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2

夜になり、部屋にシトリン公爵令嬢がやって来た。


「今日は、キャワロール男爵令嬢が来られます」


「は?」


何を言っているのよ? って顔で語っている。


「あなた、それアズラ様に話したの?」


「いいえ」


絶対止められるもの。


「オニキスに口止めしたの?」


「いいえ」


オニキス様は、なぜかアズラ様に報告しなかった。

もしかしたら、今日の報告事項として、今頃しているかもしれないけど。

怒られたけど止めなかったってことは、会っても問題ないと判断したんだと思う。


「あの子は何をしに来るの?」


「お願いがあるそうです」


「そう、分かったわ」


シトリン公爵令嬢が力強く頷いている。

何に気合いを入れているんだろうと首を傾げていたら、ノックが聞こえた。


ドアの前にいたキャワロール男爵令嬢を招き入れ、お茶とお菓子を用意する。


「それで、お願いとは何でしょうか?」


「私を専属侍女として雇ってください。光の魔法使えますからお得だと思うんです」


アズラ王太子殿下関係のことかと思っていただけに、全く違う話で言葉を飲み込めない。


「あなた、ルチル様を嫌いでしょ?」


「嫌ってませんよ」


「嫌いじゃないの? あなたが好きなアズラ様の婚約者なのよ」


「まず前提として、私はアズラ殿下を好きじゃありません」


いや、ちょっと待って。

理解が追いつかない。


「何を言っているの? 好きだから付き纏っているんでしょ?」


「結婚したいからアプローチしているだけです。でも、王妃になれそうにないので、王妃付きの侍女になりたいんです」


「意味が分からないわ。王宮に住みたいってこと?」


「そうです」


そうです?


「どうして王宮に住みたいのですか?」


「簡単な話ですよ。神殿に住みたくないんです」


なるほど。分かるわー。


「聖女って甘やかしてもらえるからいいじゃない」


「あんなの表面上だけですよ。どこから話そうかな?」


お菓子を食べながら悩んでいるキャワロール男爵令嬢に、ルチルとシトリン公爵令嬢は横目で視線を合わせた。


「私、本当に可愛がられて育ったんですよ。小さい時から光の魔法の使い手だろうから王妃になれるって、ずっと言われてきたんです。両親はものすごく愛してくれました」


光の魔法の使い手は、王宮か神殿に行く決まりだもんね。


「でも、その愛も10才まででした」


え?


「洗礼式の後からは用無しにされて、神殿に預けられたんです。全く理解できなくて泣き続けました」


はぁ? ここにもクソがいたのか!?


「神殿での生活は最悪で、硬いベッドに殺風景な部屋、美味しくない食事ですよ。どうにか家に帰りたくて、必死に魔法の勉強をしました。治癒を使えれば、両親は迎えにきてくれると思ったんです。でも、使えるようになっても両親は来ませんでした。両親が愛していたのは私じゃなくて、王妃になれる子供だったんです」


つら……辛すぎる……


「だから、王妃になろうと必死なの?」


「そうですよ。もうあの地獄に戻りたくないんです。成人すると更に地獄になりますから」


「どういうこと?」


「神官の夜の相手をさせられるんですよ」


シトリン公爵令嬢が顔を歪ませた。

嫌悪感が、体全体から溢れ出ている。


「あれ? 知らなかったんですか?」


「いえ、私は知っていました」


「そうですか。自分は神殿に行かないから、他の光の魔法の使い手がどうなってもいいと思ってたんですね」


「あなたね!」


「シトリン様」


立ち上がる勢いで怒り出したシトリン公爵令嬢を止めた。


キャワロール男爵令嬢の言うことは最もだ。

そんなつもりはなかったが、知っていたのに何もしなかったんだから、そう思われても仕方がない。

むしろ、自分がキャワロール男爵令嬢の立場なら、恨んでしまっていたかもしれない。


「私、間違ってますか?」


「いいえ、間違っていません」


「ちょ! ルチル様! 何もしていなくないでしょ! 神殿潰そうとしているじゃない!」


「シトリン様!」


シトリン公爵令嬢の口を隠したが、もう遅い。

キャワロール男爵令嬢は、クッキーを咥えたまま固まっている。


「ごめんなさい……父からは内緒だって聞いていたのに……」


おおーい! ぽんぽこ狸!

内緒だよって、教えていい内容とダメな内容があるだろー!


「私が聞き出したの。ルチル様とアズラ様の力になりたいって。だから、父を怒らないで」


身を縮めて小声で謝るシトリン公爵令嬢に怒る気にはなれず、背中を優しく撫でる。


「私を想って言ってくださったことですから、怒るに怒れませんよ。でも、今後は絶対に言ってはいけませんよ。シトリン様に危害が及ぶのは嫌ですからね」


「私だって四大公爵家の娘よ! 大丈夫よ!」


「いいえ、ダメです。私には常にオニキス様がいますが、シトリン様は1人になることもあるでしょう。お願いですから、危ないことはしないでくださいね」


唇を噛みしめて、手を握りしめているシトリン公爵令嬢の手を握り、キャワロール男爵令嬢に視線を戻した。


「今の話は聞かなかったことにしてくれませんか?」


本当に神殿を嫌っているのかもしれないけど、味方かどうかは分からない。

今の話が、全部作り話の可能性だってある。






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― 新着の感想 ―
神殿が、更に糞でした。 キャワロール嬢は、言っていることが事実なら、むしろ情報提供者として機能させると良いですね。 ------------------------------------------…
[気になる点] 確か、娘さえ絡まなければ有能な宰相なんでしたよね? でもこれ普通に怒られそうです。箝口令が敷かれているのにシトリンにはぺろっと喋ってしまうのだから。 これがきっかけで神殿に先回りされ、…
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