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夏期が始まり、どうせ今年も長い話し合いの末に無茶ぶりされるんだろうなぁと思いながら、話し合いを聞いている。


もうさ、バザーでよくない?

あたし文化祭よりも考えたいこと、他にあるのよ。


「ルチル嬢、そろそろ意見出したら?」


みんなソワソワしながら話し合いしてるもんね。

茶番にしか見えないよねぇ。


「期待されましても。何系がよろしいんでしょう」


「珍しいものだったら何でもいいと思うよ」


珍しいものねぇ。


「ポテトチップス作ります?」


「あれは危ないからやめた方がいいよ」


火傷させたら怒られるもんね。

揚げる系は無理かぁ。


「ああ、ベビーカステラにしましょう。領地の宣伝にもなりますし」


「作り方教えていいの?」


「そうでしたね。損するところでした」


面倒臭いなぁ。

さっさと決めて、別のこと考えたい。


チラッと教室の隅にいるマルニーチ先生を見た。


先生とも1度腰を据えて話したいのよね。

何をどこまで知っているんだろう。

何をしたいんだろう。


はぁ、でも先に文化祭だよね。何があったかな?

定番はお化け屋敷だけど、説明も準備も大変だしなぁ。


ん? 手頃なのがあるわ。


「怪談をしましょ」


「怪談? なにそれ?」


「不気味な装飾をした部屋を暗くして、恐ろしい口調で怖い話をするんです」


「怖い話って?」


どうせみんなにも同じ質問をされるだろうと思って、ルチルは手を挙げて「怪談をしませんか?」と提案した。

みんなの期待の眼差しに、意地悪な笑みが浮かびそうになる。


説明をするためにと、クラスメートには目を閉じてもらい、ルチルはおどろおどろしく「耳なし芳一」の話をした。


芳一は魔法使いの弟子、和尚は高明な魔法使い、琵琶はバイオリン、経文は守りの呪文として、話をする。

そして、耳を引き千切られる場面で、ほとんどのクラスメートが叫んだ。


最後まで話し終わると、オニキス伯爵令息が楽しそうに笑い出した。


「こわっ。でも、面白い」


「怪談の楽しさが伝わってよかったです」


「ルルルチル様、そのお話を真っ暗な部屋でされるということですか?」


「そうです。話しはじめる前に暗くするので、それまでは不気味な部屋を見てもらっておくんです」


「ここわいですね」


「はい。でも、怖かったら好きな人に引っ付けばいいんですよ。守ってもらいましょう」


ふふ、そうよね。目を輝かせるよね。

合法的に引っ付けるんだから。

距離を縮めたり、ラブラブするチャンスだもんね。


「何個か知っていますから、時間帯によって読むお話を変えればよろしいんじゃないかと」


「噂で結末を聞いたとしても、体験しに来たときは違う話だから怖さが薄れることはないってことですね」


「その通りです。みんなで読んで、上手な人に読み手の担当になってもらいましょう。1番大変な役ですから、お金を出し合って、その人にプレゼントを贈るでいかがでしょうか?」


それなら選ばれてもいいかもと思えるだろうし、大変な役にはご褒美がないとね。


今までにない催しなので人気が出るだろうと、満場一致で怪談に決まった。

ルチルは来週までに、何個か物語を紙に起こしてくると約束をした。


昼食の時間になり、毎年恒例の催し物報告会がはじまる。


「シトリン様、今なんて仰いました?」


「だから、フレンチトーストに決まったのよ」


はい?

あれ、難しいよ。

簡単に思えて、中々美味しくできない食べ物なんだよ。

そもそも作り方知らないよね?


「どなたか作り方を知っているんですか?」


「何人かが、材料は分かっているから大丈夫って言ったのよ」


「一応止めたんですが、聞く耳を持っていただけず……」


エンジェ辺境伯令嬢とラブラド男爵令嬢が項垂れている。


「シトリン様の反対を押し切ったんですか?」


「私は反対していないわよ。面倒じゃない。できるって言うからには、できるんでしょ」


「えー、あれ、意外と難しいですよ」


「絶対に食べに行かないでおこう」


うん、あたしも興味本位でも食べないでおこう。


「アズラ様たちは、何をされるんですか?」


「僕たちは似顔絵になったよ」


「アズラ様も描かれるんですか?」


「ううん、僕は名前を記入する係だよ。来てくれた人の名前を、似顔絵の余白部分に書くんだ」


画家の名前じゃなくて、モデルの名前を書くの?

新しいな。


「皆さん、殿下の絵を所望されたんですけど、殿下は断固拒否されまして」


「それで、名前の記入になったんですね」


「殿下に名前を記入してもらえるだけでも嬉しいそうです」


まぁ、そうだろうけど、それってアズラ様の時間だけ混むんじゃないの?


「ルチルたちは何をするの?」


「怪談です」


「え? 怪談?」


「不気味な部屋で怖い話をするんです」


「悪趣味ね」


「これが楽しいんだって」


「そうなの?」


シトリン公爵令嬢がゴシェ伯爵令嬢に確認すると、ゴシェ伯爵令嬢は青い顔をして首を横に振っている。


「まぁ、どのようなものかは、当日を楽しみにしていてください」


「分かったよ。楽しみにしているね」


少し遠くに、辺りを見回しながら歩いているミソカを発見した。

誰かを探しているのかなと思ったら、ルチルを見つけて笑顔で駆け寄ってくる。


「お姉様!」


「ミソカ、食堂で走ると危ないわよ」


「気をつけます」


えへっと笑うミソカに、ミソカの後ろにいた令嬢たちが目眩を起こしている。

「お気に確かに持って」と言い合っている声も聞こえてくる。


これが、噂の親衛隊か。


「実は、お姉様にお願いがあって探していたんです」


「どうしたの?」


「僕のクラスメートたちが、文化祭でクッキーを作りたいそうなんです。作り方を教えてもよろしいでしょうか?」


「いいわよ。でも、普通のクッキーは難しいでしょう。簡単な作り方を教えてあげるわ」


「いいんですか?」


「ええ、簡単で美味しく作れたら嬉しいでしょう」


「はい。嬉しいです。お姉様、大好きです」


座っているルチルにじゃれつくように、ミソカが抱きついてくる。

親衛隊は、その姿を拝んでいた。


あの子たちにうちわ作ったら売れるんじゃないかしら。


ルチル御一行様はミソカに興味がないので、ミソカが騒がれていようがいまいが通常運転だ。

だから、普通に会話が進んでいる。

隣でシトリン公爵令嬢がエンジェ辺境伯令嬢にネイルの付け替えをお願いしていて、今日チャンスだ! とラブラド男爵令嬢をお茶に誘った。






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