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緊急の四大公爵家会議が開かれている日曜日。


ルチルは、オニキス伯爵令息とアヴェートワ公爵家のタウンハウスに来ている。

転移陣前でシトリン公爵令嬢を、玄関ホールで馬車でやってきたエンジェ辺境伯令嬢を出迎えた。


今日何をするかというと、バレンタインデーのチョコレートを作るのだ。

去年一緒に作るとシトリン公爵令嬢と約束していたので、どうせならみんなでと、エンジェ辺境伯令嬢たちを誘った。


エンジェ辺境伯令嬢は、ジャス公爵令息へのチョコを悩んでいたそうで、とても喜ばれた。


ゴシェ伯爵令嬢やラブラド男爵令嬢は、母親と作るそうだ。

こういう所でも、ゴシェ伯爵令嬢の新しい家族の仲がいいことを知れて嬉しい。


「ルチル様、難しいのは無理よ」


「分かっています。簡単で美味しいものですよ」


シトリン公爵令嬢は「そうよね」と頷いていて、エンジェ辺境伯令嬢は安心したように体から力を抜いている。


「何を作るの?」


オニキス様は、今年も作るんだね。


「ブラウニーです」


「嘘よね? あれ、簡単なの?」


「簡単ですよ。少し失敗しても美味しいんです。あれほど手作りに向いているお菓子はありませんよ」


「私でも作れるのよね?」


「大丈夫です」


ルチルは、シトリン公爵令嬢と並んで作りはじめた。

エンジェ辺境伯令嬢とオニキス伯爵令息も、ルチルの手元が見える位置にいる。


「まずはチョコレートを溶かします」


刃物は危ないからと刻まれていたチョコレートを、湯煎で溶かす。

別のボウルに無塩バターを入れて練り、柔らかくなったらグラニュー糖を入れて、白っぽくなるまですり混ぜる。

溶いた卵を少しずつ加えて混ぜる。

溶けたチョコレートを加えて混ぜる。

薄力粉をふるいにかけながら入れ、さっくり混ぜ合わせる。


「くるみや砕いたアーモンドを入れたかったら、ここで一緒に混ぜてください。チョコチップとかもです」


「ルチル様は、横に置いているオレンジを入れられるのですか?」


「私は上に置きます」


「私も上にナッツを散りばめるわ」


「私は……えー……うーん……」


「俺、そんなことより気になることがあるんだけど」


「何でしょうか?」


オニキス伯爵令息に、ルチルが作っている生地を指される。


「ルチル嬢のだけ重たそうじゃない?」


バレたか!!!


