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16

舞踏会を翌日に控えた夜。


シンシャ王女が、最後にルチルと一緒に眠りたいと申し出てきた。

ルチルは渋るアズラ王太子殿下を説得し、シンシャ王女と2人きりの夜を実現できた。


「一緒にって言ってくださって、ありがとうございます」


「いえ。こうでもしないと、本当に無理そうでしたので」


2人共ベッドの上に座って、枕を抱えている。

2人っきりになれない原因、アズラ王太子殿下の顔を2人して思い浮かべたのか、視線を合わせた後笑い合った。


「本当に楽しかったです。ありがとうございました。こんなに楽しい旅行になったのは、初日にルチル様が兄たちの愛に気づかせてくれたおかげです」


「私は、私の気持ちを伝えたまでですよ」


穏やかに微笑み合っていると、出会うまでの日々が嘘のように感じる。


「私、15歳の時に前世の日記を読んで、全て思い出したんです。膨大な記憶に2日間寝込みまして、起きたら松本珊瑚の感情に支配されていました。そこからは本当にお恥ずかしい話で、わがままし放題でした。国に戻ったら、まずは両親と家臣たちに謝りたいと思います」


「きっと謝罪を受け入れてもらえますよ」


「ありがとうございます」


溢れ落ちそうな涙を堪えているシンシャ王女の手を握って、柔らかく微笑む。


「気になったことをおうかがいしても?」


「なんでもお答えします」


「神様やアズラ様のことは、もうよろしいんですか?」


「はい。なんとも思っていません。今になってみたら、どうしてあんなに固執していたのか不思議なんです」


「アズラ様がアズラ様じゃないって仰られてましたけど、どういう意味ですか?」


「それは……ルチル様は『王子様はいつでもどこでもやりたい放題』って漫画を知っていますか?」


「私は小説で読んでましたよ」


「そうだったんですね。小説はまだ読めない年だったので、読んだことないのです。過激だったんですよね?」


若い子があんな本を思ったけど、漫画に過激シーンはなかったのね。

よかったよかった。


「漫画は従姉妹がアズラ様推しで貸してくれたんですが、小説は絶対にダメって言われたんです」


「そうですね。過激も過激でした」


「読んでみたかったです。この世界の本は面白くないから、余計に前世が恋しくなったんじゃないかと思います」


「それが、アズラ様に固執してた理由ですか?」


「いえ、そうではないんです。アズラ様に固執していたのは、アズラ様が手に入れば松本珊瑚を肯定できる気がしたんです」


なるほど、肯定か……


松本珊瑚の感情が強くなっていたとしても、シンシャ王女の感情もちゃんと残っていたんだろう。

不安定に揺れ動く気持ちに、自分が誰なのか分からなくなったんだろう。


そして、強く出てしまっていた松本珊瑚を肯定して、自分が誰なのかはっきりさせたかったと。

だから、神様ではダメだったのか。

元の世界で知っていたアズラ様じゃないといけなかったのね。


「でも前世は前世で、私はシンシャだと思い出せ、ここが漫画の世界じゃないと分かりました。みんなも私も生きているんだと。私が知っていた人たちは、ことごとく性格が違いましたしね」


「それが、アズラ様がアズラ様じゃないって言葉の意味ですね」


「はい、そうです。あんな独占欲の塊は漫画の中じゃありえません」


楽しそうに笑うシンシャ王女に、ルチルは笑顔を向ける。


「私、固執している理由は、松本珊瑚さんを復活させたいからだと思ってました。でも、目の前に現れたから本当にびっくりしたんです」


邪竜と呼ぶのは可哀想だし、封印は力だけだと知っているとも言えないからね。

隠して、ごめんね。


「驚いているように見えませんでしたよ」


「気持ちを顔に出してはいけないと思った場でしたので」


「それが、アヴェートワ公爵家の女主人にも求められる力なのですね。頑張ります」


お祖母様とお母様は、王妃殿下と並ぶくらい表情を操るのが上手だからね。

頑張って。


「封印しているのは力だけなんです。その力があればアズラ様を救えると思ったんです」


「死ぬ運命ですからね」


「はい。助ければ、愛してくれるんじゃないかと思っていました」


「魔物を使って攻撃をしてきているのは神殿ということですね」


「そうです。私たちが手伝っているのは資金援助と、身を隠す時の場所ですね」


「未来を伝えていないんですか?」


「伝えていません。私が知っていることは、彼らの作戦が成功する未来ですから」


それもそうか。

全部、こっちが後手なんだから。


「私を3回も誘拐しようとしたのは、誰の作戦ですか?」


「3回? 私が知っているのは2回です。一昨年の秋とアズラ様の誕生日です。神殿が力を貸してほしいと言ってきたんです」


「それで、黒目黒髪の人たちが登場したんですね」


そして、3回目では現れなかった理由でもあるわけね。


シンシャ王女が、辛そうに俯いた顔には苦さが滲み出ている。


「どうしてか、小さい頃から彼らを守らなくちゃという使命感に駆られて、両親に保護施設をお願いしたんです。記憶を思い出してからは、理由が分かりました。今となっては、もっと償わないとですね」


クンツァ王太子殿下がはっきりと言っていたから、ポナタジネット国では「邪竜が黒目黒髪だったから」が虐げられる理由なんだろう。


トゥルール王国に関しては、魔法を使えない平民でさえ、黒色じゃない。

だから、邪険にされているんだと思う。


自分のせいだと苦しんでいる人に、そんなことないよって言っても気休めにもならないだろう。

だから、何も言わない。

何かを言えば、逆に傷を抉ることになる。


握っている手を優しく撫でることしかできなくて、ごめんね。






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