15
お好み焼きは、料理人たちに手伝ってもらいながら、みんな楽しく焼いた。
ソースを塗り、マヨネーズで絵を描いて笑い合う。
焼きそばは、お好み焼きを食べている間に料理人が焼いてくれる。
ビールがあれば最高のお昼下がりだが、まだ未成年。
何も言わない。お口にチャックする。
賑やかな食事が終わり、こってりとした口を中和するために、のんびりとお茶をすることにした。
「僕の理想の女性ですか?」
「はい」
この質問は決定的かな。
ミソカは、シンシャ様にロックオンされたんだろうな。
クンツァ王太子殿下は、飲もうとしていたコーヒーで咽せている。
「お姉様です」
シスコンで、ごめんよ。
「お姉様が大好きなんです」
姉もミソカが大好きだよ。
「分かりました。頑張ります」
「そう言われた令嬢は3人目です」
なるほど。
ミソカは、あたしを盾にして身を守っていたのか。
そして、食らいついてきた子がシンシャ様で3人目……
分かっていたけど、モテてるんだね。
「ルチル様。私、ルチル様に弟子入りします」
あぶなっ。紅茶、吹き出すかと思った。
「一国の王女が、弟子入りは難しいかと」
「そうだよ。それに、ルチル嬢に弟子入りするもんじゃない」
ここにも失礼な奴がまだいたのか。
クンツァ様、失礼な奴名簿に書き加えますからね。
「弟子入りされなくても、お姉様の利になる方でしたら、僕はウエルカムですよ」
ミミミミミソカーーーーー!!!!!
あざとい子は心の声を出しちゃダメなの。
そして、ウエルカムは好きな子にして。
「なってみせます」
「では、姉からも殿下からも手を引いてください」
この子ってば……
姉は弟を犠牲にして、幸せになるのは嫌だよ。
「分かりました。って、もう手を出すつもりはありませんでしたよ。アズラ様はアズラ様じゃなかったですし、ルチル様にはたくさんのことを気づかせてもらいましたから。感謝しかありません」
「え? ちょ、今、ここで認めるんですか?」
「はい。兄とも話し済みです。最終日に両陛下とルチル様たちにお話ししようと思っていたことです」
「賠償金で済ませてもらえたらと思っている。本当に迷惑をかけて申し訳なかった」
2人は立ち上がり、腰を折って、深く頭を下げた。
旅行名目の非公式な場としても、一国の王子王女が揃って頭を下げたのだ。
これには、普段焦らないアヴェートワ公爵家の使用人たちも動揺している。
ルチルとアズラ王太子殿下は目を合わせて、頷き合った。
「2人とも、頭を上げて座って」
「しかし……」
「許すかどうかは父上が決めることだけど、僕もルチルもこれ以上何もしないって約束をしてくれるなら、今までのことは許すよ」
勢いよく顔を上げたクンツァ王太子殿下たちは、もう1度しっかりと深く頭を下げた。
「ありがとう。この恩は忘れない」
これでどう転んでも戦争にはならないな。よかった。
戦争には、1カケラの幸せすらないからね。
クンツァ王太子殿下たちは安心したように微笑み合い、椅子に座り直している。
ルチルはカーネに、アズラ王太子殿下はチャロに視線を投げ、今日見たことは口外しないことを使用人たちに伝えてもらう。
「お話の内容は、両陛下がいる時におうかがいしますわ。私たちが先に聞いていい話かどうか分かりませんし」
というか、シトリン様たちがいるからね。
ああ、ジャス様にガン見されている。
気づいていないフリをしないと。
それに、最終日までに何が何でも2人と話さないとだわ。
口裏を合わせないと。
「ミソカ様、どうですか? 私ももうルチル様が好きですので、絶対に何もしません。」
「それを信じるかどうかは、まだ難しいと思います。そちらが賠償金でと言うのでしたら、お金は痛くも痒くもないと思いますから」
ミミミミミソカーーーーー!!
ねぇ、あなた、そんな子だった!?
もっと純粋無垢を演じる子だったじゃない。
後継者としては立派だと思うよ。
でも姉は、あざといあなたと戯れるのが好きなのよ。
「それこそ、私と結婚するのがいいじゃないですか。私、人質で嫁いできます」
「ダメだ! 人質なんてダメだ!」
「もう、お兄様は何を言ってるんですか。ポナタジネット国が何もしなければ私の身の安全は保証されますし、私は好きな方に嫁げるんですよ。これ以上ない提案です」
はっきりと好きな人って言っちゃうのね。
クンツァ様、半泣きになってるよ。
「いいですね、それ。お姉様に何かあれば、真っ先に殺せるんですよね」
「はい、構いません」
「その条件でしたら、結一一
「待って! ミソカ、私はミソカにも好きな人と結ばれてほしいの。幸せになってほしいの」
「僕が結婚したいのはお姉様ですよ。でも、それは無理じゃないですか」
頬を膨らませている姿は可愛いよ。
可愛いけどね、シスコンだとしても結婚したいって、あなた今年で15歳なのよ。
急にミソカの将来が心配になってきたわ。
「だから、お姉様を幸せにできる結婚をするんです。お父様もそれでいいって言ってくださっています」
父よ、ダメって叱ろうよ。
「お母様は? お母様は、それでいいって仰ったの?」
「お母様は、アヴェートワ公爵家の女主人を勤められる女性であればいいと仰っています。シンシャ様は一国の王女ですから、社交界も牛耳れるでしょうし、家政も完璧にできると思うんです」
ぐぅ、もう言い返せない……
「私、頑張ります。ルチル様のように新しいアイデアは無理かもしれませんが、社交界も家政も完璧にこなしてみせます」
「約束ですよ。姉のマイナスにはならないと」
「この命を懸けて守ります」
「分かりました。結婚しましょう」
椅子から浮く勢いで喜んでいるシンシャ王女を、全員複雑な表情で見ている。
いいのか、それで? と、全員が思っている。
「ルチル嬢、止めてくれない?」
「私には無理そうです。陛下が止めてくれると信じましょう」
「……無理だと思うよ」
アズラ王太子殿下の呟きは、ルチルにだけ聞こえていた。
次の日から、ミソカも一緒に遊ぶことになった。
シンシャ王女は今までよりも一層楽しそうにしていて、クンツァ王太子殿下は妹の喜ぶ姿は嬉しいが素直に喜べない葛藤に苦悩していた。
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