、解決策を教えてください。アズラ様が足りないんですよ。どうすればよろしいですか?」
「ししししらないわよ!」
「フロー様は、どう思われますか?」
「私ですか?」
「はい、シトリン様と大人の階段を登られるのはフロー様でしょう」
「ああああなた! 言い方ってものがあるでしょう!」
ヤバい。このままではシトリン様が、恥ずかしさで鼻血を出してしまうかもしれない。
顔が真っ赤になりすぎて心配になってきた。
「ごめんなさい。もう何も言いません」
「それでいいのよ!」
アズラ様が足りないのは足りないけどね。
本当は、手大きくなったなぁって、しみじみしてただけなのよ。
ただアズラ様にリップサービスしただけでさ。
アズラ様を幸せにしたいのに、他のことに時間取られているからね。
「あ! アズラ様、忘れないうちにお願いがあるんですが」
「なに?」
「今週の土曜日、昼食をご一緒したいんです」
アズラ様も忙しいからね。
当日お願いしても空けてくれるだろうけど、事前に伝えてた方がいいだろうしね。
「嬉しい。一緒に食べようね」
「ありがとうございます。その時に一緒に作りたいものがありまして」
ん? どうして周りからジト目で見られているんでしょうか?
「何を作るのよ?」
「来年成人した時に一緒に飲むお酒です。1年は寝かせたいんですよね」
「どうして2人で作るのよ?」
「結婚式の後で飲もうと……」
チラッとアズラ王太子殿下を見ると、嬉しそうにしている反面、仕方がないねという表情も読み取れる。
アズラ様、ごめんなさい。
馬鹿正直に口に出したお詫びは、必ずします。
他のことでイチャイチャ提供しますからね。
というか、アズラ様、大人になりましたね。
今までなら「どうして来るの?」って言ってただろうに。
あたしがアズラ様が足りないと思うくらいだから、アズラ様はもっと足りてないと思いそうなのに。
「場所は王宮でいいのかしら?」
「皆様が来られるなら、アヴェートワ公爵家のタウンハウスにしましょう。昼食はバーベキューにしましょう」
「行くわ」
ジャス公爵令息も頷いている。
バーベキューの言葉に抗うことはできないのだろう。
「フロー様たちも来てくださいね。それぞれの誕生日に飲んだ後、年末に持ち寄って飲み比べしても楽しいでしょうからね」
「お言葉に甘えさせていただきます」
フロー公爵令息の言葉に、他のみんなも頷いている。
みんながいても、アズラ様とイチャイチャして作ればいいか。
「ルチル、僕たちでもお酒って作れるんだね」
「お酒の種類によりますね。今回作るのは梅酒です」
「梅のお酒なの?」
「はい。他にも果実酒なら作れますよ。でも、梅酒が楽なんです」
混ぜるだけで、レモンとかみたいに皮を取り出さなくていいからね。
「梅って、お酒にもなるのね」
「梅酒は甘くて飲みやすいみたいですよ」
そう、梅酒がなくてビックリしたのよね。
干し梅や梅干しはあるのに、梅酒はなかったのよね。
梅ジュースもないから、飲み物に使わないって感じだったのかな。
お魚と一緒に煮たりはするものね。
後、泡盛もなかったから、お祖父様に提案したら喜んでたなぁ。
この2つは、来年のあたしの誕生日に発売される。
お洒落なワインの方がよかったような気もするけど、梅酒も泡盛も好きだからいいとしよう。
昼食後、教室に戻る途中で「本当に行ってもよろしいんですか?」とゴシェ伯爵令嬢に尋ねられたので、笑顔で「皆様と作るのも楽しいですから、ぜひいらしてください」と笑顔を返した。
お魚を煮る時に梅干しを入れるのは、アジアではポピュラーな料理方法です。
いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




