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88 〜 アズラの努力 1 〜

ノルアイユ地区に来てからというもの胸騒ぎが止まらない。


僕が一緒に来たことに、第一騎士団は驚いていた。

僕を守る必要はないと言っておいたが、そういう訳にはいかないのだろう。

ただ、アヴェートワ公爵がずっと側にいるからと伝えると、みんな安心したような顔をしていた。


やはり、まだ僕だけでは実力不足ということだ。

ルドドルー領の時よりも強くなっていると思うが、騎士たちからすれば、まだまだ子供。


そして、この国ただ1人の王子。

死なせてはならないという王子の存在が、足を引っ張るわけにはいかない。


ルクセンシモン公爵が倒れてしまうほどの戦場になるのだから、僕のせいでより過酷な戦況にするわけにはいかないんだ。


「殿下、先ほどスファンと話していたことについて、説明をお願いします」


ルチルのことを説明している時に、後ろから殺されるかと思った。

今も冷や汗が止まらない。


「ミソカからお婆さんに会ったことは聞いているよね?」


「はい。とても喜んでおりました」


「その時に、ルチルが誘拐されることを教えてもらったのと、僕の腕が無くなることを知ったらしい」


「どうして今まで黙っていたんですか?」


「アヴェートワ公爵たちには伝えてもよかったんだけど、ルチルの身の安全のために、会議や話し合いをしているという情報を敵に与えたくなかったんだよね」


「殿下は、スパイがいると思っているんですね」


「そうだね。僕たちの部屋の位置を正確に知っていたんだ。部屋は数ヶ月に1度変えているのにね」


「理由は分かりました。しかし、ルチルがここに来ることは、私は反対です」


「僕も反対したよ。でも僕の腕が落ちる以上、自分は治せるんだからって言って聞かなかったんだよ」


アヴェートワ公爵は安易に想像がついたようで、大きなため息を吐き出した。


「まぁ、潜伏先をスファンの軍幕にしたのは正解だと思います」


「もし、ルチルを追いかけてくるのなら、まず調べるのは僕の軍幕になるだろうからね。チャロは軍幕にいてもらうから、誰か来たら笛を吹いてもらうことになっている。僕の軍幕から笛の音がするんだ。少なからず、誰かが様子を見に来るだろう。その時に捕まえられればいいんだけどね」


「そうなればいいですが、今回はスファンの命優先ですよ」


「分かっている。欲張らないようにするよ」


あっちもこっちもは無理だって分かっている。

全部を気にして、全部が中途半端になってはいけない。

今回の僕の役目は、ルクセンシモン公爵や国民を伝染病から守ること。

ついでに、魔物退治の助力。


ルチルの気配は、まだキルシュブリューテ領にある。

オニキスが側についている。きっと大丈夫。


暗くなるまでにと、森の中の魔物を数体倒して回った。


野営地は、森と街の間の野原になる。

僕だけでも街の宿舎にと言われたが、頑なに断って騎士たちと一緒に過ごしている。


ご飯は、食事の時間になると街から運ばれてくる。

真っ白なパンを見て、ルチルと話したことを思い返していた。


「私、今年こそは餅つきがしたいんですよね」


「餅つき?」


「臼と杵という道具を使ってお餅を作ることを、餅つきって言うんです。とても楽しいんですよ」


「自分たちでお餅を作れるの? それは楽しそう。やってみたい」


笑顔で頷いてくれるルチルに触れたくなって、距離を無くした。

左側に感じる温もりが心地いい。


「それと、お父様に聞いたんですけど、シャティラール帝国で今おこわが流行っているらしいです」


「おこわ?」


「もち米を具材と一緒に蒸したものが、おこわです」


「へぇ、美味しそうだね」


「おこわは作ってもらって、飲茶と一緒に食べましょうね」


「シャティラール帝国は、飲茶が有名だもんね。シャティラール帝国を疑似体験だね」


「はい。いつか一緒に旅行に行きましょうね」


「必ず行こうね」


餅つきは新年祭の翌日、フローたちも誘って、みんなですることになっている。


ルチルとは死ぬまでずっと一緒にいるつもりだけど、約束を1つ、また1つとする度に、早くその日にならないかなと未来が待ち遠しくなる。

寂しかったり、嫌なことがあったりしても、約束を思い出して頑張れる。


今も白いパンを見て、ルチルを思い出して、心が少し軽くなった。


本当にルクセンシモン公爵を助けられるかどうか分からなくて緊張で食欲がないけど、白いパンだけは食べようと思った。


今日までに、やれるだけのことはやった。

薬だって、論文をスミュロン公爵に見てもらい、意見をもらった。

きっと問題なく効くはずだ。

効き目が悪かったら調合し直せるように、薬草を大量に持ってきている。


斑点がある魔物の血には、絶対に触れない。

僕が感染してしまったら、誰が薬を作るんだ。


作った薬もたくさんあるが、もし足りなくなったら僕が作らないと。

作り方は紙に残しているけど、作り慣れた僕が早く作れる。


最悪を想定した場合も考えないといけないけど、考えたくない。

薬が効かなかったらなんて……心が押し潰されそうになる。


大丈夫。問題ない。大丈夫。


ご飯に手をつけないとチャロが心配するので、何とか白いパンだけ食べた。






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