13
賑やかな昼食は終わり、お茶の時間になった。
今日は、紅茶やコーヒーにラテアートをしてもらっている。
「可愛い。写真撮りたいなぁ」
「撮りますか?」
「カメラあるんですか?」
「はい。といいますか、初日から撮っていますよ」
ルチルが手でチャロを指した。
チャロの手にはカメラが握られている。
「あれ、カメラだったんですか。時々音が鳴っていたのはシャッター音ですか?」
「そうです」
「すごすぎるー」
チャロがシンシャ王女にカメラを渡して、使い方を説明している。
「ルチル嬢、あれを買うこと一一
「できません。数がないんです」
でも、もうすぐ販売されるけどね。
パーツは魔法陣で一瞬で作れるけど、組み立ては手作業なのよ。
あたしにはこの差が理解できないけど、そういうものらしいのよね。
そして、やっと販売可能な数が揃ったの。
両陛下には献上済み。めちゃくちゃ喜んでた。
まぁ、今回外遊中に悪いことをしなければ、お土産としてあげるから。
欲しかったら悪いことしないでね。
シンシャ王女は撮った写真を見て、大切そうに侍女に渡している。
「シンシャ様、そろそろ話してもらっていいかしら?」
「何をですか?」
「あなたが神様に愛されているって、言葉の意味よ」
「それは一一
「ちょっと待って。シンシャ王女、それは簡単に口にしていいことなの?」
「はい。私の国では周知されていますから」
アズラ王太子殿下は、チャロとオニキス伯爵令息を見て頷いた。
2人はテーブルに着いている人以外全員を、姿が見えるが声が聞こえない所まで遠ざけた。
クンツァ王太子殿下は、シンシャ王女に何か耳打ちしている。
「え? え? ルチル様、ごめんなさい!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。いずれバレることでしたから」
アヴェートワ公爵家と神殿の裁判は、泥沼化している。
もしかしたら、そこで神殿が瞳の話をして、あたしの居場所は神殿だとか言い張るかもしれない。
まだ言われてないみたいだけど、どうなるか分からないからね。
「どういうこと? ルチル様、本当に私に秘密事多すぎない?」
「陛下が箝口令を敷かれている事柄なんですよ」
「ええ? こっちでは、そんなに重たい内容になるんですか?」
「はい、私が神様に愛されているなんてバレたら、国中で大騒ぎになりますから」
「は?」
シトリン公爵令嬢が、扇子で自分を仰いで斜め上を見ている。
フロー公爵令息はコーヒーを見つめているし、ジャス公爵令息はアズラ王太子殿下をガン見している。
アズラ王太子殿下は、ジャス公爵令息と目を合わせないようにしている。
「分かったわ。嘘ね」
「どうしてですか?」
「神様に愛されているなら、もっと聡明だと思うの」
ひどい……怒っていいんじゃないだろうか。
「嘘じゃないですよ。ルチル様は瞳に、私は背中に神様から愛されている印がありますから」
「背中にあるんですか?」
「はい。背中に金色で柊の花が描かれているんです。これは生まれた時からありまして、その時は光っていたそうです」
「それで、国を上げて神の子が誕生したってお祝いをしたんだ。トゥルール王国からも祝いの品は届いていたと思うけど」
「僕も生まれた年だし、四大公爵家にも次々と子供が生まれた年だからね。他国のお祝いよりも、自国のお祝いで頭が一杯だったんじゃないかな」
「ポナタジネット国は小さい国だからな。国を上げたお祝いでも他国に周知されないか」
納得した。
洗礼式の時に神官が金色に反応したのは、きっとシンシャ王女の金色の印があったからだ。
トゥルール王国に浸透していなくても、神官ならば知っていたに違いない。
「まさか、ルチル様の金色の瞳って……」
「はい、これは神様に愛されている証だそうです。そして、神様が面白がって色んな物を見せてくれるんですが、それがスイーツやご飯だったりするんです」
「私は作り方まで見えないんですよ。ルチル様は瞳に証があるから見えるのかもしれませんね」
うんうん、その調子で合わせてね。
「でも、治癒は? 金色の魔法は治癒なんでしょ?」
「はい、魔法としては治癒ですよ」
シトリン公爵令嬢が、シンシャ王女を見た。
「私は使えませんよ。使えるのは火と水です」
赤と青を混ぜると紫になるもんね。
両方の精霊から、同じくらい愛されているんだろうな。
ミルクに「色は関係ない」って怒られるだろうけど、勝手に納得しとこう。
「俺も火と水だよ」
「じゃあ、神様に愛されているかどうかは、金色と面白いものが見えるかどうかなのね」
「そうみたいですね」
「これは、両親に話してもいいのかしら?」
ぽんぽこ狸がどこまで知っているのか知らないけど……
「父上に聞いてみるよ。それまでは話さないでいてくれると助かる」
そうなるよね。
「分かったわ」
フロー公爵令息もジャス公爵令息も頷いている。
そこからは、魔法の話になり、男の子たちは楽しそうに話していた。
暇になったルチルたちは、ルチルに視線が集まった。
んー、こういう時は……
シンシャ王女にお化粧の話を振ったら、お化粧もお洒落も大好きだということで、シトリン公爵令嬢とシンシャ王女が熱弁をはじめた。
ルチルは2組の異なる音楽を聞いているようで、優雅にまったりとお茶を嗜んだ。
解散後にシンシャ王女がルチルの元に駆けてきて、小さな声で謝られた。
同じ転生者とも、同郷だとも言えないから、神様に愛されているが無難だと思ったと。
まさか隣国でこうも違うとは思わなかったと、安易に知っている発言もしてごめんなさいと、何度も謝られた。
懐かしくて喜んでくれるだろうと思って、出したのはルチルだ。
もしかしたら何か話すかもと、懸念していなかったわけじゃない。
でも、このメンバーならいいと思ってやったことだ。
そのことを簡単に伝えると、安心したように笑って抱きつかれた。
松本珊瑚は超我儘な子だったかもしれないが、シンシャ王女がそこまで悪い子には思えない。
神殿とポナタジネット国が繋がっているのは間違いないが、どうもしっくりこない。
どうにかして、シンシャ王女ともクンツァ王太子殿下とも個別で話がしたい。
そう思っても、そんなタイミングはなく、毎日入浴時に唸るようになったルチルであった。
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