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戦場だった場所を、馬でアズラ王太子殿下の元へ駆けていく。

落ちている魔石が地面を埋め尽くしている景色に、血の気が引いた。

それだけ多くの魔物と戦ったということだ。


怪我をしている人が数えきれないほどいて、不安が心を覆ってしまう。

「どうか無事でありますように」と、体が震えないように力を込めた。


「アズラ様!」


「ルチル!」


馬から飛び降りて抱きつこうとすると、アズラ王太子殿下が両手を突き出してきた。


「血が付くからダメだよ」


「そうでした。ごめんなさい」


元気だー。よかった。腕もちゃんとある。


「アズラ様、お父様、お疲れ様です。ルクセンシモン公爵もお疲れ様でした」


「ルチルちゃんに労ってもらうと疲れなんて吹き飛ぶね」


「ありがとうございます」


ルクセンシモン公爵も、まだ元気みたい。


「ルチルにちょっかい出さないで。ジャスに言いつけるよ」


「ジャスは、自分の父親がこういう人間だって分かっているから問題ありませんよ」


「まぁまぁ、アズラ様、先に後片付けをしてしまいましょう。皆様に、アズラ様の凄さを知らしめましょう」


「そうだね」


ふふ、本当にすごいんだからね。


ん?

チャロが誰かを捕まえてきたけど……あの人、何をしたんだろう……

縄で簀巻きにされて転がされる人って、本当にいるんだね……


「あ、石鹸……」


アズラ王太子殿下の手袋には血がべったりと付いているので、鞄から取り出せないようだ。


「私が出しますね」


ルチル自身の鞄から石鹸を出した。

レモンバームの石鹸にした理由は、抗菌、抗ウィルス作用があるからだ。


石鹸を、アズラ王太子殿下の手の上に置く。


「魔力はどうですか?」


「足りると思うから大丈夫だよ。ありがとう」


アズラ王太子殿下が、目を閉じて「洗浄」と呟いた。


辺り一面に霧が発生したかと思うと、霧は一人一人に纏わり付き、水に変わっていく。

竜巻のようにつま先から頭のてっぺんまで周り、重力に従い地面に落ちた。


ものの数十秒で、全員の体が綺麗になり、地面に落ちた水が地面を綺麗にした。

もうどこにも魔物の血は残っていない。


惚れ惚れする。

アズラ様が天才すぎて、あたしが鼻高々になる。


「で、殿下、今の魔法は、どのような魔法でしょうか?」


「ルチルが新しく考えてくれたんだ。魔物退治の訓練の時や、今回のような戦場で役に立つだろうって。ルチル、すごいでしょ」


「何を言うんですか。使えるアズラ様がすごいんですよ」


「違うよ、ルチルがすごいんだよ」


「違いますよ、アズ一一


はい、イチャイチャを楽しんでごめんなさい。

お父様、そんなに大きく咳をしたら、喉を痛めますよ。


「私は、生活魔法と呼ぶようにしているんです。どんな汚れも落とす魔法です。ただ、水魔法の持ち主じゃないと使えないのが残念な部分なんです」


「ルチルちゃんらしい視点なんだね。殿下、私にも使えそうですので、やり方を教えてもらってもいいでしょうか」


「いいよ。それに、侍女に教えてあげると喜ばれるよ」


「はい。洗濯係に物凄く喜ばれました」


「いい考えですね。騎士団の水の魔法の使い手と、我が家の侍女たちにも教えますね」


アズラ様たちと魔物の血が二次災害も三次災害も起こす危険性について考えた時に、血に触らないためには可能な限り血を無くせばいいってなった。

それは、体や服に付いた血も無くさないといけないということ。


その時に、前世で読んだ生活魔法を使っている物語を思い出した。


アズラ様に洗濯機のイメージは難しいから、説明が竜巻になってしまったけど。


そして、洗濯機のイメージがないからか、洗浄をしても全く濡れていないんだよね。

乾燥しなくていいの。すごくない?


色んな意見を出し合って魔法が完成して、本当によかった。


「では、次に怪我の大きさによって、騎士たちを分けましょう。怪我がひどい人から治していきますね」


「いいの?」


ルクセンシモン公爵が、瞳を瞬かせながらアズラ王太子殿下と父に確認した。

2人は、苦笑いをしながら頷いている。

ルチルには何を言ってもダメだと分かっているのだろう。


「元気な騎士たちに言って、グループ分けしてもらってくるよ」


走り去っていくルクセンシモン公爵を視線で追っていると、ミルクがオニキス伯爵令息の肩からアズラ王太子殿下の肩に飛び移った。


『我がアズラを連れて、魔法陣の有無を確認してきてやろう』


確かに、あたしは森の中には入れてもらえないだろうけどさ。

疲れているアズラ様を顎で使うのはミルクだけ……いや、お祖父様やお父様も使いそう……


アズラ王太子殿下に、ミルクの言葉を小声で伝える。


「そうだね。まだ戦わないといけないかどうかによって、色々変わってくるもんね。行ってくるよ」


父とチャロが護衛として、一緒に見に行ってくれるそうだ。


「アズラ様、薬を預かってもよろしいでしょうか?」


「うん、いいよ」


「発症していなくても、全員に栄養剤として飲んでもらいます」


「そうだね、それが災害予防にもなるね」


「念のため、アズラ様もお父様もチャロも飲んでくださいね」


頷いたアズラ王太子殿下から大量に薬を預かり、森に向かう3人を見送った。


魔法陣の見回りをしてくれている間に治しておこうと、ルチルはオニキス伯爵令息と一緒に重度の怪我だろう人たちの固まりに向かって歩き出した。






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