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旅行期間も終わり、みんなが帰ってからは書類のチェックに追われていた。


アズラ王太子殿下は、昨日第一騎士団と父と一緒に、ポニャリンスキ領ノルアイユ地区に向かった。

ポニャリンスキ辺境伯家のタウンハウスまで見送りに行きたかったが、明日からの日をもぎ取るために身動き取れないほど忙しくて無理だった。


ルチルも明日、正確には今日の夜中に、ポニャリンスキ辺境伯家のタウンハウスから移動することになっている。


移動を知っているのは、ジャス公爵令息とエンジェ辺境伯令嬢のみ。

ジャス公爵令息が、オニキス伯爵令息と一緒に、ポニャリンスキ辺境伯家のタウンハウスまで護衛してくれる予定だ。

エンジェ辺境伯令嬢には、旅行期間中に「誘拐計画を事前に掴んだ。身を隠すために協力してほしい」とお願いをして、何とか了承をもらえている。


ヘリオ子爵令息と黙々と書類を捌いていると、ケープが執務室に入ってきた。


「ルチル様、リバーという名の者が面会を希望しております」


「リバーが? 何をしに来たんだろ?」


「お知り合いでしたか」


「ケープは会ったことなかったわね。魔道士部門の長よ」


「あの者がですか……」


どう見ても奇天烈なお兄さんだもんね。

信じたくない気持ち分かるよ。


「応接室に通しておいて。すぐに行くわ」


区切りのいい所まで進め、ソファで「ハックとスペッサル」の続きを読んでいたオニキス伯爵令息と、応接室に向かった。


応接室の前でお茶を持って来てくれたカーネと合流し、中に入る。


「リバー、何をしているの?」


リバーは、部屋の中を忙しなく動き回っていた。


「ルチル様のことだから、面白いものを隠していないかと思いまして」


「応接室に、そんなことしないわよ」


「残念です」


ソファに向かい合って座り、カーネが淹れてくれたお茶で一息つく。


「今日は、どうしたの?」


「ビデオが完成したので持ってきました」


おおおおおおおお!


リバーが鞄から取り出したビデオを受け取り、色んな角度から見やる。

どこからどう見ても、カメラと同じ形をしている。

1つ違う点は、背面部分に差し込んでいる水晶のようなガラスのような石が半分見えていることだ。


「どうやって使うの?」


「カメラと同じで、背面の右下にある窪みに魔力を流します。魔力を流している間撮れます。写したものを見る時は、左の窪みに魔力を流せば、レンズを向けている壁に映ります」


「すごいじゃない! リバー、天才だわ!」


「そうでしょ、そうでしょ」


「カーネ、ミルクを連れてきて」


静かに頷いたカーネは、すぐさま部屋を出ていった。


「1番はミルクでいいんですか?」


「アズラ様じゃなくってってこと?」


「はい」


「アズラ様は忙しくて、次に会えるのは新年祭なのよ。その時にたくさん撮らせてもらうわ。どれくらいの時間撮れるの?」


ビデオは5時間撮れるらしく、後ろの石を交換することで、また新しく撮ることができるとのことだった。


「ルチル様、新しい何かありませんか?」


「その前にビデオを何個か作ってね。絶対お祖父様もお父様も欲しがるわよ」


「私は、同じ過ちを繰り返さないのです。タンザ様とアラゴ様の分は作成済みです」


「え? リバーにそんなことできるの?」


「ひどいです……」


シクシク泣かれても、全く気にしない。気にもならない。


「そういえば、録音機は?」


「そちらは、もうすぐ完成するそうですよ」


「みんな優秀だわ。ありがとうって伝えておいて」


さっき料理長に作ってもらったポテトチップスを、お土産に持って帰ってもらおう。


ポテトチップスは、ジャス公爵令息とエンジェ辺境伯令嬢へのお礼に作ったものだ。

きっと気に入ってくれるだろう。


「そうだわ、リバー。1つ相談したい魔法があるんだけど」


「何ですか?」


眩しいほどの輝きが、リバーの瞳から溢れている。

ルチルの相談は難解で面白いが、リバーの中で当たり前だからだ。


「旅館の話は知っているわよね。地下に熱いお湯があって、そのお湯を旅館にひっぱってきたいのよ。お湯の場所が分かる魔法ってないかしら?」


「お湯があるのは確実なんですか?」


「ミルクが言っているから確実よ」


「井戸みたいなものを作って、転移陣を応用して、お湯を移動させるのはどうですか?」


「そんなことできるの!?」


「できると思います」


リバー、天才すぎない。ありがたいわー。

モグラの道みたいに土魔法で配管もどきを作れるかどうか、魔道士の人たちに聞こうと思ってたのよね。

でも、その場合、源泉がどこにあるのか分からないと無理だから、それをどうするか考えてたのよね。


ってかさ、その魔法陣が完成したら……

もう水道じゃん! すごっ!


「作って! リバー、お願い! きっとリバーにしか作れないと思うの」


「楽しそうですからね。作りますよ」


「ありがとう! 作る時なんだけど、不正できないようにしてほしいの。他の人が、そこからお湯を取ろうとするのを防ぎたいのよ」


「難易度上がりました……」


「リバーなら大丈夫!」


そこへ、ミルクを連れてカーネが戻ってきた。

ミルクは、すぐにルチルの膝の上に飛び乗ってくる。


『ケープと遊んでいたのに、なんだ?』


ミルクはケープを気に入っていて、弟がいない時はケープの側にいることが多い。

ケープが邸内を動き回っている後ろをついて行くだけで、いい運動になるそうだ。

時々、ケープがわざと走り出すのが楽しいらしい。

遊んでいるというより、カルガモの行進、いや、金魚の糞なのだ。


「今からミルクを撮るから、話しながら動いてほしいの」


ビデオを、ミルクに向けて魔力を流す。

ミルクは興味なさそうに周りを見渡して、机の上のスイーツで視線を止めた。

机に飛び移り、マカロンを食べはじめる。


「食べるんじゃなくて話してほしいの」


『いつも撮っているだろ』


「これは、いつものやつじゃないのよ」


『勝手に撮ればよい』


そんなことを言う奴にはと、食べているミルクを撫でて、お尻を振ってもらった。

何回も撫でていると『食べにくい』と怒られる。


そこまで撮って、壁に投影した。

左右反転もなく、綺麗にカラーで再生される。


おおおおおおおお!

ビデオだ! ビデオだよ!

アズラ様をめちゃくちゃ撮ろう!


本当にルチルがお願いした通りの魔道具で、オニキス伯爵令息もカーネも、驚き半分、感動半分といった様子だ。


「リバー、ありがとう! 嬉しいわ!」


「いえいえ。これからも奇想天外なものをお願いします」


リバーにポテトチップスを渡し、満足げで足取り軽いリバーを見送った。






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