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17

「もう1つだけ。一昨年の秋のことで知りたいことがあるんです」


「なんでしょうか?」


「あの事件に、ナギュー公爵家は関わっているんでしょうか?」


「執事が関わっていたはずです」


公爵夫人じゃなくてよかった!

あの時のことが暴かれても、ナギュー公爵家は大丈夫ね。


「シンシャ様、私に考えがあります」


「私はその通りに動きますわ」


ルチルは「陛下たちにはこう話しましょう」と、考えた内容を伝えた。


「本当に、それでよろしいんですか?」


「はい」


「ルチル様、どう言葉にすればいいのか……」


シンシャ王女は大粒の涙を流して、ルチルに抱きついてきた。

ルチルは初日と同じように、優しく背中を撫でる。


「絶対の絶対に、ルチル様のお役に立って、アヴェートワ公爵家の利になる人間になります。ありがとうございますっ……」


ちゃんと反省をして謝れる子は、この先同じ間違いをしないと思う。

罰はできるだけ小さくなるように、なんとかするからね。

将来、義妹になる子だしね。

ミソカは、ああ言ってたけど優しい子だから。

いくらシスコンでも、シンシャ様だけを大切にしてくれるよ。


クンツァ王太子殿下にはシンシャ王女から伝えてもらうようにしたが、ルチルは他にも話したいことがあった。


チャンスが訪れたのは、舞踏会でのダンスの時。

来賓の王女を蔑ろにはできない。

1曲踊るのが、王子としてのマナーだ。


アズラ王太子殿下がシンシャ王女と踊るタイミングで、ルチルはクンツァ王太子殿下を誘った。


「俺、終わったらアズラに殴られそう」


「深夜、私の部屋に来たことがバレたら殺されますね」


「それはない。だって、絶対言わないでしょ」


「バレましたか」


少しでも楽しそうに笑うと、黒いモヤが体に纏わりついたように全身が重くなる。

アズラ王太子殿下からの視線だ。

冗談抜きで闇属性を取得していて、視線に何か込めているんじゃないかと思ってしまう。


「シンシャから話し合いのことを聞いたよ。助かる」


クンツァ様は、シンシャ様が邪竜だったことは知らないそうだ。

伝えようとしたが、どうしても言えなかったと泣いていた。

今後も伝えなくていいと話している。


松本珊瑚を否定するわけじゃない。

彼女が生きていたことも、また大切な歴史だ。


だから、あたしは知っているし、元の世界や前世のことでお喋りしたいことがあれば何でも話そうと伝えている。

誰も知らないのと、誰か1人でも知っているのとでは、心への負担は格段に違うだろうから。


「いえいえ、今後は国としても人としても仲良くしてくださいね」


「絶対に裏切らないと誓うよ」


「それで、例の本ですが、私の侍女に渡しています。明日までに受け取っておいてください」


「分かった」


「それと、私の前に現れたのは、どちらも単独行動でよろしいですか?」


「ああ、そうだよ」


「特殊能力について知っている人は?」


「両親のみだね」


「分かりました。私は忘れますね」


「何から何までありがとう」


微笑まれたので微笑み返しただけなのに、また黒いモヤが体を覆った気がする。


「結局、あの本は、神に愛された者にしか読めないってことなのか?」


「そうみたいですね」


「何が書いていたか聞いても?」


「神様に愛されたかったという嘆きですわ」


「悲しい本だったのか……」


ダンスが終わると、アズラ王太子殿下によってクンツァ王太子殿下から引き剥がされた。

怒っているアズラ王太子殿下の腕に、ルチルはしなだれるように絡みつき、テラスに誘い出した。


「私、クンツァ王太子殿下と踊って分かったことがあるんです」


「もしかして、あいつの方が踊りやすい? 僕、もっと練習するよ」


「違いますよ。逆ですよ、逆。アズラ様と私が1つなんじゃないかと思うくらい、アズラ様は踊りやすいってことに気づいたんです。私たちは2人で1つだったことを、再確認したんです」


学園1年生はじめ、アズラ王太子殿下が自信をなくした時に話し合った言葉だ。

アズラ王太子殿下は気づいたのか、懐かしむように微笑んだ。


「嬉しい。どんな時も僕たちは一緒に頑張ってきたもんね。まだまだ頑張らないといけないことはあるけど、ルチルとだから、この先も頑張っていけるよ」


「私もですよ。私もアズラ様と一緒だから頑張れるんです」


「僕とルチル、本当に1つだったらいいのにね」


「嫌ですよ」


「い、や、なの?」


この世の終わりのような顔をして、震えているアズラ王太子殿下の両頬を挟むように触る。


「1つだったら、こうしてアズラ様の顔見れないんですよ。触ることも抱きしめることも、キスだってできなくなるんです。そういうこと、いっぱいしたいじゃないですか。アズラ様はしたくないですか?」


「……したい」


「今、しちゃいますか?」


「僕から、その、してもいい?」


「もちろんです」


少女漫画のお約束みたいな感じになっちゃったな。

お約束だとしても、今日のキスも大切な思い出だよ。

アズラ様からのキスの時は、まだ緊張で震えちゃうアズラ様が可愛いし、大切に扱われているって分かって幸せなんだよ。


キスが終わると、おでこを引っ付けて「好きだ」と気持ちを伝え合った。






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