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次の日の午前中、男の子たちが祖父に猛特訓されている間に、女の子たちは旅館の話に花を咲かせている。
シトリン公爵令嬢には、オルアール男爵のスケッチブックを見てもらっている。
「これがオルアール男爵の絵で、茶器や照明に描いてもらうのね」
「はい」
「ルチル様」
「何でしょう」
「絶対に流行るわ」
だよね、だよね。
流行ると思っているけど、シトリン様の意見聞いて安心したわ。
はぁ、よかった。
「この絵に合う家具をってことよね」
「はい、そうなんです」
「分かったわ。調べてみるわ」
「ありがとうございます。アヴェートワ商会の協力もありますから、何でも仰ってくださいね」
「分かっているわ」
「それと、ベッドだけはもう決まっているんです」
「どんな形なの?」
「なんとウォーターベッドです」
うん、全員止まるよね。
魔道士のみんなだけだよ、名前だけではしゃいでくれたの。
「お水のベッドですか?」
「お水の上で眠れるんですか?」
「試作品があるんです。体験されてみませんか?」
「するわ」
人のこと言えないけど、シトリン様って好奇心旺盛だよね。
そんなところも可愛いんだよねぇ。
ウォーターベッドが置いてある部屋に移動し、我先にとシトリン公爵令嬢が寝転んだ。
仰向けから左右に寝返りを打ち、声にならない声を上げている。
「ほしいわ」
「まだ試作品ですよ。それに、販売はしないんです。ですので、こちらの試作品でよろしければ差し上げますわ」
「いいの!?」
「はい。ただ、このベッドは1人用なんです」
「2人は眠れそうですよ?」
「動くと、一緒に眠っている相手に振動が伝わりやすいんです」
「1人で寝るから問題ないわよ」
「フロー様と眠られるのは結婚してからですもんね。要らない注意事項でした」
「そそそうよ!」
昨日の夜にアズラ王太子殿下にも試してもらっていて欲しがられたが、同じように説明をしたら諦めていた。
エンジェ辺境伯令嬢にもラブラド男爵令嬢にも試してもらい、高評価をもらった。
昼食後は、ルチルは領地内貴族との会議があるので、ルチルとオニキス伯爵令息以外は馬で遠乗りに出かけるそうだ。
ラブラド男爵令嬢は馬に乗れないそうで、執筆の続きをするらしい。
上手く断る理由が思い付かなくて「寝ます」と言っていたのを、オニキス伯爵令息が笑っていた。
違う日には、オルアール男爵家の引っ越し先の家を案内しながら、広場を見つけたら羽子板や凧揚げをして遊んだ。
そして、ルチルがオニキス伯爵令息と地道に作ったカルタは、トランプと同じくらい白熱した。
子供たちの中ではアズラ王太子殿下がとにかく強かったが、たまに様子を見にくる祖父と父と勝負をすると手も足も出ないようだった。
絶対に勝つと何度も挑んでいるアズラ王太子殿下が楽しそうに見えて、忙しい中でも思い出に残ることがあってよかったと思った。
遊びと執務を繰り返す日々で体力も限界だったが、定期的に好きな人に会えることは活力になるし、気心知れた人たちに相談できる環境は心に余裕を持たせてくれた。
第3章は後1週間かからず終わります。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
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