「私の生地は、皆様のよりもチョコレートが多いんです」


「どうしてよ?」


「こちらの方がよりしっとりと言いますか、チョコレート感が強くなるんです」


ちなみに、ベーキングパウダーを入れるとスポンジ感がプラスされるよ。

ガトーショコラとの違いは卵の使い方で、ガトーショコラは黄身と白身を分けてメレンゲにして使うけど、ブラウニーは全卵のまま泡立てずに使うよ。

材料は一緒でも、ブラウニーの方が簡単なのだ。

ルチル、2口メモでした。


「どうして先に言ってくれないの? 俺もそれがよかったよ」


「今から足されますか?」


「もういいよ。俺はチョコチップにするから、ルチル嬢のブラウニーを俺にも頂戴」


はいはい、分かりましたよ。


「私は、味をみてあげるわ」


普通にあげるよ。


「私は、えっと、端っこの処理をします」


いや、端まで捨てるところないから。

ってか、端っこの処理って。


エンジェ辺境伯令嬢の可愛い理由に、我慢できず笑ってしまった。

シトリン公爵令嬢もオニキス伯爵令息も、顔を背けて肩を揺らしている。


真っ赤で焦っているエンジェ辺境伯令嬢に微笑みかけた。


「全員、それぞれ味見をしましょう。好きな方に渡す前の最終チェックですね」


笑っていた2人が軽く頷いたのを見て、エンジェ辺境伯令嬢は大きく頷いていた。


ルチルは長方形の型に生地を流し込み、オレンジピールを上に並べていく。

シトリン公爵令嬢もオニキス伯爵令息も、後は焼くだけだ。

エンジェ辺境伯令嬢だけが、トッピングを見て悩んでいる。


「エンジェ様。ジャス様は、どんなブラウニーでも喜んでくださいますよ」


「はい。優しい方ですので、失敗しても喜んでくださると思います。でも、やっぱり美味しく召し上がってもらいたいんです」


女の子だなぁ。

甘酸っぱい。


「ジャスはレーズンが好きよ」


「そうなのですね。教えてくださりありがとうございます」


「レーズンでしたら、生地に混ぜるよりも下に置かれたらどうでしょうか?」


「そうしてみます」


幸せそうにレーズンを並べ、生地を流し込むエンジェ辺境伯令嬢を、全員で眺める。

料理人たちが焼いてくれている間は、サロンでお茶をした。


「ねぇ、ルチル様、お茶会でできそうな遊びはない?」


「お茶会でですか?」


「そう、単調で面白くないのよ」


お淑やかな遊びってことだよね。

む、むずかしい……


「お化粧やお洒落のお話は?」


「それはいつもしてるわ。マンネリ化してるのよ」


それじゃ、詩歌を作るとか?

後は、管弦とか?


いやいや、どうしてお淑やかで思い浮かぶもの平安時代なの。


「すみません……私にお茶会の遊びの提供は難しいようです」


「まぁ、ルチル様だもんね」


え? 相談してくれたのに?

ひどくない?


「でも、ルチル様のお茶会は趣向が凝らされていて、とても楽しいですよ。真似している子もいるそうです」


そうなの? 頑張っているから嬉しい。


「ただ、第1回目のお花のお茶会の真似は、誰もできないそうですよ」


あれは、リバー特製の魔法陣が必要だからね。

ん? ものすっごい視線を感じるなぁ。


「ルチル様」


だよね。

話すから、圧を引っ込めて。


「どんなお茶会だったのか、詳しく教えて」


エンジェ辺境伯令嬢にアシストしてもらって、どんなお茶会だったか説明をしていく。

加えて、今までのお茶会の話もしていく。


「テーマを決めるのね」


「はい、テーマに沿って会場も作れますから楽なんです。シトリン様は、どのように催しされるんですか?」


「私は普通よ。とにかく流行りのもの、最新のものを取り入れるの。ほとんどのお茶会は、そうじゃないかしら。この国にない珍しいものがあれば、一目置かれたりするから」


マウント合戦の場が多いってことだよね。

お茶会呼ばれても行かないからなぁ。

今は色々言い訳ができるけど、卒業したら行かなきゃだろうしね。

聞けてよかった。


「よろしければ、お花のお茶会されますか?」


「いいの?」


「はい、シトリン様は特別ですから」


「そ、そうよね! ありがたく使ってあげるわ!」


あらあら。あたしの言葉でも、まだ恥ずかしかったか。


あ、3月の外遊の接待時にも使おうかな。

どこまで我儘な子が来るのか分からないけど、あれには文句言えないでしょ。


ブラウニーが焼き上がったら呼んでくれると思っていたのに、型から外し、切り揃えた状態で呼ばれた。

チョコレートの刻みと同じで、刃物は危ないからとのことだった。

タウンハウスの料理長は心配性だなぁと苦笑いしそうだったが、それが普通だったわと思い直した。


みんなで順番に食べ比べ、それぞれの味を楽しんだ後、全員でハイタッチをして出来栄えを喜んだ。






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読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
〈みんなでお菓子作り〉は、立派に淑やかな遊びと思いました。 刃物仕事が安全に可能なマジックアイテムなど(その他の調理器具も)、有ると良いですね。
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