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とうとう、クンツァ王太子殿下とシンシャ王女がやってきた。
10台の煌びやかな馬車の真ん中辺り、6台目に乗っていた。
降りてきた2人に、ルチルは目を閉じてしまいそうになる。
まぶ、まぶしい!
王族って、どうして美男美女ばかりなの!?
透き通るような肌が儚げな印象を強くしているし、薄桜色の髪が陽に反射して綺麗だし。
瞳は紫色なのね。アメシストみたい。
2人共、完璧すぎる造形だわ。
「ようこそ、トゥルール王国へ」
「歓迎していただき、ありがとうございます」
陛下の言葉に、クンツァ王太子殿下が胸に手をあて頭を下げている。
「長旅は疲れただろう。部屋に案内させるから、まずは一休みするといい」
「お心遣いに感謝いたします」
これが本当の顔なのかと、ルチルがクンツァ王太子殿下を眺めていたら、さりげなくウインクされた。
すぐさま、アズラ王太子殿下がルチルを隠すように斜め前に出る。
その行動を、シンシャ王女は不思議そうに見ていた。
侍従たちに案内される一団を見送った後、ルチルたちは晩餐会の準備をはじめた。
クンツァ王太子殿下たちの部屋には、アヴェートワ商会の石鹸と化粧水たち、手軽に食べられるお菓子とフルーツウォーターを置いている。
きっと部屋でのんびりしてくれるだろう。
晩餐会の食事は、変わり種ではなく親しみが深いだろう食事を用意した。
つまり、洋食のフルコースだ。
食後には、コーヒーとティラミスを用意している。
明日からは、デザート以外も変わり種を色々用意している。
ルチルは、アズラ王太子殿下に対しての、シンシャ王女の我儘がとにかく出ないようにしたいのだ。
だから、兎にも角にも食事や遊びで気を引きたいのだ。
お互いを様子見するばかりの食事が終わり、デザートが運ばれてきた。
コーヒーが目の前で挽かれはじめる。
「コーヒー!? あ、失礼しました」
シンシャ王女のワクワクしている姿に、クンツァ王太子殿下の表情が柔らかくなる。
「このいい匂いの飲み物は、どこで購入できますか?」
「この飲み物は、まだ販売されていないんだよ。今日は、アズラの婚約者のルチルから2人への贈り物になる」
ルチルは、小さく頭を下げて笑みを浮かべた。
「さすがは、我が国でも名高いアヴェートワ公爵家ですね。販売が始まりましたら、ぜひ我が国にも卸していただきたいです」
「ポナタジネット国には、アヴェートワ商会と取引をしている商会は多いですので可能かと思います」
「我が国に支店を出される予定はありませんか?」
「商会の運営は父ですので、私には分かりかねます」
コーヒーが運ばれてきて、シンシャ王女は迷うことなくミルクと砂糖を入れている。
クンツァ王太子殿下は、見よう見まねでミルクと砂糖を加えている。
この日のために作られたティラミスは、アヴェートワ公爵家本邸より運ばれてきた。
ティラミスを1口食べたシンシャ王女が、ポロポロと涙を流しはじめた。
「……美味しい」
えーっと、懐かしくて、嬉しくて泣き出したのかな?
「これを考えたのは、ルチル公爵令嬢でよろしいですか?」
「はい、私です」
ナプキンで涙を拭ったシンシャ王女に真っ直ぐ見つめられる。
「詳しい話をおうかがいしたいので、この後お茶をしませんか?」
「喜んで、お受けいたします」
「私も参加してよろしいでしょうか?」
うーん、アズラ様に来られると困るかなぁ。
あ、オニキス様がいても困るなぁ。
どうしよう……
「アズラ殿下は、私と勝負しませんか?」
「何の勝負でしょうか?」
「オセロです」
オセロ!?
あたしがやりたい!
「賭けるものは、最終日に催ししてくださるパーティーでのルチル公爵令嬢のエスコート権です」
いや、あんたは、あたしと踊りたいと思ってないでしょうに。
「勝負をする必要はありません。ルチルを私以外がエスコートするなんてあり得ません」
「ですから、私が勝ったら譲ってほしいのです。それとも、負けそうで怖いですか?」
「どんな勝負だろうと負けませんよ」
「では、よろしいですよね。勝負してください」
「分かりました」
アズラ様は天才だと知っているけど、オセロって奥が深いのよ。
初めてのアズラ様が勝てるかどうか。
「しかし勝負をする場所は、ルチルたちがお茶をしている同じ部屋にしていただきたい」
「かまいませんよ。私も目の届く範囲に妹にいてほしいですから」
美形2人が微笑み合っている姿は目の保養になるはずなのに、苦笑いも出ないほど怖くて、誰もが視界に入れないようにしている。
陛下がオセロについて質問をして雰囲気は和やかになったが、アズラ王太子殿下の表情は硬いままだ。
「アズラ様、大丈夫ですか?」
小声で話しかけるために体を近づけると、アズラ王太子殿下も顔を寄せてきた。
「心配しなくても、ルチルをエスコートするのは僕だよ」
その心配じゃないよ。
気持ち的に大丈夫かどうか知りたかったんだよ。
「リラックスですよ。気負いすぎると、勝てる勝負も勝てなくなりますからね」
「分かってるよ。任せて」
「頼りにしています、アズラ様」
突然瞳を潤ませるアズラ王太子殿下に驚いたルチルだったが、今泣かせてはいけないと思い、アズラ王太子殿下の太ももに手を置いた。
耳まで真っ赤になったアズラ王太子殿下に、手を退かすように握られる。
小さく笑うと、アズラ王太子殿下も甘く微笑んだ。
その光景を、シンシャ王女はまた不思議そうに見ていた。
クンツァとシンシャ編は長くなりますので、話が綺麗に区切れるところで区切っていこうと思います。
今日は1ページのみの更新です。
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